第19話 初仕事準備
ディートさんの話によるとハンターギルドに登録さえしておけばランクに関係なくどんな魔物でも買取はしてもらえるため、特にランクを上げる必要性を感じたことがないそうだ。
逆に、未登録者はギルドでの買取金額で少し損をしてしまうらしい。
ではなぜDランクまで上がっているのかというと、依頼には事後報告のみのものがあるため、倒した魔物を買取してもらうだけでわずかではあるがランク昇格の評価対象となるからだそうだ。
「じゃあディートさんはギルドで依頼とか受けたことがないんですか?」
「いや、さすがにいくつか受けたことはある。とくに薬草採取の依頼は結構受けてるぞ、森でついでに取ったものを提出するだけだからな。あとは緊急依頼とかもたまに受けるくらいか。手頃な依頼なら受けたりもするさ、その方がお得だしな」
「なるほど」
ーーー
ハンターギルドの依頼はいくつかの種類に分けることができる。
大きく『自由依頼』『制限依頼』『指定依頼』『緊急依頼』『強制依頼』の5つに分かれている。
自由依頼はランクに関係なく受注できる依頼のことで、自由依頼掲示板にはパーティメンバーの募集など受付で正式に受注しなくても良いものも張り出されている。
制限依頼は自由依頼と対象的に定められたランクを満たしている場合受注することができる依頼のことだ。これは基本的にギルド側が判定した推奨ランクであり、例えばDランクが推奨ランクとされていた場合、Dランクハンター以上の者が受注することが可能となっている。
指定依頼とはハンター個人を指定したり、受注するハンターの性別、年齢、種族などをを限定する依頼など、ランク以外のことも指定するもの全般を指す。
緊急依頼はそのままの意味で、依頼の詳細を決める時間のない時や受注者に早期解決を求められる依頼のことである。ギルド側が実力を認めればランク関係なく受注を頼まれることもあるらしい。そしてもちろん報酬も良い。
強制依頼は緊急依頼よりもさらに逼迫した状況の場合に付近にいるハンターに強制的に受注させる依頼のことである。非常時にしか発生しない依頼なので運が良ければ一生立ち会わずにハンター人生を終える人もいるそうだ。
ハンターの中では自由依頼と制限依頼のことを『普通依頼』、指名依頼や緊急依頼、強制依頼をまとめて『特殊依頼』と呼び分けていることが多いらしい。
ーーー
そんな話をしつつギルド内の食堂で軽く休憩し、帰りに市場に寄ってから一度宿屋の部屋へ戻った。
部屋で今後の予定などを話すためだ。
「さて、今後の予定だが。とりあえずこの街には3日ほど滞在しようと考えている」
「3日もですか。その間の修行とかはどうするんですか?」
「あぁ。俺はこの三日間でこれからの修行の準備を整える。その間クルトはギルドで仕事にでも挑戦してみるといい。いい経験になると思うぞ」
「うーん、そうですね。じゃあ何か受けてみることにします」
そうして、僕はこの三日間で初めてのハンター活動というものをしてみることとなった。
というわけで翌日、朝早くから一人でギルドに赴き掲示板を眺める。
Eランクハンターの僕が現在受けることができる依頼はEランクまでなのでその中から依頼を選ばなければならない。
まあ、初めての依頼だからそんなに無理なものを受けるつもりもないんだけどね。
簡単なやつ、簡単なやつっと。
そうして眺めていると、「おい、坊主。新人か?」と後ろから声をかけられた。
振り返ると、30歳過ぎぐらいで僕の身体の何倍も大きな体躯をした男性がこちらを見据えてきていた。
少し怖そうだなぁ、スキンヘッドだしと思ったことは口に出さずに返事をする。
「はい、なんでしょう?」
「そろそろ若くてやんちゃなやつらがワイワイ来る時間だからな。依頼を決めてねぇなら早く決めちまうか向こうのテーブルで落ち着くまで待っといたほうがいいぞ」
おっと、見た目に対してなんとも優しいおじさんだった……怖いとか思ってごめんなさい。
「わかりました気をつけますねっ。ありがとうございますっ!」
僕がそう答えると、屈強そうなおじさんは「おぅ、クエスト頑張れよ」と行って隣接されている酒場の方へと向かっていった。
というか、おじさんは依頼を受けないのだろうか。こんな早くからお酒かな?それともこんな遅くまでお酒かな?と無駄なことを少し考えてしまった。
気を取り直して依頼を探す。
結局、おじさんの言うように混み合いそうだったので今日のところは初仕事には無難な薬草採取の依頼をすることにした。これは特に『常設』と呼ばれる自由依頼の一種だ。
常設とは自由依頼の中でもギルド側が出している依頼で、薬の調合によく使われる薬草や動植物の部位、魔物の部位などのいくらあっても困らないような素材を集めるための依頼だ。
基本的に報酬はなく買取代金だけもらうことになるのだけど、いちいち受理とかしなくて良い分簡単に受けられる。
てな訳で、商店で働いていた時から常に持っているメモ帳にざっと薬草の名前を書く込んでいく。
薬草といっても効能によって種類が異なるので、とりあえず10種類くらい書いてから、ハンターギルドを出る。あまり長居はしていなかったはずだけど、この短時間で少し混み始めていたので早めにきて正解だなぁと思いつつ、街の露店の方へと足を運び、いくつか必要になりそうなものを買ってから街を出る。
さて、いよいよハンターとしての初仕事だ。