第11話 良く言えば不思議な、悪く言うなら変な……
………………はい?
「……はい?」
ついつい、思ったことがそのまま口を突いて出てくる。
少し理解できない。
「おう?何が、えっ?」
いや、少しも理解ができない。
もはや意味不明だ。なんだ?何が起こった?
少し冷静にならなくちゃ、深呼吸だ深呼吸。
「すぅーはぁー。……落ち着いた」
よし、今僕に起こったことを冷静に振り返ってみよう。
1、ブルーウルフ三体を相手に、ボロボロにされ絶体絶命
2、最後のチャンスだ、まとめて倒すしかない
3、意識を集中するために目を瞑ろう
4、よしいつでも来い!いざ、目を開く
5、ブルーウルフは死んでいた
だめだ、5番が明らかにおかしい。
もう僕ただの滑稽な人じゃん。
なんて馬鹿な考えをしているとようやく本当に落ち着いてきた。
僕はキョロキョロと辺りを見渡すが誰も見当たらない。
そう、こいつらは絶対に誰かがまとめて倒したんだ。
勝手に倒れるわけがない。
一瞬僕の中に眠る不思議な力が!?とかが頭を過ぎらなかったかと言えば嘘になるが、そこまで子供じゃない。すぐにその選択肢は消した。
で、こんなことが出来てなおかつ倒した後に隠れるなんて余裕のあることができる人はもう僕の中では一人しかいない。
だから声を張り上げる。
「ディートさん、出てきてくださいよ!そんな遊んでる場合じゃないでしょう」
………………。
あれ?ほんとに誰もいない?
ガサガサっ
草から物音がなり反射的に体が振り向き警戒した。
そこから現れたのは
「あー、別に隠れてたわけじゃねぇんだぜっ?」
やはりディートさんだった。ただディートさんは一人じゃなかった。
「じゃあ、それが理由ですか?」
「ああ、近くにいるやつらはあらかた終わったんじゃないか?」
ーーそう、傍らには大きなクマの魔物がいたのだ。
「見たことないです、それビッグベア?でもないですよね」
「あぁ、こいつはキューティベアってやつだな。ビッグベアの変異種みたいなもんだ」
「そんなのまでいたんですか」
「ま、滅多に見かけはしないだろうな。スタンピードだからこそだろ」
なるほど、やっぱり恐ろしいな……スタンピード。
そこで気づいた。
「あれ、この辺の魔物全部倒したんですか?」
「ん?ああ、人間でいう斥候ってところだろうけどな」
「じゃあ、僕の助けもすぐに入れたんじゃ?あんなギリギリじゃなくても」
「あー、まぁ出来たな」
「っ?じゃあなぜ?」
そうたずねるとディートさんは少し間を置いてから口を開いた。
「え?だって、自分でやりたかったんじゃないのか?」
「へ?……いや今はそんな場合じゃなかったでしょう」
そう、今は村が襲われているような状況だ。僕の気持ちを優先する必要はない。
「だって、倒すだけなら出来たろ?
お前が剣にこだわらなきゃ……な?」
「っ!?」
そう言ってディートさんは僕の足元にある剣を指差した。
そして同時に僕は激しく動揺していた。
さっきの戦い……ブルーウルフに右腕を噛まれた時に僕自身たしかに思った、なんで剣にこだわってしまったのだろう?最初から本気で行けば……と。
「……よくわかりましたね?」
「ま、これでも人を見る目には自信があるからな」
そう言ってニシシっと笑うディートさん。
「あれ、じゃあ最後になんで助けてくれたんですか?」
「確かにあのまま行けばお前の勝ちだったかもなぁ」
そう、僕はあの時奥の手を使おうと思っていた。勝算もまだあったと思う。
「時間切れだったからな」
「時間、切れ?」
「もしあそこでなんかやってたら多分勝てたかも知れんがお前下手すりゃ死んでたぞ?その怪我じゃ」
「……つッ!」
忘れてた、怪我でボロボロなんだった。だんだん痛みも戻ってきたようだ。
「ほれ、これお前のだろ?塗ってやるよ。両腕使いもんにならなそうだし」
ディートさんが傷薬を塗ってくれた。塗り終えて「よく効く薬だな」と言いながら傷薬を巾着に片付けてくれている。
「ま、ちょい頑張りすぎたな。血ぃ流し過ぎだぞ、あぶねぇな。家族んとこまで運んでやるからゆっくり休んどきな」
確かに過去一番でふらついてる。頭もうまく働かないな。これじゃだめだ。
「あの、すみません。その中から小瓶に入った赤い薬と青い薬を取ってくれませんか?」
「ん?んーっと。これか?」
ディートさんに礼を言い、先に動くようになった左腕で小瓶を受け取り中の青い丸薬の方を手のひらに出す。
「4個くらいでいけるかな」
丸薬を口に含んで噛み砕き、腰につけてた水筒で飲み込む。
「なんなんだ?その薬?」
「これは《栄養玉》と言って体に必要な最低限の栄養を取れるんですよ」
「へー、なんで4つも飲んだんだ?」
「これを飲むためです」
そう言って、赤い丸薬の方も二つ取り出し同じように飲んだ。
「それは?」
ディートさんからここまで質問してくるなんて珍しいな。なんて思ったがよく考えれば今日出会ったばっかりだった。話しててすごく楽だから長年一緒にいたかのような錯覚を覚えてた。
「これですか?こっちは《増血玉》といいます。飲むと貧血にすぐ効くんです、今回は血を流しすぎたんで2つほど。これを飲むと体の栄養を使うんで先に、栄養玉の方を飲んだんです」
「はぁー、そんなのがあるんだな。あの街にも売ってるのか?」
「ええ、バンスさんの商店で。……えーっと最初に僕がディートさんを見かけた店なんですけど、わかります?」
「あー、女の子の店員がいたとこか?」
「それですそれです。ってよくわかりましたね」
「そこ出てから付けられてたからな」
「そっからバレてたんですね。で、そこの商店に売ってますよ二つとも」
「ほー、なら後で買いに行ってみるかなぁ」
「あ、でもこれは売ってるやつより効果高いんで、参考になるかわかりませんよ。売ってるやつはもうちょい薄めに作ってるんで」
「へー。……って、お前が作ったのか!?」
そんなふうに5分ほど他愛ない会話を続けていると、だいぶ頭がスッキリしてきた。
「よしっ!」と気合いを入れて立ち上がる。
「おいおい、大丈夫か?」
「はい。傷もふさがったし、血もだいぶ回復したんで」
「おいおい、すげー効果だな」
「でしょう?僕の生命線です。」
そう言って鞘を腰につけ、剣と巾着をしまう。
準備ができると、ディートさんが真面目な顔でこちらをみてくる。
「まだやるのか?」
「はい、足手まといかもしれませんけど……できることが少しでもあるなら、もう逃げたくはないので!」
自分自身に言い聞かせるように宣言すると、ディートさんはフッと笑い僕の背中をバシリと叩いた。
「ハハッ、面白いなお前。気に入った!ちゃんと名前を聞いておこうか」
「……クルトです。クルト=クールベル!」
「俺はディート=フェルメスだ。よろしくな」
「はいっ!よろしくお願いします!」
こうして、僕は不思議な空気を纏った男ーーディート=フェルメスと出会った。