第38話 最強魔法と初めての騎士団員
翌日、すっかり体力の回復した俺とヒナタは
組合事務所へと呼び出されていた。
昨晩、ヒナタにはテレシアの正体と俺の出自を
説明したものの大したリアクションもなく、
何を考えているかよく分からないと言ったところであった。
確かに現実味の薄い「転生」に関しては省いて説明したため
我ながらしどろもどろの説明であったが、
「女神に選ばれた勇者」、「邪神を倒す神託」の辺りはしっかりと説明できたと思う。
こちらとしては大きな秘密を開示したと言うのに、
なんのリアクションも無いと言うのはかなり肩透かしをくらった気分である。
当の本人は朝からボーッとしており何かを考え込んでいる様子だ。
なんなんだお前は、と言いたくなる。
そうこうしている内に、組合に着いた俺とヒナタ。
受付で用件を告げると、奥の小部屋へと通された。
応接室のような部屋。
皮張りの椅子に座って待っていると一人の男が部屋に入ってきた。
「いやーまいったまいった。お待たせしましたね」
小太りのいかにも中年と言った風体のその男は、
額の汗をハンカチで拭いながら俺とヒナタの前に立った。
「いやーまいったまいった。ルークさんとヒナタさんですね、この度は大変申し訳ありませんでした」
開口一番謝罪の言葉を口にし、
90度にも近づこうと言うほど深く頭を下げる。
俺とヒナタはその一連の流れにあっけに取られていた。
「は!これは!いやーまいったまいった。自己紹介もまだでしたね、これは失礼いたしました。私、この聖都の騎士組合の副長ドンキと申します。はじめまして!」
そう言って俺とヒナタの手を握り、ブンブンと振る。
なんとも強烈な人だな。
「は、初めましてルークです。」
「ヒナタ」
個性の強さに負けないように俺たちも挨拶を返す。
挨拶を聞いてドンキがにっこりと笑う。
「いやーまいった、まいった。もちろん存じ上げております。お二人は聖都をお救いになった恩人でございますからな!」
「恩人?」
「はい!アークタラテクトと言う災害級の魔物を、大きな被害が出る前に討伐された。この功績は誠に大きな
ものです!」
俺と、ヒナタは曖昧に俯く。
「聞けば、あなた方はつい先日騎士団の登録を済ませたばかりとのこと!優秀な騎士団は世界の宝です!即刻上位クラスへの昇格を手続きさせていただきます!」
上位クラス。
それはDクラスからCクラスへの昇格と言うことだ。
Cクラスは有象無象の騎士団とは異なり
それなりに信頼と実力を備える騎士団と言われている。
トーマスが所属していたバルガスの街の騎士団が、
Cクラスだったはずだ。
これで少しはロゼ達の役に立てるかもしれないな。
「が、しかしここで一つだけ問題がありまして・・・」
「問題?」
「はい、昇格には規定の枠があります。今回、昇格出来るのはお二人が所属するどちらかの騎士団と言うことになります。いやー、まいったまいった」
ドンキは額に汗をかいて、申し訳なさそうな顔をする。
「そこで、今回はアークタラテクトと直接戦闘をされたヒナタさんのオヒサマ騎士団とさせていただきたいのですが・・・もちろんルークさんのムートン騎士団は次回の昇格枠に優先的に推薦させていただきますので。」
チラリと俺の顔を伺うようにこちらを見るドンキ。
まぁ仕方ないか、確かに今回の功績から見ればヒナタの方に軍配はあがるだろう。俺は雑魚蜘蛛たちを蹴散らしていたに過ぎない。
ロゼ達には悪いが、ここは俺が引くべきだろう。
地道にやるのも嫌いではない。
「あぁ、まぁそういう事なら問題は・・・」
「待って」
俺が了承しようとするのを止めたのはヒナタだった。
「その必要はない」
「と、言いますと?」
ドンキは不思議そうにヒナタに尋ねた。
「オヒサマ騎士団はここで解散する」
「え、えーーーー!どういう事ですかヒナタさん!」
ドンキが大声をあげる。
確かに突然すぎる。
「私は今からムートン騎士団に所属する、だから昇格の枠は必要ない」
ヒナタはそう言って力強い目でこちらを見た
おい、どういうことだ。ヒナタ。
なんだそのキラキラした目は。
とりあえず出鼻を挫かれたドンキは手続きを確認すると言って部屋から出ていった。
俺はヒナタに話しかける。
「どういうつもりなんだ?」
「ん、これは運命」
ヒナタがよく分からない回答をする。
「これ」
そう言ってヒナタが胸元から出したのは、
ボロボロになった本であった。
タイトルは<勇者の冒険紀>とある。
この世界で子供に大人気の歴史小説だ。
かつて女神に選ばれたと言う勇者の活躍がこれでもかと
書かれている冒険活劇物語だ。
「私は小さい頃から勇者に憧れていた。勇者に選ばれるために剣を磨いた。でも新しい勇者には貴方が選ばれた。ならば私は貴方と共に戦う」
その目には力強い炎が見えた。
ヒナタは勇者オタクだったのか。
「いや、だけど・・・そんな急に。俺の話を信じるのか?」
「ん、問題ない」
ダメだ、こいつを説得する術を俺は持っていない。
俺は交渉を諦めた。
「いやー、まいったまいった。お待たせいたしました。ん?どうされましたか?」
「なんでもない、早く手続きを始めて」
ヒナタに急かされたバロンは慌てて書類を書き始めた。
こうしてムートン騎士団は初めての騎士団員を仲間にし、
わずか一つの依頼をクリアしただけで上位クラスへの昇格を果たしたのであった。




