第95話 最強魔法と男の目的
「ゲギャギャ!!」
俺の出現に周囲のオーク共が声を上げる。
不意に胸元から角笛のようなものを出すオーク。
あれは仲間を呼び寄せるオークの角笛だ。
「させるかよ」
俺は魔力を収束させ、魔法を発動する。
<悠久>
次の瞬間には、角笛を吹こうとしていたオークの喉と、
周囲に残っていた数頭のゴブリンの首が同時に両断された。
俺は周囲を見回し射ち漏らしがいないことを確認し、剣を収めた。
魔物達を倒したことで、逃げ遅れていた市民たちが一気に大門の外に出る。
よし、これで少しはマシになるはずだ。
そんな俺の姿を、カロさんが馬上から眺めていた。
「・・・君の、魔法なのか?今のは。」
カロさんが驚愕した表情を浮かべている。
どうやら俺の<悠久>が見えたようだ。
「はい、そうです。凄いですね。あの魔法が見えるなんて」
「あぁ、だがそんな魔法は見たことも聞いたこともない。ほんの僅かに違和感を感じただけだ。あとは眼球の奥底に残像だけが焼き付いている」
時空間魔法<悠久>。
それは文字通り、時間を操る魔法だ。
魔力の行使により、俺以外の存在の時間の流れを数秒だけ緩慢にする。
消費魔力が凄まじいのと、ある大きなデメリットがあるが、
まさに最強魔法と呼ぶに相応しいチート能力だ。
「・・・君は一体、なにものなんだ」
カロさんの質問にはゆっくり答えることにしよう。
俺は王都内にそびえる王城を見上げた。
「まずは王城に向かいます。ボルド王や俺の仲間も向かっているハズです」
俺の言葉にハッとするカロさん。
少し考えた後、カロさんは口を開いた。
「いや、私はここで市民の非難を援護しよう。城と我が王は君とシャルルに任せる」
カロさんは強い瞳でこちらを見た。
「・・・分かりました」
俺はその表情に身を引き締める。
「では・・・」
そう言うとカロさんは腰から剣を抜き、上空に向けた。
そして魔力を集束し、剣先から魔法を放つ。
魔法は高いところまで登り、そして爆発を起こした。
「今のは?」
カロさんに尋ねる。
「・・・合図さ。遅れてくる我が部下たちへのな」
カロさんの部下という事はラフィット騎士団がここに向かっていると言う事か。
それならば街の方は大丈夫だろう。
「ではルーク君、お互いに生き残ったらまた会おう。君にボルドの加護があらんことを」
カロさんは身を翻すと市街の方へと駆けていった。
・・・
・・
・
王城を目前として、ボルド王が歩みを止めた。
傍らに居たヒナタも同時に立ち止まる。
二人の視線の先に居たのは、
見覚えのある長身痩躯の男であった。
「ククク、こんにちは。ボルド王」
枯木の男は気味の悪い笑顔を浮かべて
二人に話しかけてきた。
あまりに自然で不自然。
まるで当然のような丁寧な挨拶に、
ボルド王が答える。
「挨拶など不要だ。こちらはお前を殺して、街を救いに行く。それだけだ」
言葉も少なく、
ボルド王が早々に腰から剣を抜く。
ヒナタは逸るボルド王を制止しようと、手を伸ばす。
その時。
「・・・クククク、愚かな王。怒りに我を忘れ、状況というものが掴めていない」
再び枯木の男が笑い出した。
そのあまりの不気味さに、ボルド王もヒナタも気圧されてしまう。
「お前の目的はなんだ?」
ボルド王が尋ねる。
「・・・目的?ククク。なんでしょうね、クク。知りたいでしょう?ククククク」
枯木の男は相変わらず要領の得ない答えだ。
やがて笑い終えた枯木の男が、真顔に戻る。
「でも良いでしょう。一つだけ教えてあげます。クク、私たちの目的はこの街の破壊、そして人々の命そのものですよ・・・」
「なんだ、と・・・?」
ボルド王が答える。
「矮小な王の治める街。それは一体どれだけ矮小なのでしょうか。クク、ならば皆滅びても誰も困りませんね。だから亡ぼします。今日、クク、私と矮小ではないアルバの力によって、ククク」
アルバ。
枯木の男がその名を口にした瞬間、その場の邪悪な気配が高まった。
王都に続く石畳の隙間から濃密なアルバの魔力が漏れ出している。
「貴様・・・」
ボルド王が険しい表情で枯木の男を睨む。
だがもはや枯木の男はボルド王を見てはおらず、中空を眺めブツブツと呟いている。
「クク、アルバ、アルバ。美しい蛇よ。すべてを飲み込め」
そうして、アルバの魔力が満ちた一帯には再び魔物が生まれる気配。
ヒナタとボルド王を囲むように、魔物たちが出現し始める。
「・・・ククク、死になさい。死んで矮小な自らの存在を悔いなさい。それらを糧に我らは強くなる、力を取り戻す。そして」
—————————邪神は復活するのだ。
その場に大量の魔物を召喚し、
枯木の男は姿を消した。




