第59話 最強魔法と青い花畑
「こちらです」
青年に案内されたのは村で一番大きな建物であった。
その一室に俺たちは通される。
そこには一人の老人が横たわっていた。
「ようこそ騎士団の方々。体調が悪くきちんとご挨拶も出来ず、申し訳ありません」
老人はベッドで体だけ起こして挨拶をする。
「初めまして、ムートン騎士団です。この度は依頼書を拝見し伺いました。」
ククルが前に出て挨拶をする。
そして振り返り俺に視線だけで合図をする。
「えっと、ムートン騎士団長のルークです。よろしくお願いします」
「おやおや、見たところ一番お若い貴方が騎士団長とは。才気溢れる方々がお越しいただき誠にありがたいです」
そう言って村長はニコリと笑う。
温かい人だ。
「早速ですが、魔物の大量発生の予兆があると伺いました。依頼書は拝見しましたが詳細を教えていただきますか?」
ククルがさっそく話を進める。
「もちろんです。詳細は息子のジョセフからお話しましょう」
そう言って村長はゴホゴホと咳をする。
体調が悪そうだ。
「父さん、無理をしないで。ジョセフです。改めてよろしくお願いします」
挨拶をしたのは俺たちを案内してくれた青年だ。
魔物の大量発生。
所謂、スタンピードの予兆は大きく分けて二つある。
ひとつは魔力の歪みによる環境の変化。
急速に木が枯れたり、泉が濁ったり。
従来ではありえないような変化が起きたときには、
スタンピードが起きる予兆と言われている。
もう一つはフィロキテラと呼ばれる昆虫の発生である。
普段は何の害もおよばさないただの昆虫ではあるが、
フィロキテラは別名「死を呼ぶ虫」と呼ばれており、
この虫が大量に集まる時は確実にスタンピードが起きることが分かっている。
スタンピードの規模により、その予兆の規模は大きくなる。
もしも予兆を調査してその規模が大きいと判断される場合は、
早急にボルドの騎士組合に報告の上支援を貰わないといけない。
「予兆が現れたのは、村の西の草原にある花畑です」
「花畑・・・?」
俺は質問をする。
「はい、そこは毎年エモフィラという小さな青い花が咲き誇る花畑でした。その美しさから村の観光資源にもなっていたくらいで、よくボルドからその花畑を見に貴族の方々もいらしていたくらいです」
「その花畑に変化が?」
「はい。今年はその花が、ひとつ残らず赤く染まったんです」
「赤く、ですか・・・」
青い花が赤く染まる、それも一面すべてがと言うことであれば
間違いなく自然現象ではないだろう。
「自然界で赤く変化が起きる場合は魔力異常によることが多いわ・・・」
ククルが言う。
「こりゃ十中八九決まりだな、おい。」
バロンがククルに尋ねる。
「えぇ、あとは規模だけど・・・これは実際に見に行った方が早いかも知れないわね」
そう言うとジョセフが立ち上がる。
「花畑は村からすぐのところにありますので、ご案内します!」
俺たちは村長の家を出て花畑へ向かうことにした。
・・・
・・
・
「うわぁ、これ・・・」
「綺麗」
一面の真っ赤な花畑を前に、
うちの能天気二人娘がそんな感想を漏らす。
「ち、ちょっと二人とも」
ククルが慌てて注意するが、ジョセフは気にせずに笑う。
「大丈夫ですよ。綺麗ですよね、僕も魔物とかなにも関係なしにこれを見たらそう思います。でも青いエモフィラ畑はもっと綺麗なんですよ」
そう言ってジョセフは寂しそうに笑う。
「思ったより規模がでかそうだな」
エモフィラ畑は100メートル四方はあるだろうか。
この規模で魔力変化が起きていると言うことは、
それなりの規模の魔物が発生するだろう。
「かなり魔力が高まっておりますな、これはいつ魔物が発生してもおかしくないですぞ。数日以内には確実に溢れ出すでしょう」
騎士団唯一の魔導師であるモルドレッドが言う。
あ、俺が魔法を使えるようになったからもう唯一ではないか。
「一体どうすれば・・・」
ジョセフが困ったように言う。
「カカ、安心しろよ。なんのために俺たちが来たんだ。魔物は討伐してやる。青い花畑を取り戻そうぜ」
「・・・は、はい!よろしくお願いします」
ククルとバロンと話し合い、念のため騎士組合にはスタンピードの予兆に関する報告をいれることにした。
戦力的にムートン騎士団から伝令を出すのは止め、
村の若者がボルドに向かってくれることになった。
俺たち騎士団の足で往復5時間くらい。
若者は安全のため魔物を避けて大きく迂回するルートをとるため、
往復で1日はかかるだろう。
ムートン騎士団は村長の家に招かれ、
そこに宿泊することになった。
質素だが美味しい夕飯をご馳走になり、
スタンピードの発生に備えることにする。
間違いなく大規模な戦闘になるだろう。
「どうだ、そのあと何か感じたか?」
就寝前、俺はテレシアとヒナタの部屋を訪ねていた。
「いえ、あれ以来ピタリと変な気配は消えてしまいました。今は例の花畑の不安定な魔力しか感じません」
「そうか・・・」
テレシアが不安がっていたため様子を見に来たが、大丈夫と言うのであれば大丈夫なのだろう。
しかし一体なんだったのだろうか。
「・・・大丈夫、すべて倒す」
寝る支度をしていたヒナタがテレシアに声をかける。
力強く親指をたてている。
「ヒナタちゃん・・・ありがとう」
それを見て、なぜか涙ぐむテレシア。
そのやりとりを俺は暖かく見ていた。
テレシアの方が年上なはずだが、どうみてもヒナタがお姉ちゃんって感じだな。
当初こそテレシアのダメ女神ぶりにに幻滅していたヒナタであったが、
一緒に活動するうちに庇護欲求が高まったようだ。
今ではヒナタがテレシアの面倒を看ている光景をよく見かける。
「そうだな、頑張ろう」
俺はそう言って部屋を出ようとする。
その時、テレシアが大声で俺を呼び止めた。
「・・・ルーク君!村の外に魔物の反応です!これ、どんどん増えています」
その言葉にヒナタは一瞬で飛び起きて装備を整え始める。
俺も自室へと走る。
間違いない、スタンピードの発生だ。
俺は父さんの剣を腰に差し、
村長の家を飛び出した。




