第60話 最強魔法と力の覚醒
家を飛び出した俺は花畑の方へ走る。
誰よりも早く飛び出した俺に、
付いてくるのはやはりヒナタだ。
俺とヒナタの全力疾走のスピードはほぼ同じ。
それはいままでの仕事を通してよく理解している。
だがすまんな、ヒナタ。
今日からの俺は一味違うぞ。
俺は走りながら、意識を体内に集中する。
モルドレッドは教えてくれた。
魔法の極意はイメージ力だと。
炎を呼び出すときには熱のイメージを。
氷を呼び出すときには冷気のイメージを。
自らの魔力を触媒にして、
現実に影響を与える術。
それが魔法だと。
魔導師として大成するには、
最低でも少なくとも10年は
イメージ力を鍛える訓練を積む必要があるらしい。
だからこの世界には魔導師が少ない。
だが俺にはすでに前世から数えて30年以上の
妄想の実績がある。
前世今世通して続けてきた日々の努力(?)が、
ついに実を結ぶ時が来たのだ。
アニオタで良かった。
俺は走りながらさらに魔力を集束させる。
そして背中を押すように後ろから吹く強烈な風をイメージして、
魔法を発動させる。
<風天>
その途端、俺の背中に強力な風がぶつかり体を押した。
反動で俺の走るスピードはどんどんと上がり、
ついには後ろを走るヒナタを置き去りにする。
いいぞ、このままならあっという間に花畑につける。
生身の体と桁違いの速度だ。
早く戦いたい。魔法を使いたい。
この力があれば俺はもっと強くなれる。
ワクワクした感情を我慢出来ず俺は笑みを溢しながら、
走る速度をさらに上げた。
美しかったエモフィラの花畑は無惨な姿となっていた。
赤い花は枯れ、大地がむき出しになっている。
エモフィラから漏れだした真っ赤な魔力により、
大地がそのものが怪しく輝き、
そこから無数の魔物が這い出していた。
ゴブリン、オーク・・・
見渡す限りでは50匹以上の魔物が蠢き、
まだまだ増え続けている。
これがスタンピードか。
魔物たちは意識を失ったようにうなり声をあげて、
獲物を求めて辺りを見渡している。
生まれたばかりの魔物たちに共通するのは強い飢餓感。
あのスタンピードに巻き込まれたものは人間だろうと魔物だろうと、肉片も残さぬほど食い荒らされてしまうのだ。
「これは・・・強烈だな」
俺はその光景を前に立ち止まり、
腰に差した剣を引き抜く。
同時に俺に気が付いた何頭かの魔物が鳴き声をあげて、
こちらに向かってくる。
その行動にさらに多くの魔物が俺に気が付き、
スタンピード全体に俺と言う獲物を補食する意思が生まれた気がした。
「いいぞ、かかってこい。こっちも初めての魔法戦闘でワクワクしているんだ」
そして俺は魔力を集束させる。
どんどん魔力の集束に慣れていくのがわかる。
初めてテレシアに魔法を教えて貰った時より遥かに早く、
濃密な魔力を集束させられている。
「くらえ」
<炎柱>
俺が魔法を詠唱した瞬間、
巨大な炎の柱がスタンピードの中心に巻き起こった。
<炎柱>はかつてテレシアが使用したものより、
高く広く燃え盛る。
一瞬の出来事に、スタンピードの魔物たちは大混乱に陥った。
そして叫び声をあげ一斉に俺に敵意を向ける。
「来い」
<炎刀>
俺が魔法を唱えると剣が炎を纏う。
これが俺が長年、妄想してきた成果だ。
燃え盛る剣。
当然のごとく、息をするように魔法が使える。
やはり魔法は俺の身体に馴染む。
俺は炎刀を振るい、
殺意に支配された魔物の集団へと突っ込んだ。
「プギャアアアアアア!!」
ゴブリンがその凶悪な爪を俺にむける。
それをダックして回避し、
そのまま一刀にゴブリンの首を跳ねる。
剣に魔法を纏わせることで剣の威力が強化されているようで、
ゴブリンは簡単に真っ二つになった。
ゴブリンは切り口から一気に炎上する。
俺はその瞬間にも次の魔物に切りかかる。
炎刀に怯み反応が遅れるゴブリンたち、
一頭、二頭、三頭。
一瞬の攻防で肉片に変わった。
「プギャアアアアアア」
「グギャグギャァ」
「ギャオオオン」
魔物たちはさらに怒気を強め、
俺を中心に円陣となる。
前後左右から敵意を向けられ取り込まれる。
まだまだ足りない。
いいぞ、魔物ども。
とことん戦おう。
「ウォォォォ!!」
<炎弾><炎弾><炎弾>
魔物達の中に炎を撃ち込む。
爆発と共に、何頭ものオークが火だるまになる。
焼き付く肉の臭いが鼻をついた。
それをきっかけに、周囲の魔物の群れが
まるで雪崩のように俺に押し寄せてきた。
俺の叫び声と獣の叫び声。
どちらの声かも認識出来ぬほどの怒号のなか、
俺は初めての魔法戦闘に酔いしれ、
剣を振るい続けた。
・・・
・・
・
「ピギャアアアアア!!」
目の前のゴブリンをまた一体切り捨てる。
俺の周囲には数十体以上の、魔物の死体が転がっている。
「まだ・・・いやがるのか」
肩で息をしながら、俺は呟く。
かなりの魔物を切り捨て、焼き払ったつもりであったが
俺を取り囲む魔物の数はようやく半数になったくらいであった。
スタンピードは膨れ上がった魔力が尽きるまで、
魔物を生み出し続ける。
「・・・う」
不意に立ちくらみがして、
集約していた魔力が霧散したことがわかった。
<炎刀>により剣に纏った炎が消える。
どうやら魔力が切れてきたようだ。
これ以上使えばまた意識を失ってしまう危険性がある。
全開で約6分。
これが今の俺の魔法戦闘の限界と言うことだ。
「ギャギャギャ」
「プギャアアアアアアン」
「グォォォン」
俺の魔力切れを察知してか、
魔物のたちが殺気を強める。
いくらなんでも一人でこの数は無理だったか。
魔法戦闘にハイになっていた自分を反省する。
俺は炎の消えた剣を再び握りしめ、荒れ狂う魔物たちと対峙する。
その時。
<風鎌>
詠唱が聞こえると、魔物たちの後方から突風が吹く。
そしてその風に巻かれた魔物たちが、
一瞬のうちに全身をズタズタに切り裂かれた。
これはモルドレッドの得意魔法<風鎌>だ。
援軍の登場に安堵していると、
今度は魔物の集団の頭上から一つの黒い影が飛び出してきた。
影は俺の目の前に着地をすると、
そのまま剣を振るい、
ゴブリンを一刀に切り伏せた。
「ヒナタ・・・」
「先行は危険。自重して。」
「すまん」
俺とヒナタはいつもの通りに、
お互いに背を向け互いの背後を守りながら
正面の敵に剣を向ける。
「オラオラオラァ!こっちもいるぞ!」
更に別方向からはバロンの威勢のいい声が聞こえる。
魔銀の大盾を構え、勢いに任せて突っ込んでくる。
「大丈夫?ルーク君!」
「わわわ、いっぱい居ます」
バロンが切り開いた道からテレシアとククルが現れる。
仲間たちの登場に一気に魔物たちが騒ぎ出す。
「一人で先行するんじゃねぇよ、テメェはいつもよ」
ククルの回復魔法にかかりながら、バロンに小突かれる。
ごもっともだ。
さて、ここからは我が騎士団の総力戦だ。
新生ムートン騎士団の力を見せてやろう。
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