第68話 最強魔法と新たな魔法
俺は隣にいるヒナタに声をかける。
「ヒナタ」
「ん?」
「ちょっと試したいことがある」
「なに?」
ヒナタが首を傾げる。
「大丈夫?」
「よく分からんけどなんかいけるかも知れない。よく分からんけど」
気の抜けた俺の言葉に首を傾げながらも、
ヒナタは俺の後ろに下がった。
仕方ない、俺自身もよく分かっていないのだ。
俺はリザードキングの前に出る。
リザードキングは俺を睨みながら、
爬虫類の様にその口先からチロチロと舌を出し入れしている。
捕食者が、獲物を見つめる目。
そんな印象を抱いた。
胸の痣は更に熱を高めて鼓動し、
まるで俺に「早く魔法を使え」と急かさんばかりに鼓動していた。
初めての事に戸惑いながらも先ほどまでの危機感。
リザードキングに対峙し、死が間近にあるという
緊張感が幾分か薄れていた。
今、俺の心に満ちる感情は、おそらく期待。
高鳴る鼓動が、
俺自身が早く魔法を使ってみたいと
ワクワクしてしまっているのだという事を如実に表していた。
「グギャルルル・・・」
リザードキングはうなり声を上げながら再び姿勢を低くし、
ちょうどクラウチングスタイルの様な体勢となった。
槍を片手に構え、全力で突進してくるつもりであることが伺える。
俺は剣を正面に構えた。
一瞬の静寂の後、
リザードキングが大地を蹴った。
とてつもない初速から、
更にスピードに乗るリザードキング。
まるで大型のダンプカーの様に、大地を唸らせて突進してくる。
その巨体がもう目の前に迫る。
剣と槍が触れ合うかと思われた瞬間、
俺の旨の痣の熱が最大限に高まった。
もはや俺の意志を越えた反射のように、
自然と全身に魔力が収束する。
脳裏に浮かぶ魔法名。
俺はその魔法を知っていた。
かつてテレシアの前で初めて魔法を使用した際、
俺が魔力不足により倒れる原因となった魔法だ。
今なら分かる。
あれは決して俺の魔力の絶対量が足りなかった訳ではない。
ただ使った魔法がとてつもない量の魔力を必要とする魔法だっただけだ。
俺は魔法名を唱える。
今度はたっぷりと魔力を収束させ、残存魔力のほとんどをつぎ込んでやる。
<悠久>
次の瞬間、リザードキングの突進と俺の身体が交差した。
「ぐっ・・・」
あまりの脱力感に意識を失いそうになる。
膝から力が抜け、片ひざをつく。
さすがにキツかったか。
「ルーク!」
ヒナタの声が聞こえた。
俺は霞む目を凝らし、後方に過ぎたリザードキングの方を振り返る。
リザードキングは、槍を突きだした突進の姿勢のまま動きを止めていた。
そして、次の瞬間リザードキングの頭部だけが身体からゴロリと落ち、
それからゆっくりとその巨体が倒れた。
勝負ありだ。
「グギャアアア!」
「グギャグギャ!!」
「ギャオオオン」
リザードキングが倒れたことにより、
リザードマン達の間に一気に混乱が起きる。
その場から逃げ出すリザードマンもいたが、
大多数が交戦の意思を強めていた。
リザードキングの敵討ちのつもりか、
リザードマン達はさきほどより荒々しく
こちらに敵意を向けていた。
まずいな。
残りは30体に程度だが、俺はもはや一歩も動ける気がしない。
ヒナタもダメージを追っており、単独で相手をするのは不可能だろう。
順当にピンチを迎えた俺達の耳に、
見計らったようなタイミングでよく知る声が聞こえた。
<風瀑布>
と同時に上空から爆風が吹き、
リザードマンたちに襲いかかった。
吹き飛ばされ地面に叩きつけられるリザードマン達。
あるものは風圧に潰され、そのまま圧死している。
「お待たせいたしました!ルーク殿、ヒナタ殿!魔導師モルドレッド推参!」
謎のポーズを決めながら、モルドレッドが現れた。
タイミングが良すぎる。
「あとは私にお任せくだされ!」
<風鎌><風鎌>
瓦解したリザードマンの群れに次々と魔法を放つモルドレッド。
その姿を見ながらヒナタが呟いた。
「なんかムカつく」
同感だ。
ヒナタはそのままモルドレッドと一緒に、
残ったリザードマンの掃討に加わった。
俺はその場から動けず二人に任せることにした。
やがて辺りから魔物の気配が消え、静寂が訪れた。
この村で発生したスタンピードはなんとか制圧出来たようだ。




