第14話 そして弟子になる
ハードウルフを追ってディートさんの方へ向かうと、五匹いたクマのうち四匹が倒れていた。
「おっ、倒せたようだな。じゃあこいつも頼むぞ〜」
ディートさんはそう言い、僕のいた方に残りのハードウルフを投げてきた。
いきなりでびっくりして「うわぁっ!?」と言いながら避ける。
「ちょっ、いきなり投げてこないでくださいよっ!びっくりしたじゃないですかっ」
「はははっ、悪い悪い。まぁクルトもこっちに逃がしてきたんだからおあいこってことで頼むわ」
「もうっ」と言いつつ、投げられたハードウルフの方を見ると僕がもう一体の方を倒したことに気づいたのか距離をとってきた。
僕が先ほどのハードウルフを倒した時と同様に火の魔法を放つ準備をしていると、ディートさんが難問を出してきた。
「さっきはファイアボールで倒したみたいだから、次は違うやつでがんばれ」
「えっ!?」
「強くなりたいんだろ?それじゃあどんどん新しいことやらんとな」
納得した。確かにさっきの火魔法……ファイアボールというらしい。それを使えば確実に倒せると思うがディートさんのいう通り、僕の成長には繋がらないだろう。
ならどうやって倒そうか、と考えているとハードウルフの方が攻勢に出てきた。
一瞬剣で対応しようかと思ったけど、それじゃあ防げないのを思い出し急いで横に飛び込んだ。
「グルゥ!」
危なかったぁ……早くいい倒し方を見つけないとこっちがやられちゃう。
それから何度か攻撃をかわしているが、いまいちいい案が出てこない。
なら、ディートさんはどうやって倒してるんだろうかと思い見てみると、ちょうどイノシシの魔物を殴り飛ばしているところだった。
「あれは参考にはならないかなぁ」
その間もハードウルフは襲ってくるので勢いよく距離をとり、木々を盾に隠れた。
ふと足元を見ると倒れているクマの魔物が倒れていて、その身体ををみると大きな焦げ跡があった。
ピンときてクマに剣を刺そうとすると思ったとおり硬くて刺さらない。こいつもハードウルフと同様に剣に対する耐性が高いみたいだ。
「ということは」
ディートさんはどこかと探すと、今度は1体残ったクマの魔物と対峙していた。
クマが前足で摑みかかる瞬間にかわすのではなく、逆に踏み込んで懐に入るディートさん。
そのまま右の正拳突きを繰り出す、そして右腕全体が紫の光を放っていた。
「グァッ!」
それを食らったクマはディートさんの右腕と同じ紫の光が全身に駆け回り、全身から煙を出して沈んでいった。
その光景を目にして、僕は気づいた。
「なるほど、あれも魔法かぁ。ってことは僕も同じようにすればおそらく……よしっ!」
ディートさんがいま使ったのは多分雷魔法じゃないかと思う。本で読んだことはあるけど、周りに使っている人はいなかったので見たことはなかった。僕にできるのは水か火なので、やはりここは確実に効果のある火魔法で行こう。自分の体にやるのは怖かったので、剣に炎を纏わせようと思う。
剣を抜いて意識を集中し、火の玉を出すときと魔力を剣に纏わせる時の要領で剣身に火を纏わせる。
軽く素振りをしてみるが、特に違和感がなかった。いつまで保つかわかんないし、このまま行こう。
木々が密集していない少しひらけた場所におどり出ると、こちらを見つけたハードウルフが勢いよく突っ込んでくる。
火を纏わせた剣を体で隠してギリギリまで気づかせないようにし、案の定気づかずに突っ込んできたハードウルフが飛びかかってくる。
勢いよくハードウルフの首めがけて火の剣を振り抜く。
「はぁっ!」
ーーガッ!
「ギャゥっ!」
後ろからハードウルフの叫びが聞こえ、やったと思って振り向く。
すると確かに傷はつけられたようだけれど、そこまで深くなかったようでこちらに追撃を仕掛けようとしてくるハードウルフの姿が見えた。
慌てて剣で対処しようと構えると、剣は中程からポッキリと折れていた。
「折れてるぅっ!剣って結構するのにっ!」
そうは思いつつも、切り替えて正面を向く。
ハードウルフも剣が折れてることに気づいたのだろう、すぐさま突っ込んできた。
「くっ!」
このまま逃げていても埒があかないし、ディートさんの姿を思い出し拳に剣の時よりも大きな火を纏わせて噛み付こうとしてくるハードウルフの顔面めがけて振り抜いた。
「く、らえぇっ!」
「ギャッ!」
ハードウルフは一声あげて気を失ったのか静かになった。
僕はそのまま火の威力を上げ、一思いに戦いを終わらせた。
フゥっと一息つくと、後ろからディートさんが声をかけてくる。
「ま、40点てとこだな。初めてにしちゃあ上出来だ」
「あ、はい。ありがとうございます……あれ、コアはどこに行ったんですか?」
「あー、あそこにいるぞ」
ディートさんが指す方を見ると、コアの2体を含めた大量の魔物が山積みになっていた。
僕が2体の魔物を倒している間に十倍以上の魔物を倒しているディートさんとの実力差がありすぎて10秒ほど声が出なかった。
……っていうか、最初見た時よりも魔物の数増えてるし。
「す、すごいですね。で、次はどうするんですか……やっぱり残った魔物狩りですか?」
コアはディートさんが倒してくれたけれど、さっきの話からすでに増えてしまった魔物はスタンピードを止めることはないらしいので、これからはその残党を倒すんだろうなぁと思っていると。
「いや、もうあらかた片付けたからその必要はないぞ?」
「えっ?そこの魔物だけじゃないんですか?」
「ああ、ハードボアがあちこち走り回ったからな。ついでに森の中央部にいた魔物はほぼ全滅だな」
「はへぇ」
もうそれしか言えなかった。
その後、倒した魔物たちはあれほどの数がいたというのにディートさんが全てまとめてマナバッグに収納してしまった。
「すごい容量ですね、そのマナバッグ」
「あぁ、これは昔もらったものでな。重宝してる」
魔法鞄とは、鞄に空間魔法陣を用いて入る容量を増やした鞄
バンスさん曰く魔法鞄は中堅を抜けた商人が是が非でも一つは持っておきたくなる必需品だそうだ。その容量は値段に比例して上がっていくがその比率はとても高い。
ティルゴの町の魔道具店では最大容量のものでも1立方mで、その値段は金貨30枚……300万カロもする大金だ。ティルゴの魔道具店店長のゴウルさんはその容量のマナバッグを買いはしたものの五年経ってもまったく売れず、自分で使えば価値が下がる可能性もあってしくじったとぼやいていたのを覚えている。
基本的に商人たちもマナバッグは貴重な商品を入れて置くためのものしか持っていないので、その大きさは50立方cmほどで、それでも50万カロもするそうだ。
それに対してディートさんが持っているマナバッグはゴウルさんの持っているものよりも圧倒的に容量が多いとわかる。
150体ほどもいた魔物を全て収納してしまったのだから。
「スタンピードも解決したし、そろそろ日も暮れてくるだろう。帰るか、えーっとカルケス村だったけ」
「はい、早く帰って避難したみんなも戻ってきてもらいましょう!」
村に戻り、みんなを探しにいくと大人数だったためそこまで離れていなかったのですぐに戻ってこれた。
ディドさんたち狩人の人が何人か怪我をしていたけど治癒薬を使ってことなきを得た。
その後、ディートさんには村に泊まってもらいディートさんがスタンピードで狩った魔物をいくつかくれたので村総出で宴会をし、みんなで騒いだ。
そして、明くる日。
僕はディートさんと一緒にティルゴに向かっている道中に昨日考えたことを切り出した。
「ディートさん、僕を弟子にしてくれませんか?」
「お?どうした急に?」
「昨日の戦いを見ていて思ったんです。僕が強くなるためにはディートさんに弟子入りするしかない、と」
「あー、なんかよくわからんけど。まぁ話くらいは聞いてやろう」
ディートさんが近くの岩に腰をかけたので僕はディートさんにセレナとの出会いから再戦の約束を含め師匠を探していることを話した。
「お願いしますっ!」
「うーん……一つ聞こう」
ブルーウルフ3体やハードウルフと戦った時よりも緊張する。自分だけの意思でしっかりと弟子入りを志願したのなんて初めてだ。ガウルさんのときはハンター試験のついででもし弟子入りできたらな……というものだったが、今回は違う。なんとなくだけど、僕はここで絶対にディートさんに弟子入りしておかないといけない気がする。他の誰に頼んでもきっとこの人以上はないとすら思っていた。根拠という根拠はないけれど、直感を信じる。
「なんで強くなりたいんだ?そのセレナっていう子だけが理由じゃないだろ?クルト……強くなってお前は何がしたい?お前の目標はなんなんだ?」
何がしたいのか……なんだろう?
僕はなんで強くなりたいんだろう?
なんでこんなにも強さを求めているのだろう?
………………………………………………そうだ、思い出した。
「僕は強くなったら、誰かを……力のない人たちを理不尽な暴力から助けられるような……そう、ヒーローになりたい」
いざ口に出してみると、その言葉がスゥーッと僕の胸の……心の奥に入ってくるのがわかる。
ディートさんの方を見ると、一瞬キョトンとしてから笑い出した。
「ふはっ、ははははっ!アーハッハッハッハっ」
「ちょ、そんなに笑わなくてもいいじゃないですかっ!」
僕が起こると、ディートさんは「ごめんごめんっ」と言いつつもその後しばらく笑い続けていた。
「はーっ。笑ったわらったっ」
「そんなにダメですかねぇ」
「そういうわけじゃないさ。でもヒーローなんて目指すからにはそのセレナって子なんかを目指すだけじゃダメだぜ?」
「でも、セレナはすっごく強いんですよ!」
「バーカっ。みんなを救えるヒーロー目指すなら目標は世界最強にしとけっ!」
ディートさんが急に語尾を強めたので少しびっくりしてしまった。
世界……最強……。
「なれますかね……僕に……世界最強だなんて」
「なれるかどうかで決めるんじゃない。男なら頂点目指すと決めたらどれだけ高かろうが向いてなかろうがただ登り続ければいいんだよ」
ディートさんの言葉はさっき僕が自分で言った言葉以上に僕の心に響いた。
「わかりましたっ!ディートさんの元で世界最強目指して頑張りますっ!」
「えっ!?あっいや……別に俺のとこじゃなくてもーー」
「これからよろしくお願いしますっ!」
僕がそういうと、ディートさんは一瞬たじろいでから諦めたような顔になった。
「……はぁ。ま、俺が嗾けちゃったわけだしな。しゃーねぇー。泣き言吐いても知らんからなっ」
「はいっ!」
そうして僕……クルト=クールベルはディート=フェルメスの弟子となった。
これにて第1章終了となります。
第2章以降は第1章の添削なども行うため少しゆっくりと更新していきますのでご了承ください。