第48話 最強魔法と天狗の鼻
ボルド王国は聖都の南にあり、
メドック国家連合で見ても最南端に位置している。
俺たち騎士団はポイヤック王家一行の護衛と言うことで帯同しているが、
実は街道も整備されており、道中では野盗も魔物も襲撃も少ない。
ポイヤック、テステフ、ボルドはガローヌと言う大河に沿って点在している。
ガローヌ大河は、広く流れの緩やかな川であり多くの恵みをメドック国家連合にもたらしてくれる。
特にボルドはガローヌの最上流に位置しているため、物資の運搬等で多くの富を産み出してきた。
「行きは馬車だけど、帰りは船で帰ってきてもいいかも知れないわね」
そんなことを言いながら、俺とロゼはまったりと会話をしていた 。ガローヌ川で川下りをした思い出や、ロゼの父である前王とボルドへ行ったときの思い出。
最近ヒナタとテレシアと騎士団の活動をすることが多かったので、
こうしてロゼと話せる時間は貴重だ。
「ありがとうございます、ルークさん」
休憩の時にミリアルドさんが話しかけてきた。
「あのようにいつも通り振る舞ってますが、内心はかなり緊張されている様子でした。しかしルークさんと話をしていて、それも和らいだようです」
ミリアルドさんは丁寧にお礼を言ってくれる。
だが俺は逆に恐縮してしまう。
そんなのまったく気が付かなかったな。
俺はただロゼと楽しく会話をしていただけだ。
俺が素直にそう伝えると、ミリアルドさんは
「それでも、でございます」
と言って俺から離れていった。
よく見ているな、相変わらず。
「おい、ルークよ。暇つぶしに付き合えよ」
続けて話しかけてきたのは木剣を2本担いだガルド将軍だ。
「暇つぶし、ですか?」
「最近、政治活動ばかりで稽古も碌に出来てなくてな。まぁ、軽く打ち込みでもさせてくれよ」
ガルド将軍は木剣を一本こちらに投げて寄越す。
「良いですよ、付き合います」
俺は木剣を拾い上げ、休憩場所から少し距離を取るために歩いた。
そういえば会話はするが、ガルド将軍の事をよく知らなかったな、と思いだす。
一国の将軍を担うくらいだ、かなりの腕前なのは確かだが。
「とりあえず致命打を撃った方が勝ちだ。怪我させる訳にもいかないし、俺は寸止めでやるぜ。お前は当ててくれても構わんぞ。当てられたら、な」
そう言ってガルド将軍がにやりと笑う。
俺はその言葉にカチンときた。
上等だ。ボコボコの顔面でボルド王との謁見に臨ませてやろう。
俺は静かに闘志を燃やし、ガルド将軍に向かい構える。
「来い」
その言葉にはもう答えずに、俺はガルド将軍に切りかかった。
まずは小手調べに、突進から喉元に突きを放つ。
ガルド将軍は、それを首の動きだけで避けた。
俺はそのまま横薙ぎに剣を振るう。
ガルド将軍は身体を伏せる。よし、狙い通りだ。
俺は身体を沈ませて低い体勢のガルド将軍の顔面目掛け、
思い切り蹴りを放った。
ドゴンと衝撃が走りクリーンヒット。
ガルド将軍は後ずさりする。
どうだ、ガキだと思って舐めるとこういう事になるんだ。
「クハハ、剣撃ふたつをフェイントに俺の動きを誘導するとは大したもんだ。最後の蹴りも一切の躊躇なしに振り抜きやがったな」
ガルド将軍は楽しそうに笑っている。
ダメージは、ないか。
頑丈な身体だ。
「続けますか?」
「当たり前だ。しかし流石だな。さすがその歳で騎士になるだけはあるぜ、ルークよ」
ガルド将軍はそう言って、剣を構えた。
「だがよ、上には上がいるって忘れてねぇか?」
その瞬間、ガルド将軍の全身からとてつもない殺気と闘気が溢れだした。
余りのプレッシャーに俺の全身から汗が吹き出る。
父との稽古はもちろん、どんな魔物と対峙した時にもこんな重圧を感じたことはない。
なんなんだ、これは。
「いくぜ・・・」
ガルド将軍は一足飛びで俺との距離を詰めてきた。
巨体からは想像がつかないほどのスピードだ。
そのスピードのまま、木剣を滑らせるように振り抜く。
あまり出来事にガルド将軍の動きも、そして自分も含めたすべてがスローに思えた。
あれ、これが走馬灯ってやつか。
まずいまずいまずい。
俺はプレッシャーにあてられ固まった身体をなんとか動かし、
ガルド将軍の横なぎを木剣で受け止めた。
だがその剣撃はあまりに重く、受け止められずに弾き飛ばされてしまう。
「ぐっ・・・」
崩れた体勢を立て直そうと、首を上げた瞬間。
『後ろから』俺の首筋に、剣が触れたのが分かった。
ガルド将軍はいつの間にか、吹き飛ばされた俺の背後に移動していた。
「詰みだ、俺の勝ちだな」
そう言って、ガルドは剣を収める。
あまりの事に俺はその場で茫然自失となった。
そんな俺にガルド将軍が声を掛ける。
「ポイヤックの騎士団を担うならよ、もっと強くなれよ。じゃねぇとロゼ様を守れはしねぇぞ」
俺はその言葉にガツンと頭を殴られた気がした。
「わかり・・・ました」
「ハハ、素直じゃねぇか。いいな、そこがお前の強いところだ。もちろん俺も協力するぜ、道中は一緒なんだし稽古くらいつけてやるよ」
ガルド将軍は笑いながら、馬車の方へと戻っていった。
俺は出発の時間になり、怒ったロゼが迎えに来るまでその場で立ち尽くしていた。
「どうした?」
揺れる馬車の中でも考え込む俺に、ヒナタが話しかけてきた。
「いや、なんでも・・・ない」
「そう」
そう言ってヒナタはそれ以上追及してこない。
こいつのこう言うところが楽だな、ホント。
ガルド将軍は俺に大事なことを学ばせてくれた。
騎士団を結成し、昇格し、ランキングにも載っていくらなんでも上手くいき過ぎていた。
知らず知らずのうちに、調子に乗っていたのかも知れない。
自分でランキングは不相応だと思っていたくせに、
天狗になっていたのだとすると最悪だな。
そう。
俺には神託をクリアする義務がある。
このままじゃ、邪神が現れても殺されるだけだ。
時間はない。
俺は誰よりも強くならないといけないのだ。
俺がそう決意すると再びヒナタと目があった。
「強く、なろうな」
俺の言葉に不思議そうな顔をするヒナタ。
だがすぐに笑って言う。
「当然」
それから休息の度に、俺とガルド将軍は剣を交わすことになった。
そこにヒナタも入り稽古はさらに激しさを増すことになる。
そうこうしている内に、俺たちはようやくボルド王国に到達することになるのであった。




