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クルト〜冒険の正体〜  作者: 氷原結
第一章 旅立ち
13/19

第13話 ハンターという仕事

更新の時間が変わります。

次回は1月30日の18時を予定しております。

今後ともよろしくお願いします。



 僕とディートさんはいま村を出てスタンピードを起こしている北の森に向かっている。


「森の中は魔物であふれているはずだ。クルトが知っている森とはだいぶ印象が変わっているだろう」


「わかりました。初めていく場所のつもりで行きます」


「それがいいな。森に着いたら、中央まで突っ切る事になる。見かけた魔物は排除するがこちらからわざわざ雑魚を相手取ったりはしない」


「大元がいるってことですか?」


「察しがいいな。その通りだ。本来、スタンピードを止めるのに全部の魔物を倒す必要はない。スタンピード……魔物の氾濫は規模によって数は異なるが《スタンピードの核》となる魔物の出現が原因で起こるわけだ。俺はその核となる魔物をスタンピードの《コア》と呼んでいる。俺の経験上だがコアは100体の魔物に1体くらいの割合でいることがわかっている。」


「つまり、コアを倒せばスタンピードは治まる、と?」


「いや、そういうわけじゃない。スタンピードってのは人の戦争と違って、魔物が増え獲物が減り自分が生き残るために外に出てくるわけだ。つまりコアを倒してもすでに増えた魔物は獲物を求めて外に出ていく」


「じゃあなんで、先にコアを倒すんですか?」


「コアには少し厄介な能力があってな」


「厄介な能力?」


「増やすんだよ……魔物をな」


「なっ!?」


 驚きで少し足がもつれかけてしまった。


「まぁいまのは結果だけを言ったわけだが……正確に言えば、魔物が生まれるスピードを上げる能力だ。周囲に魔力を充満させ、動植物の魔物化と魔法生物の発生を促す。まぁ正確には魔力じゃなくてエネルギーと呼ぶべき代物なんだがな」


「エネルギー?」


「コアによって違うんだよ。《魔素《マナ》》を出す奴もいれば、クルトが使いたがってる《(オーラ)》を出す奴もいる。コアのほとんどはこの二つだ」


「な、なるほど。だからこれ以上増やさないために、先に倒すんですね」


「そういうこった」


 そこまで話して疑問が出る。


「あれ?じゃあ村に着いた瞬間に倒した方が良かったんじゃ?」


「……そこに気づくか。確かにそっちの方が早い可能性もあった。けど、万が一に備えて避難を優先させるべきだと判断したんだよ」


「万が一?」


「コアが身の危険を感じ、今までためてきたエネルギーを全て解放した場合、より強力な魔物が生まれることがある。そうなると余計に時間がかかって他の魔物が村に向かう可能性が高くなる。ま、雑魚がいっぱいの方がやりやすいってこった」


「そういうことですか」


「いま話したからわかると思うが、コアは身の危険を感じると強い魔物を産む。クルトにはそのうちの一体くらいは相手してもらうつもりだ」


「強い、ですか?」


「あぁ、強いな。さっきのブルーウルフ三体よりも確実に、な。……どうした?ビビったか?やめとくか?」


 ディートさんが煽ってくる。確かに怖くないかと言えばもちろん嘘になる。けれど答えは決まってる。


「やりますよ、今度は最初から全力で!勝つのは僕だ」


「フッ。いい度胸だ。さて、話してるうちに森に着いたわけだが。こっからはスピード勝負だ、コアがエネルギーを貯める時間を少なくする。いくぞっ!」


「オーッ!」




 ……やっぱりすごいな、この人は。

森には入りまっすぐに突っ切っていく。その間もちろんのこと魔物は襲いかかってくるわけだけど、さっき言っていたように本当に出会う魔物たちをことごとく一蹴していく。

目の前に現れた魔物を相手に立ち止まることなく走り過ぎる頃には頭と体が別れている。

僕はそれを見ているだけしかできていない。正直言ってただの足手まといのようで少し歯がゆい。

 多分ディートさんは一人でもなんら問題なく、このスタンピードを対処できたのではないかと思う。


「よし、そろそろだから気合い入れてけよ」


 そんな人が僕の気持ちを酌んでここまで連れてきてくれたのだ。もう何もためらうことはない。それをしてしまうとディートさんの優しさを裏切ることになるだろう。


「はい!」


「オーケーだ。……っと、お出ましだな」


 ディートさんが指す方を見ると、大きな影が見えてきた。その影は二つあり、コアはどうやら2体一緒に行動しているようだ。

近づいていくと、その姿があらわになった。本来ならその巨大さに驚くべきなのだろうけど、僕は大きさよりもその見た目に驚きを隠せなかった。


「なっ!?あれがコアですか!?」


「そうだ。今回はこいつらか」


 大きさは6メートルほど。四足歩行で特徴的なのは大きな耳と額に見える大きく長い角だろう。角だけで2メートル近くはある。


「アルミラージっ」


「だな、その特殊個体で間違いないだろう。ラージミラージとか呼ばれる奴もいるがあれは基本的にアルミラージが真っ当に成長していくと見られるもんだが、こいつら《コア》は少し違う。生まれつきエネルギーを蓄える能力があり、それを成長とともに放出できるようになっていく」


「なるほど。それでこいつらはどれくらい強いんですかね?」


「いや、《コア》は基本的にそこまで強くはない。その能力こそ厄介なんだが、こいつらも個体としてはブルーウルフより少し上程度だろう」


 ディートさんは「その代わり」と付け加える。


「こいつらを守るための魔物がいるんだ。……ほら、出てきたぞ。やっぱり俺らに気づいてすでに《気》を放出してやがったか」


ディートさんがそういうと、この巨大アルミラージ……いまはコアミラージとでも呼ぼう。

コアミラージを守るように10体もの魔物が現れた。

クマ型5体、狼型2体、イノシシ型3体だ。


「ほほう、結構溜め込んでたわけだな。相手にとって不足は、まぁあるがとりあえず倒すとするか」


 ディートさんはやはりこの状況でも余裕がありそうだ。


「クルトは、そうだな。そこのハードウルフ2体をやってくれ」


「狼のやつですね?」


「ああ、一番相性がいいだろう。俺はその間に他のをやっとくから」


「わかりました」


 僕が返事をすると同時に、ディートさんはハードウルフとやら2体を残して他の魔物を少し離れた場所に投げ飛ばしていった。


「えっ?」


「じゃ、がんばれよー」


 そのあまりにもな光景に気を取られていると、ディートさんの気の抜けた声が聞こえてきた。

ハッとして、ハードウルフの方を見ると2体もちょうど動揺していたようだ。

しかし、僕が剣を構えるとすぐさま警戒態勢をとる。


「きっとブルーウルフよりも強いんだろうなぁ」


「グルルッ」


「唸り方は一緒なのにね」


 軽く独り言ちてみるが、別にふざけているつもりはない。気持ちだけでも楽にしないと、焦りでもすればすぐにやられてしまうだろう。まっすぐにハードウルフたちを観察する。

灰色の毛並みをなびかせこちらを見据えてくる。その大きさは3メートル以上あり、4足歩行のくせに顔の高さも僕よりも少し高い……最近身長も伸びてきたと思っていたのに。


 こちらを警戒しつつも、やはりディートさんが投げ飛ばした方を気にしている。

コアを守るためなのだろう。っていうか、コアミラージも普通に投げ飛ばしてたし全然守れてないんだけどね。

十秒ほど観察を続けているとどうやら一体がディートさんの方を警戒し、その間にもう一体が僕を倒すつもりのようだ。一体のみ僕の方に向かってきた。

僕としてはそっちの方がありがたい。全力で気を剣に纏わせ、向かってきたハードウルフの懐に入り込み一太刀お見舞いしてやる。


ーーガキンッ!


「っ!?」


 思わぬ感触に、大きく距離をとった。

鞘ではなく剣の方で切り上げたというのに、まるで石でも切ろうとしたかのような手応えだ。いやさすがに石を切ろうとしたことなんてないけどね。

それぐらい硬かったってことだ。

そのあまりにもな感触に手の方も少し痺れを感じていると、ディートさんの声が聞こえた。


「言い忘れたけど、そいつらすげー硬いから!剣が折れるかもしれないから、やめとけよー」


 いやもう遅いし、もっと早くいってよ。まぁ折れなかったからよかったけど、街に戻ったらちゃんと見てもらわないとなぁと思いつつ、素直に剣を鞘にしまう。

ハードウルフはいまの攻防で僕を過小評価したのか、見ていたはずのもう1体がディートさんの方に向かっていった。

とりあえずディートさんに報告だな。


「そっちに1体向かいましたぁ!」


「何やってんの!?さっさと残りの一体片付けろ!」


 ノリのいいツッコミが帰ってきた。

こんな状況だが、ディートさんとの問答が少し楽しくなってきてしまう。

笑みがこぼれないよう気を引き締めつつ、ハードウルフを見据える。

フンっと鼻を鳴らしているのが心なしか見下されているような気がしてくるから驚きだ。


「ディートさんにも言われたことだし、こっちも最初から奥の手を使わせてもらおうか。」


 そういって僕は目をつぶり意識を集中する。

先ほどのブルーウルフ戦では時間がかかってしまったが、ディートさんから手ほどきを受けたからかものの数秒で集中が終わった。

ゆっくりと目を開くとちょうどハードウルフがこちらに突っ込んできた。

さっき距離を取るために15メートルほど離れていたのに、ブルーウルフよりもさらに早いスピードでこちらに向かってきた。

勝負は一瞬だった。


「ギャウゥゥゥっ!」


 目の前に現れたハードウルフは僕の技によって5メートルほど吹っ飛びその灰色で硬い毛並みを赤く燃え上がらせている。

そう、僕の奥の手とは《魔法》だ。魔法といえばカルケスの村でもティルゴの町でも生活のために用いられているわけだけど、僕はそれを戦いに応用したのだ。

なんとなくやっちゃいけないようなことだと思っていたのだけど、ディートさん曰くこんな田舎じゃなく都会では魔物との戦いに使う人は結構いるそうだ。

魔法が使える人は誰もがみんな同じことを考えるらしい。

僕は今まで、母さんが料理や薬の調合の時なんかに使っているのしか見たことがなかったし、小さな頃は遊びで使っちゃいけないと怒られたことがあったので最近になるまで使おうとすら思ったことがなかった。いま思えばなんとも間抜けな話だ。

ディートさんに説明されて初めて知ってしまった事実だ。多分母さんや父さんたちも知らないんじゃないかな?

そんなことを考えていると、燃えているハードウルフの動きが弱まってきた。


「ギュゥゥっ」


 僕は剣を抜き過去最大に魔力を高める……さっきもやったオーラの代用を魔力出しているわけだ。体の方にはほとんど回さず腕と剣にのみ魔力を回し、少しでも切れ味をあげる。

せめて一思いに終わらせてやりたかったからだ。

ブゥンッ!という音とともに、ハードウルフの首を断つ。

燃えさかる火を消し、剣も鞘に収めた。


 ふと、ガウルさんの「もしお前がハンターとして生きていくのなら……命の奪い合うことになるだろうさ、それがハンターの日常だ」そんな言葉を思い出し胸にとどめ、ディートさんの戦場の方へと向かって歩き出す。





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