第36話 最強魔法と竜の炎
テレシアは焦っていた。
ルークの事が心配でいても立ってもいられなかったテレシアは、
受付天使に紹介された人間体験ツアーに応募し、
ルークのピンチを救いに来た。
仮の人間の身体を手に入れはしたものの、
そこに居たのはアークタラテクトと言う、蜘蛛の化け物。
たしか人間界では災害級に数えられるほどの魔物だったはずだ。
女神本来の力を使えされすればこんな魔物など一瞬で消し去れる自信はあったが、
今のテレシアは大きく力を制限されている。
(く~、せっかくカッコ良くルーク君を救いに来たのにこのままじゃ・・・)
想像とは違う状況に、テレシアはさらに焦燥感を募らせるのであった。
「キュルルルルルル!!」
ほんの数時間前に動けるようになった不慣れな身体。
アークタラテクトは蜘蛛の牙を逃れながらでは、十分な魔法を使えない。
この身体で唯一無詠唱でも放てる<炎球>だけで戦ってはいるが、
すでにアークタラテクトに見切られていた。
そんな時、テレシアの目の前に一人の影が立った。
「る、ルーク君?」
「違う。私」
そこに居たのは先程までルークの隣にいた少女であった。
(なんであなたが来るのよ~、そこはカッコ良くルーク君が共闘しに来る所じゃない)
そんなテレシアの想いが顔に出ていたのか、
ヒナタは不思議そうに首を傾げる。
「?なにか不満?」
「・・・なんでもないです。あなた、どうして?」
「私があいつの気を引く。魔法の準備を」
短いやりとりだけで、ヒナタはアークタラテクトに向き合い剣を構えた。
テレシアは渡りに船と言わんばかりに魔法の詠唱を始めた。
魔力がテレシアへと収束していく。
「キュルルルルルル!!!」
それに反応するようにアークタラテクトはテレシアに狙いを定める。
だがその瞬間、ヒナタの剣がアークタラテクトの瞳の一つを切りつけた。
「ギャアアアアアア!!!」
思わぬダメージに身をよじるアークタラテクト。
「通さない」
ヒナタの一撃に、アークタラテクトの怒りの矛先はヒナタへと向けられた、
・・・
・・
・
「・・・さて、そろそろヤバイかもな」
俺はまた一体、蜘蛛を切り裂き顔をあげる。
すでに身体は鉛のように重く、剣を振るう腕が上がらない。
ヒナタが居ないことにより四方の蜘蛛と対峙する必要があり、
その精神的な疲労も先程までの比ではなかった。
だが周囲の蜘蛛は数を減らすことなく、
むしろ増えている気さえした。
もはやテレシアとヒナタの方を探る余裕すらない。
「・・・仕方ない・・・ここまでか」
俺は大量の蜘蛛たちを前に、剣を鞘に納める。
深く呼吸をし、そして目を瞑った。
激しい戦闘で早まった心臓の鼓動を落ち着ける。
「ギギギギ」
「キュルル」
「ギャギギャ」
蜘蛛たちは俺の突然の変化に警戒している様子だ。
一瞬の戸惑いが、奇妙な間となり
俺と蜘蛛たちの間に一瞬の空虚なタイミングを作り出した。
「ギャギャギャアアア」
「キュルル!」
蜘蛛たちはまた一斉に、俺に飛びかかろうとした。
俺は再び目を開けると、ゆっくりと剣に手を伸ばした。
<月穿>
次の瞬間、俺の回りにいた数十体の蜘蛛は
一瞬のうちに両断される。
一体も余すことなく、同時に。
これこそが魔法の使えなくなった俺が決死の鍛練により
編み出した剣技のひとつだ。
超高速の回転切りにより、前後方左右の
すべての敵を両断する。
まだ身体が成長しきっていない俺の身体でこの技を使用すると、
全身が悲鳴をあげるというデメリットがあった。
俺は残りの蜘蛛たちが引くのを見届けると、
その場に膝をついた。
あとは頼むぞテレシア、ヒナタ。
・・・
・・
・
ヒナタはアークタラテクトの牙を器用に避けながら、
すこしずつ斬撃を重ねていった。
アークタラテクトの甲殻は非常に固く、剣の歯がたたない。
ヒナタは目や口内など弱点部位を付きながら、
テレシアの方にアークタラテクトの注意が向かぬよう戦闘をつづけていた。
だが、そんな針の穴を通すようなギリギリの攻防に綻びが生まれる。
「キュルルルルルル!!!」
アークタラテクトがこの戦いではじめて、
ヒナタに向け糸を吐き出したのだ。
突然の変化に対応できず、ヒナタは剣を糸に絡めとられ、落としてしまう。
「くっ・・・・」
剣が無くてはもはやヒナタに打つ手はない。
「キュルルルルルル!!!!!」
アークタラテクトもヒナタに止めを刺すべく、
大きく前脚を振り上げた。
ヒナタの脳裏に死がよぎった。
「お待たせいたしました」
その声の方向に顔を向けると。
そこには莫大な魔力を凝縮したテレシアがいた。
<竜炎>
放たれたのは炎の特級魔法。
竜のブレスに匹敵する温度と熱量を持つ熱線が
とてつもないスピードで
アークタラテクトを貫いた。
「ギャアアアアアア!!!!」
アークタラテクトの断末魔の叫びが洞窟内に響き、
次の瞬間にアークタラテクトの胴体は消し炭になった。
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