第69話 最強魔法と赤き蛇
「うわああぁあ!」
目の前で一人の騎士がオーク達の槍に滅多刺しにされる。
下劣な笑い声を上げながら、オーク達が槍を振るっていた。
クロード騎士団長のクロードはその光景に戦慄していた。
20名の屈強な重戦士を有するクロード騎士団は、
発生したスタンピードを制圧すべく戦っていた。
だが通常のスタンピードを凌駕する魔物の発生量に壊滅の危機を迎えていた。
幸い近隣の村の村民達はすでに避難させてはいるが、
このままでは自分も含めたクロード騎士団は全滅だ。
そうなればこの魔物の群れは獲物を求めて移動を始めるだろう。
クロードは声を張り上げて、
いまや半数に減ってしまったクロード騎士団の騎士達に檄をとばす。
「全員聞け、ここで我らが倒れれば、我らがボルドの地が魔物どもに蹂躙されるであろう!奮えクロード騎士団よ!こここそが我らの死地と思え!」
その言葉に、一瞬騎士達の士気が上がる。
さすがは頼れるクロード騎士団の戦士達だ。
その光景にクロードは目頭が熱くなる。
残りの魔物はオークが50頭程度。
我らならばなんとか、いけるやも知れん。
クロードがそう安堵した瞬間であった。
ーーーーーズズズズン
地震にも似た振動が、辺りを襲った。
それと同時に、地面から気味の悪い咆哮が響く。
「ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!」
「な、なんだ・・・」
地震が止み、
クロードが顔を上げるとそこには信じがたい光景が広がっていた。
「こ、これは・・・」
そこに現れたのは、到底生物とは思えぬほど巨大な蛇であった。
禍々しいほどに赤く染まった胴体は、
大木のように太く、
そして宝石のように赤く鋭い目がこちらを見ていた。
「な、んだ・・・こいつ」
クロード騎士団の誰かが呟く。
「あ、あれを見ろ!」
団員の一人が指差したのは、
大蛇の身体の真下であった。
赤い魔力の光に包まれた地面から、
夥しい数のオークが溢れて出てきていた。
それは間違いなく、スタンピードであった。
数百体以上のオークがクロード達を取り囲む。
「う・・・あ・・・」
クロードは故郷に残してきた、家族の顔を思い出す。
そういえば来週は息子マルキの誕生日だったか。
「ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!」
山中に再び、大蛇の咆哮が響く。
同時にオークの群れが一斉にクロード騎士団に襲いかかった。
・・・
・・
・
ボルド王国のとある建物。
荘厳なラフィット騎士団の一室に、二人の男がいた。
「スタンピードの状況はどうですか?」
男の一人、ラフィット騎士団副団長のシャルルは、
自らの副長に質問する。
「は、数日前より投入可能な騎士はすべて鎮圧に向かわせております。ですがスタンピードの規模が日増しに拡大しており、鎮圧に時間が掛かっております。」
「そうですか・・・」
ラフィット騎士団はSクラス騎士団だ。
集団での戦いを最も得意としながらも、
一人一人の騎士の戦闘力も非常に高い。
ラフィットの騎士達が制圧出来ないと言うことは、
並の騎士団ではスタンピードへの対応はかなり苦しいだろう。
「被害は?」
「各地の騎士達は避難を優先しておりますが、騎士団の派遣が間に合わぬ地域では・・・」
シャルルは考える。
騎士団長の居ない今は、
副団長である自分が決断しなくてはならない。
「・・・ラフィットの本隊を動かしましょう」
「しかし、それでは国防に影響が・・・」
「どちらにせよ、国内に被害が出ています。国防と言う意味では我々が対応せねば被害は増すばかりです。動かぬテステフに怯え、民を殺すわけにはいきません。」
「承知いたしました」
そう言うとシャルルの命を実行すべく、部屋を出ていった。
ここまで拡大してしまったスタンピードに今から対応すれば、
たとえラフィット騎士団と言えど時間がかかるだろう。
シャルルは一人になった部屋で、
眉間にシワを寄せて頭を抱えた。
「・・・こんな時にどこに行ったのです、ボルド王よ」
若き騎士は数日前に姿を消した、自らの王を思った。




