第9話 最強魔法と神からの課題
ジークと騎士団員は獣のような雄叫びを聞いて、
探索の道を引き返した。
魔獣バルガスの巨大な影がいつ現れるかと
ビクビクしながらの移動ではあったが、
一同が見つけたのは遺跡の中で倒れる魔獣バルガスの死体と、
傍らに血まみれになって倒れる一人の少年の姿であった。
あたりには戦闘の後があり、
魔獣の身体はところどころが欠損していた。
騎士団員が抱き起こした少年の顔を見て、
ジークは驚く。
そこに居たのは、
家に居るはずの幼い我が子であったからだ。
・・・
・・
・
騎士団員は聖都に対し、
隕石の影響で魔獣バルガスの封印が解かれたこと、
その後魔獣バルガスが遺跡内部で死んで、
近隣の村に被害は無いことを報告した。
バルガスが死んだ理由は調査中と言うことで押し通した。
真実を話したところで、
信じては貰えない可能性の方が高いため、
そのうち適当な理由を付けて再報告が必要になりそうだ。
あの日、魔獣バルガスを俺が倒したことは
父と祖父、それから同行した騎士達だけが知っている。
「よく分からないが気が付いたらバルガスを倒していた」
目覚めた俺は父にそう説明したが、もちろん信じては貰えず。
転生の事だけはうまく伏せて、女神から魔法の力を授かったと伝えた。
当然父と騎士団員達は驚いたが、
魔獣バルガスの死体を目撃した後では、
俺の話を信じざるを得ない状況ではあった。
幸いにも父と騎士団員達の絆は厚く、
俺の件は同行したメンバーだけの秘密にしてくれると
いうことになった。
・・・
・・
・
「ホントに気を付けて帰るのじゃぞ」
祖父が心配な顔で俺たちを見送る。
「分かっている、父さんも気を付けてな。また休暇になったら遊びにくる」
「爺ちゃん、またな」
そう言って俺と祖父は抱擁をかわす。
次に会えるのは冬の休暇だろうか、
どちらにせよ別れは寂しいものだ。
「ルーク、お前は勇者なのかも知れないな」
帰りの馬上で父が俺にそんな事を言う。
父が馬を駆り、俺は背中に抱きついている状態だ。
「勇者?」
「そうだ、勇者だ。歴史上で現れた勇者は全員女神の寵愛を得て、様々な魔法を使ったとされている。そして共通するのはその誰もが、世界の危機といえるような問題を解決してる。」
「女神の・・・」
俺はテレシアの事を思い出した。
そういえば、バルガスと戦った時以来連絡がないな。
その時。
『・・・ーク君!!無事でしたか。良かった!』
「わっ!」
突然のテレシアからの交信に声をあげる俺。
「ど、どうした?ルーク」
馬を操っている父が驚く。
父にはテレシアの声はもちろん聞こえていないようだ。
『全然交信回路繋いでくれないんですもん!ホントに心配しました!』
「ご、ごめん。テレシア、でも頼むから少し落ち着いて」
俺は父さんに聞こえないように小声でテレシアと会話する。
そもそもテレシアとの交信方法についても
あまりよく理解していなかったな。
こちらから一方的に回路を切ることも可能なのか。
詳細な仕様については今度テレシアに教えて貰うとしよう。
俺の言葉にテレシアは落ち着いたようで、
少し気恥ずかしそうに言葉を続けた。
『あ、い、いえ!。分かっていただけたなら・・・こちらこそごめんなさい』
連絡をしなかったのは俺なのに、
きちんと謝ってくる。
うーん、良い子だなこの子。
『そ、そうだ。ルーク君に伝えなくてはいけない事があったんです』
「伝えなくてはいけないこと?」
なんだろう嫌な予感しかしないけど。
『この世界でのルーク君に対する神託が決まりました。』
「神託?」
『はい。転生者に対する神からの唯一無二のミッション。それが神託です』
「・・・そんな話は聞いてないが?」
『そ、それは私が・・・その慌てて伝え忘れてて・・ごめんなさい』
テレシアによると、
例の転生チャンスに当選した者には何らかの神様からの課題が課せられるらしい。
そんな大事な事を伝え忘れたのかこの子は。
「・・・ちなみに神託を拒否することは出来るのか?」
『可能と言えば可能ですけど、転生の権利を即剥奪のうえ、魂そのものが消滅するそうです。そうなると普通の再転生ももう出来ません』
つまり事実上の拒否権は存在しないということか。
「例えばどんな課題があるんだ?」
『ちょっと待ってくださいね、手元に過去資料が・・・えっと。伝説の海賊が死ぬ間際に残した伝説の宝たちを手に入れて海賊達の王になるミッションや、数多の女の子を手込めにしながら、幼いころに生き別れた父と同じ偉大なる魔法使いになると言ったミッションがあるようですね。こちらはまだ未達成のようですが・・・』
「それって・・・いやなんでもない」
俺は開きかけた口を閉じる。
この世界には言わなくても良いことも多々あるのだ。
「それで?俺にもなにか課題・・・神託が与えられたんだろ?一体どんな神託なんだ?」
俺はテレシアに尋ねる。
『は、はい。主神から受け取った書簡には・・・えっと、10年以内に現れる邪神と戦いこれを討伐。勇者として破滅の運命からこの世界を仲間と共に救うこと、と書かれています』
「破滅の運命・・・?」
うーん、突然のことで受け止めきれないな。
破滅の運命ってやばいやつなんじゃなかろうか。
「邪神って一体どんななんだ。バルガスより強いのか」
俺はテレシアに尋ねる。
『すみません、そこまでの情報はなくて・・・』
それもそうか、と俺は思った。
だが、そこまで危機感を感じていないのは俺が持つ例の特典のお陰だ。
ぶっちゃけ俺には最強魔法があるし、
伝説級と言われた魔獣バルガスをあれだけ簡単に倒せたのだ。
邪神を倒すくらい簡単だろう。
しかも神託によると俺には仲間が出来るとのことで、
一人ではないと言う部分も心強い。
『あ、ちょっと待ってください。文章の下の方にただし書きが・・・』
テレシアが言葉を続ける。
『ただし、転生時の特典として与えた最強魔法についてはこの世界そのものを滅ぼしかねないため、原則使用禁止とする。だ、そうです。』
「それってどういうことだ」
『これにつ・は私も分か・・・せん、ただ文・・・には・・書い・・ります』
途端にテレシアとの更新状態が悪くなる。
ザーザーと砂嵐のような音がなっている。
『・・・ク君!・・・ルー・・!』
テレシアの叫び声を最後に砂嵐の音しか聞こえなくなった。
「テレシア?おいテレシア!?」
「おい、ルーク。お前さっきから小声で何をブツブツ言ってるんだ?テレシアってのは誰だ?」
父の声にハッとする。
「い、いや。なんでもないよ、父さん」
「そうか、それならいいんだが。バルガスの件もあるし、帰ったらゆっくり話をしよう、女神から授けられたと言う魔法の件も詳しく聞きたいしな」
「あ、えっとそのことなんだけど・・・」
「どうした?」
「どうやら、俺は魔法が使えなくなったらしい。」
「おいおい、それってどういう・・・」
「あと父さんの言うとおり、俺は勇者らしい。」
父さんはもはや言葉も出ないといった様子だ。
しかし俺ももはや何を自分で言っているのかも分からない。
このあとは二人ともほぼ無言で聖都までの道のりを駆けた。
最強魔法を手にこの世界に転生を果たした俺だったが、
その最強魔法は、世界を滅ぼしかねないという理由で、
力を与えた神自身により使用を禁止された。
残ったのは世界を救うという神からの神託だけで、
俺はほぼ丸腰でこの課題に挑まなくてはいけないのであった。
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