第17話 街に入ろう
※この話を書くにあたり15話および16話での修行の日数を変更しました。
僕とディートさんは現在……領都フィルラントに入るための列に並んでいる。
こんな光景は初めてだ。僕が今まで住んでいたカルケス村はもちろんのことティルゴの町でも、この街のようにしっかりと周りを立派な壁で守られていたり、出入り口の門前には門番がいたり、街に入るためには一人一人検分する、なんてことは一切なかった。
「はぇー」
「まだ街にも入れてないのに、初めての都会に興味津々って感じだな」
「はいっ、こんなに多くの人が並んでるのなんて見たことないですよっ!」
そう、門の前には街に入るための人たちによってずらりと行列ができているのだ。
正直、この並んでる人達だけでティルゴの人口くらいはあるかもしれない。
すると隣でディートさんが「うーん」と考え込んでいるので聞いてみた。
「どうかしたんですか?」
「いやな……たしかにちょっと並んでる人数が多いなぁと思って。それにさっきからあまり検分が進んでないようだしな」
「そうなんですか。僕は初めてなんでこれが普通なのかと思ってました」
「確かにフィルラントはこのフェルト辺境伯領の領都でフェルト辺境伯のお膝元だから人口は多いはずなんだがな。こんな時間にここまで人が残ってるのはこの国じゃあ王都くらいだと思うわけよ……やっぱ気になるな。ちょっと聞いてみるか」
そう言うとディートさんは僕に「ちょい並んで待っといてくれ」と言う言葉を残して、列から離れていった。
残された僕は一つ後ろに並んでいた馬車にディートさんが列から離れた事情を話して、この位置に戻って来れるようにお願いした。幸い、後ろの馬車にいた男性は気のいい人のようで快く承諾してくれた。
「ありがとうございます!」
僕が礼を言うと、男性は声を上げて笑いつつ僕を褒めた。
「ははははっ……若いのにずいぶん礼儀がいい子だ、領都には粗野な若者も多いからねぇ。けれど確かに君のお兄さんの言うとおり今日は特に列が長い気がするよ」
「そうなんですか、僕は初めて領都に来たのであまりわからないのですがいつもはこれほどじゃないんですか」
「そうだね、私も長年この街には来ているがこんなに列が長引くのは初めてかもしれんよ」
「やっぱり何か理由があるんでしょうか」
「さすがに何もないと言うことはないんじゃないかな。何かしらの理由はあると思うよ、君のお兄さんがその辺も調べてきてくれるかもしれない。もし何かわかれば私にもぜひ教えてくれないか?」
男性が爽やかな笑みを浮かべて聞いてきた。僕はその男性の顔を見てあることに気づきニヤリと笑う。
「そうですねぇ……兄の情報にもよりますけど。何か分かれば内容によってはお話しさせていただきますよ?」
僕がそう答えると、男性は口元は爽やかな笑みのまま目を丸くさせた。数秒ほどキョトンとしてから先ほどのお世辞の時と異なり大きく体を使って笑い出し、先ほどまでの大人びた言葉遣いとは異なり砕けた言葉遣いで話だした。
「あっはっはっ!いやぁ、これは本当に驚いた。まさか君のような歳の子がひとりで僕にそんな話を持ちかけてこれるとは。よくまぁ見抜いたものだよホント……ただで情報が手に入るかと思ったんだけどなぁ。うん、もし良さげな情報が手に入ったのなら買わせてもらおうかな」
僕は男性の態度の変わりように少し驚いたが、同時にやっぱり先ほどまでの喋り方はわざとだったのかと納得もした。
「やっぱりですか……毎度ありです。あなたの顔を見てそんな気はしたんですよ、この話は売れるネタだなって。……僕みたいな子供をわざわざ持ち上げながら丁寧な話し方をする人はだいたい同じ顔をしてましたし」
「いやなるほど、これは一本取られたね。格好からハンターの卵かと思って油断していたよ……商人の卵なのかな?」
「いえ、どちらかと言えばハンターの卵で合ってますよ。商店で働いてはいましたし、店主には商人の才能があるって太鼓判はもらってましたけど……」
「はははっ、確かにそうかもね。うん、僕もそう思っちゃうよ……すぐにそんな返しができる人は大人でもそうはいないかもね。気に入った……名前は聞いてもいいのかな?僕はアクセル。アクセル=ソータスだよ。一応いまは行商人としてこの街に来てるんだ」
「やっぱり商人さんでしたか。僕はクルトです、クルト=クールベル。よろしくお願いします。」
「こちらこそよろしく。君のお兄さんが来るまで少し話さないかい?」
「はい、もちろんいいですよ」
そうして、数十分ほどアクセルさんと話し込んでいるとディートさんが戻ってきた。
「この短時間でずいぶん仲良くなってるじゃん」
「あ、師匠お帰りなさい。結構かかってましたね?」
「情報集めってのが一番時間がかかるもんだからな……んで、そちらの商人さんは?」
「あぁ、私はアクセルというものです。クルト君とは少しばかり意気投合しまして」
「へぇ。そう言えばクルトも商人してたんだもんな。話も合うわな」
それからディートさんとアクセルさんが軽く自己紹介をしてから、聞いてみた。
「それでディートさん、何かわかったんですか?この時間で結構進みましたけどあと10組ぐらい残ってますね」
「あーそれな。それなりに聞き込んできたぜ。アクセルくんも聞きたいか?」
ディートさんはアクセルさんのことを君付けで呼んでいる。アクセルさんは見た目では20前半くらいなので確かにディートさんよりかは年下なのだろう。アクセルさんは気にしてないようだけどそのくらいの歳で君付けってされるものなのかな?
「そうですね、私としても聞きたいです。話してくださる内容によっては見返りも用意しますよ」
「そうか。じゃあ話すとしよう。とは言ってもそんなに変な話じゃないし勿体ぶることでもないんだがな。最近この辺では大きな盗賊集団による被害が出てるらしいんだと」
「あぁ、その話は知ってます。なんでも元々は小さな盗賊だったらしいのが急に力をつけてきたとか。その盗賊が原因というわけですか」
アクセルさんがそう返すと、ディートさんは「いや」と言って続けた。
「その集団はすでにハンターギルドがあらかたの討伐を終えたらしいんだが、問題は残党が残っていることだ」
「……なるほど、そういうことでしたか。確かに面白い情報でした、ここまで聞ければ十分です。しかしよくこの短時間で集められましたね……こちらはその実力も含めた代金ということでお納めください」
アクセルさんはそれだけで理解したようで、ディートさんにおそらくお金の入っているであろう巾着を渡していた。
その後少し話してからアクセルさんは「さて、私はそろそろ検問の準備をするとしますね」と言って自分の馬車の方へと戻った。
「よし、俺たちもそろそろ検問だな」
「はい」
そうして僕たちの番が来て、検問をされた訳だけど門番さんは何か紙を見たりしつつ僕たちに街に来た理由などを軽く質問してあっさりと終わり、普通に入れた。
「案外すんなりと終わるんですね……検問って」
「俺たちは馬車じゃないから荷物が少ないからな。それでもなんだかんだ3分はかかっただろ?これが馬車だと10分はかかる。1組10分もかかればそりゃあ列もできるわな」
「そう考えるとそうですね」
「まぁ、身分証があればもう少し早く済む訳だが。そういう奴らは隣に列があったろ?」
「あー、あれってそういう列なんですね。ってことはアクセルさんも身分証がないってことですかね?商人なのに」
「商人ギルドに入るのには、ハンターギルドよりも厳しい入会規定があるからな。若い行商人じゃあなかなか入れないんだろ」
「そうなんですね。まぁ何はともあれやっと都会入れましたね、領都フィルラント!」