第86話 最強魔法と侵入した悪意
「カリュ、アド・・・?」
シャルルは立ち上がり、
カリュアドの背中に話しかける。
信じたくない事が起きている。
カリュアドはゆっくりとシャルルに振り向いた。
その目はさきほどまでの優しいカリュアドのものではない。
悪意と、殺意に溢れた獣の目だ。
「いつ気が付くかと、クク、思っていました」
そう言うとカリュアドの身体が黒い光に包まれ、
その様相を変えた。
「お、お前は・・・」
黒い靄の中から現れたのは、
鍛え上げられたカリュアドの身体とは似ても似つかない、
枯木のように細長い男であった。
気色の悪い笑みを浮かべている。
「クククク、こんばんわ。矮小なシャルル様」
ピラの街に現れた枯木の男。
その男が再び目の前に現れた。
シャルルは立ち上がる。
「貴様、カリュアドはどうした・・・」
シャルルは尋ねる。
「クク、どうですかね。一体どこから入れ替わっていた、そう思いますか?私もそう思います。クク、この手のトリックはタイミングが命ですからね。カリュアドなんて最初から居なかった、私がカリュアドです。クク、なんちゃって。それっぽいですか?」
枯木の男は相変わらず支離滅裂な話をしている。
会話にならない苛立ちから、シャルルは剣を抜いた。
「ふざけるな、質問に答えろ。」
「クク。申し訳ありません、副団長。たしかに私はカリュアドではありません、クク。彼はここには居ません。この世には、かも。クク」
こんな男に一時でもラフィットの指揮を任せてしまった。
シャルルは自らの短慮を悔やむ。
「・・・ラフィットを動かし、どうするつもりだ?」
「クク、ラフィット。最強の騎士団。かの有名な騎士団長は別行動中。残った騎士もほとんど都の外に出した。クク、こんな好機二度とありません。テステフを焚き付けた甲斐がありました。」
シャルルは枯木の男の言動に注意を払いつつも、
これ以上混乱させられぬよう必要以上の情報は頭に入れないことにした。
もはやこの男の言葉は全てが信じられない。
「クク、驚いてくださいね。今からクク。ここ王都でスタンピードを起こします」
「・・・な、んだと?」
「すでに準備は済んでいます。ククク、私が指示を出せば今すぐにでも王都内に莫大な数の魔物を産み出せます。クク。どうですか?絶望を感じますか」
枯木の男はもはや笑いが抑えられないと言った様子で口許を抑えていた。
シャルルは枯木の男の言葉が信じられなかった。
「・・・お、王都にどれだけの人間が住んでいると思っている?そんな事をすれば」
「・・どれだけの人が死ぬでしょうね。クク、本当に楽しみだ」
そう言って枯木の男はにっこりと笑う。
そのおぞましい笑顔にシャルルは吐き気を催した。
被害など考えていない。
この男は人が死のうと何も感じないのだ。
「矮小な副団長様に感謝を。それから死んでくれた王にも。取り敢えずあなたには言うことを聞いて貰います。やるべき事が終わるまで、ね。クク、王都の全ての命が人質です。クク、拒否権はありませんね」
シャルルは力なく、椅子に座り込んだ。
そして目の前の男に対する憎しみに拳を潰しながら、
自らの愚かさを悔やんだ。
その日、最強の騎士団を備える難攻不落と呼ばれた王都は
たった一人の男に占領された。
・・・
・・
・
バロンたちと合流を果たした、俺たち。
スタンピード対応組とアルバ調査組。
俺たちは別行動を開始してから数日間の、
それぞれの状況を共有した。
ここでひとつ問題が発生する。
テレシアの件である。
ククルが顔面を蒼白にしながら
テレシアの安否を気にかけているため、
出来れば彼女の無事(?)を伝えてあげたい。
だがそこを説明するためには、
テレシアが女神だと言うことも説明する必要があり、
とてもではないが今の状況で、
理路整然と話をする自信が無かった。
下手をすると真面目なククルからは冗談を言うなと怒られる可能性もある。
怒ったククルは怖いのだ。
うむ。
ここはククルには悪いが、黙っておくのが吉だろう。
戦いが終わったらきちんと説明しよう。
そうしよう。
俺がそう心に決めて、
次の行動について話をしようかと思った時、
あの男が口を開いた。
「大丈夫ですぞ、ククル。テレシアちゃんは無事です。そちらの情報もテレシアちゃんを通してきちんと入手しておりましたから。そうですよね、ルーク殿!」
一瞬にして空気が凍りつく。
そうだ。
こいつが居たのを忘れていた。
モルドレッド自身があまり細かいことを気にしないタイプだから、俺も気にせずに何度もテレシアと交信をしていた。
バロンと、ククル、それからボルド王の視線が俺に集まる。
「・・・どういう事?」
ククルがすがる様な目で俺を見た。
う、これはもう言い逃れ出来ない。
俺はヒナタ以外の面子に、
テレシアの事を説明することにした。
恨むぜ、モルドレッド。




