第6話 最強魔法と遺跡探索
ジークたち一行は、
バルガス遺跡の深奥を目指して探索していた。
ここに来るまでにたくさんの魔物と出会ったが、
そのどれもがジーク達には一切目もくれずに、
まるで何かから逃げるように遺跡の出口の方へ向かっていく。
その異常な行動に、騎士団の一行は緊張感を高めていた。
「ジークさん、こりゃ完全におかしいぜ、こんな静かなバルガス遺跡。初めてだ」
バルガスの街の騎士団長であるトーマスが言った。
バルガス遺跡は魔物が多く生息しており、
いつでも魔物や生物の気配で溢れているのだ。
「全員、抜刀しておけ。警戒を怠るな」
トーマスは騎士団員に指示を出す。
その時、遺跡の奥に動く黒く大きな影が見えた。
こちらに向かってきているようだ。
「・・・隠れろ」
ジークの言葉に近くの瓦礫の影に身を潜める騎士団。
息を殺して隠れていると、
やがて黒い影が一行のすぐ側までやってきた。
強烈な獣の臭い。
巨大な体に黒い体毛。
10メートルはあろうかと言う巨体。
そして頭部には巨大な四本の角。
狭い通路を歩く度にズシン、ズシンと地面が揺れる。
「あれは、なんだ・・・」
「恐らくですがべ、ベヒーモスです、ジークさん。だけど角が四本ある・・・信じられない」
隠れながら小声で話すジークとトーマス。
どうやらジークたちには気が付かず、通路の向こうへと去ってくれたようだ。
ベヒーモス自体はAランクに分類される魔物で、
危険度が非常に高い。
頭部に生える通常二本の角は、
魔法の触媒として使われるほど強い魔力を帯びている。
一説にはその角が大きければ大きいほど、
長い時を生きた強力な個体だと認識されている。
「角が4本・・・まさか」
ジークは幼き頃父ワーグに聞かされた、
バルガスの街に伝わる伝説を思い出す。
バルガス遺跡には強力な封印が施されており、
その深奥には魔獣バルガスが眠っているという。
だからバルガス遺跡には近付いてはならない。
大人達は皆そうやって子供たちを脅すのであった。
他愛のない訓話。
だが今、実際に伝説の魔獣が目の前に姿を表した。
ジークの手足は自然と震えてしまっていた。
結局、騎士団は何をすることも出来ず、
完全に魔獣バルガスの気配が消えてから瓦礫から這い出した。
一同は引き返すことも出来ず、遺跡の中で途方に暮れることになった。
・・・
・・
・
『ルーク君、あれを!』
俺はテレシアの声に反応し、顔をあげる。
ここまで全力で走ってきたため、息が上がっていた。
くそ、子供だから体力がない。
大きく口を開けた遺跡の入口に、
馬が繋がれていた。
騎士団の馬だ。
「父さん達はもう中に入ったのか。テレシア、案内頼めるか」
『分かりました!お任せください』
テレシアに道を指示され、俺は遺跡へと進入する。
中はところどころ道が崩れ、屋根が崩れ迷路のような状態になっていた。
「随分壊れてるな。父さんに聞いた話ではこの遺跡は街の人たちに大切にされていて、浅い階層は比較的整備が行き届いてるって事だったが・・・」
『それは間違いないのですが、昨日のルーク君の魔法により・・・』
「分かった、それ以上は言わないでくれ」
歴史的建造物を破壊するなんて。
どこかの若者より質が悪い。
俺はそんな人間になってしまったのか。
そう嘆いていると、突然テレシアが声をあげた。
『ルーク君、前方30メートルの部屋の中。目標を発見しました!』
見れば目の前には、集会所を思わせる広めの部屋が広がっていた。
暗くてよく見えないが、
その内部からは恐ろしく低く響くうなり声が聞こえるのであった。
そこになにか恐ろしい存在が待ち構えていることを、
俺は本能的に理解していた。