第56話 最強魔法と王との謁見
ひとしきりロゼをからかった後にボルド王が真剣な顔に戻った。
「さて、戦争裁判をしねぇ理由だったな。てめぇらこっからは他言無用だぞ。まだ大臣たちしか知らねぇようなホットニュースだ」
少しドスの聞いた声にまた背筋が伸びる。
いったい何だと言うのだろう。
「近いうち、テステフとボルドは戦争になる」
「なっ!」
「そ、それは本当ですか!?」
ロゼとミリアルドが叫び、
他のメンバーにも動揺が走る。
それも当然だ、メドック国家連合の盟主であるボルドと戦争をするというのはメドック国家連合を敵に回すと言うのと同じだ。
単体としても圧倒的な戦力を持つボルド国、そこにメドック国家連合の他国の力が加わればたとえテステフと言えどその力の前には無力だ。
「これから戦争しようって相手の開く裁判なんてのこのこ出てくる訳ねぇだろ?だから戦争裁判は開いてやれねぇんだ。すまんな、ロゼ」
「テステフは一体なにを考えて・・・」
ロゼが言う。
ボルドとテステフには圧倒的な国力の差がある。
それは誰の目にも明らかであった。
「分からん、テステフ王家との連絡は断絶しちまってるし、やつらの背後にロワールの連中の暗躍も見られる。その辺は今はうちの騎士団が調査中だ」
ロワールと言うのは商業ギルド連合体の名称だ。
複数の国の経済的な繋がりだがその実験は王家ではなく、
商人たちが握っている。
ボルド王のもたらした突然の情報に判断の指針を失ってしまった。
戦争裁判で国家の復興を画策していたロゼ達にとっては、
出鼻どころか立っていた地面ごと崩れ落ちたような状況と言えるだろう。
茫然自失としているロゼ達にかける言葉もなく、
ボルド王を見ていると不意に俺とボルド王の目が合う。
「そこにいるお前、もしかしてムートン騎士団のルークか?」
突然名前を呼ばれ驚く。
「・・・はい、俺がルークです。俺の事をご存じなんですか?」
「ハハ、当たり前じゃねぇか。ムートン騎士団と言えば、新人ながら騎士団ランキング入りした期待の新星だろ。そんな有名どこの騎士団長くらい既に調査させてるぜ。」
騎士団ランキングがまさか王の耳にまで届いているとは思わなかった。
まさか俺が謁見のメンバーに入れられたのも、これが理由か。
ロゼ達の反応も納得がいった。
言えよ。
「いや、俺なんてまだまだですから。畏れ多いです」
俺はボルド王に素直に言った。
「あん?そうなのか、見たところ結構やるようだがな。試してやろうか?ちょっと俺と手合わせしてみるか 」
そう言ってボルド王はいそいそと剣に手をかけた。
おいおい、本気か?
一国の王と剣を交える自信はないぞ。
俺が躊躇していると、俺たちの後ろ、謁見の間の後ろから
声が掛かった。
「なりません、王よ」
凛としてよく通る声だ。
同時にカシャンカシャンと騎士鎧が近づいてくる音がする。
振り向いて見ると一人の金髪の青年がこちらに歩いてくる。
「シャルル、てめぇか。まだ人払いは解いてねーぞ」
ボルド王が低い声で言う。
彼の威厳から放たれる糾弾の言葉には力がある。
「ダメです!既に時間は超過しております、まだ待っている謁見希望者が居るのですよ。彼らを待たすのは不誠実と言うものです王よ」
ボルドの声にも怯まず、シャルルと呼ばれた青年は言い返す。
その勢いにボルド王が圧されてるのがわかった。
「ぐ、確かにそうだが・・・仕方ねぇな!おいロゼ!今の話は内密にしとけよ、お前ら旧ポイヤック王家にも手伝って貰う事があるかも知れねぇ!復興の件は事が片付いてからだ。」
「・・・っ!承知いたしました!」
ロゼが頭を下げる。
「それから・・・」
ボルド王は再び俺に視線を向ける。
「お前とは不思議な縁を感じるな。また近いうち会うことになりそうだ。俺の事を忘れるんじゃねーぞ。」
「承知いたしました」
と、俺が返事をした途端、後ろから強烈な殺気がした。
殺気の主は間違いなく、シャルルと呼ばれた青年だ。
「王・・・時間です」
感情を圧し殺したようなシャルルの再びの催促に俺たちは部屋を出る。
帰り際、シャルルとも目が合った気がした。
その目は獣のように俺を睨んでいた。




