第80話 最強魔法と枯木の男
「ククク、誰かと思えばかの有名なラフィット騎士団じゃあないですか。・・・もう死んでるかと思って見に来たが、ククなかなか頑張っているようですね」
声の主は突然生まれた黒い靄の中から現れた。
痩せ細った体躯に枯木のような印象を覚える男だ。
「貴様は・・・誰だ?」
シャルルが枯木の男に話しかける。
「ククク、私ですか?なんでしょう。この場合何と言えばそれらしいですかね?クク、いやここは名乗らないが逆にそれらしいか。クク、そうしましょう。矮小な存在に名乗る名などない、これが答えです」
そう言って枯木の男はクスクスと笑い始めた。
その異様な姿に、シャルルが言葉をつまらせる。
「・・・貴方は、そうか!ラフィットの若き天才騎士ですね。お名前はたしかシャルルさん!かの有名人にこんな所で出会えるとは光栄ですよ!」
枯木の男はパッと明るい笑顔を見せる。
気色悪い笑顔だ。
「・・・こっちは貴様みたいなやつに名前を覚えられていてもまったく嬉しくない。貴様、なぜこんな所にいる
?どうやって現れた?」
シャルルが質問をするが、枯木の男にはまるで届いていないように思えた。
男はまだ一人ごとを言って、笑っている。
「シャルル・シュヴァリエ、シャルル・シュヴァリエ。ククク、天才騎士と言われながら病によりもはやその命は空前の灯火。残りカスのような矮小な存在が・・・ククク、主も失ったと言うのにこんなところで・・・ククク」
「・・・ッ!貴様、言わせておけば。主を失ったと言うのはどういう意味だ」
枯木の男の挑発に、明らかに殺気を増すシャルル。
「ククク、知りたいですか?知りたいですよね?でも教えません。あなた方の矮小な王が、我が矮小ではないアルバによって討たれたなんて話は絶対に教えてあげません、クククク」
「・・・王が討たれた、だと」
枯木の男の言葉に、シャルルが一瞬だけ動揺する。
だが俺も男が放った言葉の別の部分に動揺していた。
アルバ。
こいつが言ったのは確かに俺たちが追っている伝説の魔獣の名前だった。
別で動いているバロン、ククル、そしてテレシアの顔がよぎる。
俺は即座に剣に炎を纏わせ、戦闘体制に入る。
こいつは危険だ。
俺の明らかな変化に、シャルルが不思議そうに尋ねる。
「ルーク・・・?」
「シャルルさん、こいつは重要参考人だ。王が討たれたって話は眉唾だけど、どうやらこの事件について何かを知っているらしい」
今までシャルルに向いていた枯木の男の視線が俺に移る。
「ん~、ククク君は誰だ?知らない子供だな。ククク、名はなんと言うんだ?ククク」
ゾッとするような声色に、俺はさらに殺気を高める。
あまりの嫌悪感に、無意識に斬りかかってしまいそうだ。
「・・・黙れよ、おっさん。まずは知ってること吐いてもらうぞ」
俺の言葉に枯木の男はさらに笑顔を強める。
「ククク、結構結構。子供は生意気ぐらいがよろしい。ところで、クク、シャルル君でしたっけ?まぁ名前などどうでもいいか。こんな所まで来てしまって良いのですか?」
枯木の男は再びシャルルに話しかける。
「・・・どういう事だ?」
「ククク、分からないですか。クク、矮小な存在だから。ここまで私たちの、クク、策が上手く進んだのは、クククある意味で君のお陰です」
「・・策、だと?」
「ククク、その通り。アルバを生み出せたのも、王を討てたのも、そしてこんな所まで厄介なラフィット騎士団を連れてきてくれたのも、全部君のお陰さ。すべてがありがたい。矮小な君と、矮小なラフィット騎士団、そして矮小なボルド王に感謝していますよ・・・」
「・・・ッ!貴様!!」
遂に我慢の限界を迎えたシャルルが枯木の男に切りかかる。
だが、その剣は枯木の男に届くことなく、枯木の男をすり抜ける。
「・・・な、んだと」
「ククク、無駄なこと。私はここには居ませんから。いや本当はどこにも居ないのかも知れませんね、いやそんなことないか。ククク、とにかく君はどうすることも出来ません。大人しくボルド王都が蹂躙されるのを見届けるが良いです」
枯木の男の姿が薄れ始める。
「待て、今なんと言った?」
シャルルが叫ぶ。
「ククク、何度でも言いますよ。王都は陥落する。我らの策によりね。クク、もう遅い。今から戻っても間に合いません。第一王も居ないし、ね」
そう言うと枯木の男は、黒い靄に包まれ再び消えた。
「待て!!」
シャルルが叫ぶが、そこにはすでに枯木の男の姿形もなかった。




