第97話 最強魔法と気色の悪い世界
「これはこれはカロ・セギュール様ではありませんか」
枯木の男はぬらりと近づいてくる。
一歩一歩に規則性がなく、まるで幽霊のような足取り。
それが枯木の男の不気味さを助長していた。
「・・・そこで止まり、私に近づかないで欲しい。吐き気がする」
カロはそう言って抜刀する。
同時に解き放たれるとてつもない威圧感。
力なきものであればそれだけで失神しかねないような、
一流の騎士の剣気である。
枯木の男はピタリと動きを止めた。
「クク、さすがは天下のラフィット騎士団の騎士団長。強い男。クク矮小な王や、シャルルの坊やとは一味違いますね。クク、もちろん私のアルバには遠く及びませんがね・・・クク」
枯木の男は笑う。
最強と名高い騎士の殺気を受けても、
その得体の知れない余裕は消えることはなかった。
カロは自らの背中にじっとりと汗がにじむのを感じた。
さきほどから寒気が止まらない。
「・・・どうせ無駄でしょうが、先に聞きます。あなたの目的はなんですか?」
カロは努めて冷静に質問をする。
動揺を相手に悟られぬように。
「・・・無駄と言うのはどういうことでしょう。私はクク、質問にはきちんと答えますよ。クク、逃げも隠れもしません。クク、私はあなたを尊敬していますしねククク。」
「では、目的は?」
カロが尋ねる。
「・・・お前はこの世界に疑問を感じたことはないのか?」
枯木の男が言う。冷たく抑揚のない声。
さきほどまでのらりくらりとした声とは声質が違う。
表情には出さぬが、カロはその変化に驚いた。
「世界に、疑問?」
枯木の男の雰囲気が一瞬で元に戻る。
「・・・クク、そうです。そうそう。この世界は国と言う矮小な集まりがあり、そこに矮小な王が居る。クク、なんの能力もない無知な老人が、これまた無知な国民を統治しているのです。クク、自らの私利私欲のために」
カロは言う。
「それが、国と言うものだ。すべての統治者が有能とは思いませんが、少なくとも我が王は国民を案じて行動しておられる。あなたの見方には賛同出来ませんね」
「クク、結構。いろいろな見方がありますからね。クク、少なくとも私にはこの世界がとても気持ち悪く見える、と言うだけですよ。それこそ王だの騎士だの。それを持て囃している民衆も、気色が悪いったらありゃしません。クク」
カロは言葉を発しない。
「クク、存在しているだけで気色悪い世界で、クク見つけました。それを払しょくする方法を。クク、恐ろしいほどシンプルです。クク、壊せばいい。ククク」
枯木の男は笑い出した。
「・・・壊す?この世界のすべての国と王と騎士をか?」
枯木の男の笑いが止まる。
「クク、やはり矮小だ。私はもはやそんなものに興味はない。壊したいのは世界、この世の全て、そしてこの世界を見ている神々です。クク」
「・・・神、だと」
カロの眉間にしわが寄る。
「分りませんよね、知りませんよね。だってそうじゃないですか、この世界はすべてがクク気色悪い。しかもです、ククク。この世界は実は作り物で、「神」と呼ばれる存在に支配されていると言うことを誰も知らないんだ。クク。普通に暮らしていたらそんな事には気が付かない。クク、だが私は気が付いた、クク、私は知った。だから壊すのです」
カロは言葉を失う。
枯木の男の言っていることが、
まるで理解できなかったからだ。
だがそんなことは気に留めず、
枯木の男は話し続ける。
「クク、神の力は強大だ。やつらは殺しても死なず、クク、その気になれば私を一瞬のうちに千回焼き殺せるような力を持っている。クク、神の支配するこの世界を壊すためには、クク人間の私では到底不可能」
枯木の男は天を仰いだ。
「・・・神を亡ぼすには神を使うしかない。クク私が願う世界を滅ぼす神。それが邪神です。クク、私の目的は邪神の復活です。クク、そうすれば世界はクク、無くなる。」
二人の間に流れる沈黙。
カロには枯木の男の言葉が理解できなかった。
だが彼はもっと重要な事を理解していた。
それは今、
目の前にいる男を生かしておいてはいけないと言うことだ。
枯木の男の一言一句は記憶した。
私の頭で理解出来ぬ話でも、
我が主であればその内容が理解できるかも知れぬ。
カロは戦略家である前に武人であった。
武人としての役割を果たすため、剣を握る力を強めた。
「クク、思考を捨てたかカロ・セギュール。クク、やはり貴様も矮小な存在に過ぎないな」
枯木の男の地面にヒビが入る。
そこから禍々しい魔力が溢れる。
「黙れ下郎よ。貴様が何を考えていたとしても、我が剣がそれを阻む。矮小な男よ、ここに散れ」
その瞬間、枯木の男の立っている地面が割れ爆発が起きた。
地面の中から現れたのは、巨大な蛇。
魔獣アルバが現れた。
「・・・消えろ。王都と共に」
再び抑揚のない声で枯木の男が言う。
その言葉と同時に、
アルバはカロ・セギュールに襲い掛かった。




