第99話 最強魔法と女神の決断
俺とヒナタそれからボルド王は、
城内に入り込んだ魔物を討伐し安全を確保したのち、
囚われとなった人々を助け出していた。
枯木の男はシャルルに命じ、
城内の大臣や衛兵たちを地下牢にまとめて閉じ込めていたようだ。
「どうしたの?」
ヒナタが俺に尋ねる。
「いや、シャルルのやつ。傷を回復して貰った瞬間に飛び出して行ったけど大丈夫かなって」
シャルルは背中に深手を負ったまま放置されており、
危険な状態だった。
傷は魔法で塞がったとは言え、その影響は回復していない。
「あいつ、責任を感じて突っ走らないといいけどな」
ボルド王が険しい顔で呟く。
その言葉に俺も同意だ。
「・・・俺たちもあの爆発があった方に向かいます」
「行ってくれるか?助かるぜ。ラフィットの本隊と騎士団長のカロが帰還したって聞いてるが、なにが起こるか分からねぇ」
「王の懐刀がいれば、大概の問題は解決するでしょう」
「あそこで大概のことじゃねぇことが起きてる気がしてな。もはや何故ここまでお前たちに期待してるのか自分じゃ分からねぇが言ってやってくれ」
ボルド王が頭を下げる。
「やれることは、やってみます」
俺とヒナタはボルド王と別れ、先ほど爆発があった地点へと向かう。
到着時にはラフィット騎士団が全て解決済み。
そんな光景を期待しながら。
街中を走る俺たちは、
スタンピードの魔物が殆ど残っていないことに気が付く。
代わりに目につくのは積み上げられた魔物の亡骸。
おそらくラフィットや、
他の騎士団の活躍によるものだろう。
人的被害についてはどれだけ出ているか分からないが、
少なくともこれ以上スタンピードによる被害が広がることはなさそうだ。
だが―――
俺は顔を上げる。
「近づいているな・・・」
俺は近づくたびにどんどん強くなるアルバの魔力を感じていた。
禍々しくて強力な魔力。
とても嫌な予感がする。
このまま行って、どうにかなるのだろうか。
俺がふと不安を感じたその時―――
『・・・ルーク君!止まって!止まってください!』
テレシアからの交信が入った。
俺は前のめりになりながら、立ち止まる。
「テレシアか、どうした」
『ルーク君、良かった。間に合って・・・、このまま進むのは危険です』
テレシアが泣きそうな声を出す。
「わかってるさ」
俺はテレシアに答えた。
「テレシア?」
ヒナタが俺に尋ねる。
俺は交信に集中しながら、
頷くことでヒナタに答えた。
ヒナタも状況を察し、歩みを止めてくれている。
『アルバは短期間にこのボルドの地に眠る魔力を喰らって、ますます強大になっています。今のアルバは間違いなく天災級。かつてルーク君が倒したバルガスなんか比べ物になりません。なんとか戦いを回避するべきです』
テレシアは言う。
「バルガスよりか・・・それはマズいな」
俺は幼き頃の記憶を呼びさます。
伝説の魔獣バルガス。
あいつよりも強いのか。
『ここは一度引いて、作戦を考えましょう。まだ一度だけ最強魔法使用許可も残っています。それを上手く使えばアルバを倒すことが出来るかもしれません』
テレシアは言う。
「・・・そうだな。テレシアの言う通りだ」
俺は答える。
『良かった!では安全な脱出ルートを割り出します。バロンさんたちを回収して、すぐに王都から―――――』
「ダメだ」
俺はテレシアの言葉を遮る。
「・・・だ、ダメって、なんでですか!」
テレシアの言葉が強くなる。
「・・・テレシア、お前が言う事も分かる。作戦を立てて確実にってのも正しい。お前の探知と分析があれば、アルバを倒すことが出来るかも知れない」
『そ、そうですよ・・・なのに、なんで』
「・・・テレシア、お前にはこの光景が見えてないのか?」
『こ、光景・・・?』
「・・・あぁ、そうだ。俺とヒナタが見ている、この光景だ」
俺は顔を上げた。
街は火を上げ、各地から煙が上がっている。
建物は半壊し、死屍累々の魔物の亡骸。
美しかったボルドの景色は消え、
そこには戦いにより傷付いた街並みが広がっていた。
「・・・これがあの枯木の男とアルバがしたことだ。ここにいた大勢の人間の平和を、日常を壊した・・・」
俺は拳を握りしめた。
『でも、だからって・・・』
「ここで引くのは騎士じゃない。だから俺は行く。悪いな、テレシア」
『ダメです!このまま行けばルーク君は――――』
俺はテレシアとの交信を意識的に断った。
すまん、テレシア。
「・・・大丈夫?」
ヒナタが心配そうに俺を見る。
俺は顔を上げ、ヒナタに頷く。
「怒られた」
俺の言葉を聞いて、ヒナタは笑った。
「大丈夫、あとで私も一緒に謝る。アルバを倒した後に」
ヒナタの言葉に俺は笑う。
「そうだな。早く倒してテレシアを驚かせてやろう」
俺とヒナタは再び走りだした。
・・・・
・・
・
『ルーク君!ルーク君!』
テレシアは途切れた交信を必死で繋ごうともがいていた。
だがすでにルークの方から切られてしまった通信は繋がることは無かった。
『そんな・・・なんで・・・どうして・・・』
テレシアはルークの事を想い、心が張り裂けそうになった。
あの少年に死んでほしくない、彼を守りたい。
そのために止めたのに、彼は自分の静止も聞かずに行ってしまった。
『ルーク君・・・』
テレシアは少年の名を呟く。
気が付くとその両目から大粒の涙が零れていた。
『テレシアちゃん・・・』
声を掛けてきたのは、テレシアの上司、老神であった。
『老神様・・・私、私どうしたら・・・』
老神はテレシアにそっと手を置く。
『どうすることも出来ん、彼は神の啓示ではなく、自らの道を選んだのじゃ。』
『そんな・・・でもそれじゃルーク君が・・・』
テレシアはさらに涙を流す。
『厳しいことを言うが、大地を喰らう大蛇には転生特典の魔法一発だけじゃ勝つのは至難の業じゃろう。あれは既に神獣の域に達しようとしている。』
老神は言う。
『・・・老神様、お願いです。ルーク君の魔法の制限を解除してください。このままじゃ・・・』
テレシアは老神に懇願する。
老神は困ったような顔で、テレシアを宥めた。
『無茶を言うでない。たとえ危機が迫っていようと、あの魔法が危険な事には変わりない。こないだ一部の制限が解除されただけでもとんでもない量の手続きが必要だったんじゃぞ・・・』
テレシアは視線を地面に落とす。
やはり、ダメなのか。
女神と言えど何もしてあげられる事が無い。
無力な自分にテレシアは悔しさを感じた。
溢れる様々な感情のなかで、ふとあることに気が付く。
『老神様・・・、今、なんておっしゃいました?』
テレシアは逸る気持ちを抑えて、質問する。
『あの魔法が危険だ、と言ったのじゃ。一人の人間に無法図に扱わせるわけには――――』
『違います!その後!』
テレシアが叫ぶ。
『な、なんじゃ急に。先日の一部制限解除の時にも大変な手続きだった、と言ったのじゃ』
『それです!』
テレシアは思い出し叫んだ。
そして、両手をかざすとある書類を呼び寄せる。
ボルドの街の大使館から受け取った書簡だ。
テレシアは書類を見つけると、その一文に目を走らせた。
-一部制限解除のお知らせ-
制限中の以下の転生特典について一部制限を解除いたします。
・時空間魔法 Lv1まで解放
・変化魔法 Lv1まで解放
・自然魔法 Lv1まで解放--
・女神の寵愛 Lv2まで解放
・??? 制限中
・??? 制限中
・??? 制限中
尚、別途申請承認された転生特典については
監督官の指示に基づき無制限に使用することが出来ます。
以下の注意事項を遵守し使用するようにしてください。
①魔法を人や家に向けたり、
燃えやすい物のある場所で遊んだりしないようにしましょう。
②風の強いときは、魔法を使うのはやめましょう。
③たくさんの魔法を、一度に使用しないようにしましょう。
④正しい詠唱と正しい方法で発動してください
以上
テレシアは書簡の文章を何度も読み替えす。
尚、別途申請承認された転生特典については
監督官の指示に基づき無制限に使用することが出来ます。
監督官の指示に基づき無制限に使用することが出来ます。
テレシアの呼び寄せた書簡と、
その鬼気迫る表情を見て、老神はテレシアの考えを察した。
『ま、待てテレシア。それは無理じゃ、今あの街には彼の監督が出来るような神族はおらんぞ・・・。それなりの身分のある神族でないと、監督官なんて務められんし・・・・』
老神がテレシアを制止する。
だがテレシアは意を決したような表情で老神を見つめた。
「・・・私はテレシア。一級神女神のテレシアです。私より高位の神族は老神様、あなただけです」
テレシアの意図に気が付いた老神は思わず倒れそうになった。




