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クルト〜冒険の正体〜  作者: 氷原結
第二章 修行の旅路
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第16話 到着




「さっきも言ったが、俺はそのセレナっていう子のことはほとんど知らない。知ってるのはリオンハルトの神童って呼ばれていることぐらいだ。正直その子についてはクルトの方が詳しいだろう。しかし、俺が修行のレベルを上げた理由はその子自身のことではなく、その子がリオンハルトの家系ということが原因だ」


「リオンハルトの家系が理由……ですか」


「正確には、その子がもしリオンハルトの正統後継者であればそのための修行は苛烈を極めているだろう……ってことだな」


「正統後継者?」


「まあ簡単に言えば、セレナが正式にリオンハルト流剣術の次期当主になるってことさ。そして、リオンハルトの神童とも呼ばれる天才児を次期当主に据えようとするのは普通に考えれば、名門一家の当主なら当然だろうしな」


「えーっと、要するにセレナは次の当主になるために凄い修行をしているってことですよね?」


「そういうこった。クルトが本気で再戦に勝ちたいってんなら、初日のレベルの修行じゃ間に合わないだろう。だから短期間で基礎体力と運動能力を今から半年ほど掛けてみっちり叩きこむ。それから残りの1年ほどで技や作戦を練ろうってことだ」


「半年ですか。それはやっぱりさっきみたいなレベルってことですよね」


「ま、そうなるな。もしくはそれ以上になるかもしれんぞ」


 お茶を飲み少しだけ時間をかけて心を落ち着かせる。でも、まあ答えは決めてるんだけどね。


「はい、わかりました!よろしくお願いします!ディート師匠っ」


「ふっ、流石にもうこの程度で怯んだりはしないか……じゃあお言葉に甘えてうんっと厳しくするか」


「それで、セレナを守れるくらいに強くなれるのなら!」


「あーそうか。その子に助けられたんだっけ?だから今度は自分が守れるくらい強くなりたい…‥と」


「はいっ!命の恩人ですから!」


「なんだ、その子のことが好きだからとかじゃないのか」


「へっ?そりゃあ普通に好きですよ?」


 僕がそう答えると、ディートさんは薄く笑いながら揶揄うように口を開く。


「あー、まだクルトにはこういう話は早かったかぁ〜」


「えっ、なんですか?なんの話ですか?」


「はははっ、まぁその辺もおいおいわかるようになるさ」


「ちょっと!はぐらかさないでくださいよぉ!」


それからも少しだけ抗議はしてみたがはぐらかされ続けたので諦めて身体を休めた。



 そうしてしばらく休んでいる時にふと気になることがあったので聞いてみた。

ここは森を抜けたすぐそこのひらけた場所で休憩していたため、森の方はよく見える。


「森の魔物とかと戦って修行、とかはしないんですか?」


「んー。それはもうちょい基礎が出来上がってからだな。基礎もなってないうちじゃあ、あんまりいい経験値にはならんし」


「そうなんですか」


「ま、そんなに期待しなくても半年後には馬鹿みたいに魔物との戦闘もやることになるから気にしないでいいさ。とりあえずは2日後にはフィルラントに着くことを目指すぞ」


「はいっ、がんばりますっ!」


「よしっ、昼飯食ったらまた走り込みだからな。しっかり食っとけよ」


「はい、いただきます!」


 そうして僕はしばしの休憩を楽しんだ。




修行6日目


「はぁーはぁーはぁー……。やっと終わった……はぁーはぁー」


「疲れてるなぁ、水でも飲むか?」


「いりませんよっ!どんだけ水飲んじゃったと思ってるんですか!お腹タプタプですよもう……うぷっ」


 森を抜けて湖が見えたと思ったら、ディートさんによってこの端の見えない広大な湖を泳いで渡らさせられた……もちろん、ディートさんは括り付けたままだ。

木の板+大人1人を、引っ張ってゴールの見えない遠泳なんて森の時よりも苦行だった。

なんども「あとどれくらいですか」と聞いても「まだ端っこ見えないわぁ」と言われる苦痛は例えようがなかった。

沈みかけたらその都度ディートさんの魔法か何かで浮かばされて軽く電気ショックを当てられる。

僕はセレナとの再戦までに何度「死ぬかと」思うことになるのだろうか……先行きが不安だ。




修行7日目早朝


 湖を抜けて、近くに小さな森のあるひらけた場所で一夜を明けた。


「今日の夕方にはフィルラントに着けそうだな」


「あの、一つ気になってたんですけど」


「ん?」


「毎朝やってるこの《座禅》?でしたっけ?これって何の修行なんですか?」


 修行を開始した日から毎朝ディートさんに言われて行なっている《座禅《ざぜん》》と呼ばれる修行がどのような効果があるのかわからないため聞いてみることにした。

 

「あー、言ってなかったな。なんて言うかこれは気と魔力の基礎修行ってやつかなぁ」


「いつになく曖昧ですね」


「俺は元々感覚派ってやつでなぁ……どうも説明が苦手なんだ。まぁ弟子を取ったからにはちゃんと教えてやるつもりだから気になることはじゃんじゃん聞いてくれ」


「じゃあ遠慮なく、この座禅をすることで気と魔力の両方を修行できるってことでいいんですか?」


「そうだな。本来その2つを両方扱える奴は多くないから知られていないが、この2つのエネルギーは結構似てるんだ。そしてこの修行は気や魔力を引き出すための精神統一の修行だ。これをやれば気や魔力が使えるわけじゃないが、これをやっておけば気や魔力を扱うときに滑らかに引き出せるようになったりする……簡単に言えば気とか魔力に慣れるって感じの修行かな」


「うーん?」


「まあ、クルトもいずれなんとなくわかるようになるさ。それに本格的な技の修行の時にきちんと説明するつもりだしな。いまはまだ『とりあえずやっとこう』ぐらいの気持ちでいいさ」


「はい」


「よし、じゃああと1時間くらいこれやったら朝飯食って一気に街まで行くぞ!」


「オーッ!」





修行7日目 昼過ぎ



「思ってたより結構早くついたな。よく頑張ったな」


「はぁはぁ……はい」


「ん?どうした。何かあったか?」


「ふぅー。いえ、今日ってどれくらいの距離走ったんですかね?


「今日は位置的に40kmくらいは走ったんじゃないか?」


「なんか疲れてはいるんですけど、思ったよりは楽だった気がして」


「まあ、そりゃそうだろ。たった5、6日くらいだが山とか崖とか森とか湖とか色々走ってるからな。今日の道のりはまっすぐな直線だけだったから精神的にもそこまで辛く感じなかったんだろう」


「はー、凄い効果ですね」


「効果っていうか、若干麻痺ってるだけだ……今はな。これからもっとレベル上げてくことになるし、ペースだって上げてく。第一目標はこれくらいじゃ息が上がらないことだな。ま、とりあえず今は初めての街を楽しむことだな」


 そうだった……ようやく着いたんだった。


「はいっ!」


「んじゃあ入るぞ。迷子になんなよ」


 そうして僕は初めての都会……辺境領都、《フィルラント》に到着した。









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