第98話 最強魔法と決戦の王都
カロの目前にアルバの巨体が迫る。
超重量の体当たり。
当たればそれだけで粉々に砕けるだろう。
だがカロほどの力があれば、
正面からの突撃を回避することは容易だ。
しかしカロはそれを選択しなかった。
彼の背後には王都の家々が広がっていた。
その中に逃げ遅れた人がいないとも限らない。
結果、カロは自らの剣を正眼に構え、
腰を落とし、深く深呼吸を一つ。
迫りくるアルバの巨体に切りつけ、
その山のような巨体を受け止めた。
衝突の瞬間、ズズンと地面が揺れる。
アルバの重量に押されながらも、
カロは体勢を崩すこともなく、
その体当たりを止めたのであった。
「クハハハハハ!素晴らしい、素晴らしい力ですよ、カロ・セギュール!!」
枯木の男がアルバの頭の上で高笑いしている。
カロは全身の筋肉が張り裂けそうになりながらも、
その巨体から距離を取る。
そして壁を蹴ると、
アルバに対し剣を振るった。
ガキンと言う金属を叩いたかのような手ごたえ。
カロは自らの手が痺れるのを感じた。
だがカロは構うことなく、
そのまま何度もアルバの巨体に剣を振り続ける。
アルバもそれに応戦し、
矮小なカロの身体を噛み千切るべく牙を剥く。
その嵐のような猛攻を、カロはすべて避ける。
一撃でも食らえば戦闘不能は必死。
目の前の伝説の魔獣から放たれる圧力と重圧に、
カロは一瞬一瞬で命が削られていくような錯覚に陥った。
このままではマズイ。
斬撃を放ち続けるカロはそう感じていた。
その焦りが剣の握りを強める。
彼の剣筋は次第に強力により力任せになっていた。
その結果。
「ハアッ!」
もう何度目かの斬撃をアルバの首元に放つ。
普通の相手であれば、一瞬で絶命するような一撃。
だがアルバの鋼鉄のような皮膚を前に、その攻撃は通らず。
衝撃は逃げ場を無くし、カロの再び両手を痺れさせる。
その痛みに鍛え抜かれたカロの身体は耐え続けた。
先に限界が訪れたのは、アルバでもカロでもなく、
カロの両手に握られた剣であった。
カロの剣はアルバの前で砕け散った。
「・・・くっ」
剣が折れたカロは、一瞬。
1秒にも満たない僅かな時間、動揺する。
気のゆるみとも言えないような刹那。
その瞬間、何か硬いものが側面からカロをはじき飛ばした。
それは意識の外から襲い掛かったアルバの尾であった。
カロの身体は民家の壁に叩き付けられた。
カロは剣士である。
脇目も振らず剣の道を究め、
ラフィット騎士団の騎士団長までに上り詰めた。
生来の万能性によりそれなりに魔法は使えるが、
それでも本気で戦闘を行う際には剣技のみで戦うことが多かった。
彼は戦闘に高火力の攻撃魔法を用いない。
それでも彼はこれまで勝ち続けた。
剣の刃が通らない相手との戦い。
カロは自分が不利な状況に立たされている事を実感した。
アルバの目が赤く光る。
その目はすでに獲物を食らう捕食者の目であった。
―――――その時。
<雷轟>
突如、晴天の空から落雷が落ちた。
雷はアルバの巨体を貫き、全身を焼く。
「ギュルルアアアアアアアアアアァア!!!!!」
アルバが雄たけびをあげる。
それはアルバが初めて見せた、
苦しみの姿であった。
「全員、抜刀!騎士団長に加勢するぞ」
背後から響く、聞き覚えのある声。
カロは自分の背後を振り返る。
そこには見覚えのある青いプレートメイルの騎士達が並んでいた。
騎士団ランキング不動の一位。
王の懐刀、ラフィット騎士団。
一人一人が一騎当千ともいえる最強の騎士達である。
「お前たち・・・」
カロは思わず、呟く。
「それ以上は言わなくて大丈夫です。王都内の市民の避難誘導は完了しました。現在は他の騎士団が新たに発生する魔物の討伐にあたっています。」
そう言って青い騎士たちの中から一歩前に出たのは、
やはり見覚えのある若い騎士であった。
それは自らが鍛え、育て上げた副団長の姿であった。
「遅くなりました・・・カロ様。シャルル・シュヴァリエ参りました」
「・・・シャルル、無事だったのですね。」
「はい、この度の数々の不手際。お詫びいたします」
「大丈夫、これは私も含め我が騎士団の連帯責任です。すべて終わってから王に謝罪しましょう」
シャルルはカロの横に並び、アルバに向き合う。
「これが、魔獣アルバ・・・」
雷撃から解放されたアルバは唸り声をあげ怒りを露わにする。
「強力な相手です。だが我々なら戦えます」
カロは言う。
「はい。王都を守りましょう」
力強く頷くシャルル。
だがカロは気が付いていた。
シャルルの額に滲む脂汗。
それは決して到着を急いで、
発せられたものではない。
現にこうして彼の鎧の下からは、
血の臭いが漂ってくる。
元々の病と、おそらくは致命傷にも近い深手。
それでもラフィット騎士団の副団長として、
彼はこの場に立っているのだ。
その決死の覚悟を、騎士としての誇りを、
カロは止めることは出来なかった。
カロは騎士から替えの剣を受け取り、
再びアルバに対峙する。
――――たとえ命に代えても。
そんな事を呟いたのはカロであったのか、
それともシャルルであったのか。
誰でも構わない。
なぜならば王を守り、王都を守ることが彼ら全員の使命なのだ。
王の懐刀はその想いを一つにし、
巨大な悪意に切りかかった。




