第33話 最強魔法と暗闇の中で
「これ」
ヒナタがそう言ってなにかを見つける。
手に持った黒い塊は一見するとただの
金属の欠片のようであった。
「バロンの盾の破片と思われる。使われている金属が一緒」
こいつの捜索能力は本当にすごいな。
俺は素直にそう思った。
「確実に近づいているな」
「だけど・・・」
ククルがそう言って見つめた先には分かれ道があった。
「ヒナタ、どっちだ?」
「分からない。手がかりが足りない」
迷っている暇は無いが、
バロンが戦いながら移動しているとしたら
間違えた道を引き返す余裕もない。
ここは慎重な進路選択が必要だろう。
「ちょっと待っててくれるか」
俺は二人に声を掛け、少し離れる。
もちろんテレシアに交信をするためだ。
「テレシア、聞こえるか?至急応答していくれ」
いつものように呼び掛ける。
だが、いつまで経ってもテレシアからの返事はない。
「おい、テレシア?テレシア?」
どういうことだろう。
これまでこんなことは無かったハズなのに。
また魔法が禁止されてしまったのだろうかと、
俺は慌てて胸元のアザを確認する。
だがアザは変わらずそこにあった。
どうやら禁止はされていないようだ。
「何してる?」
ヒナタがこちらをのぞき込む。
「いや、なんでもないぞ」
「?へんなの」
なんとか誤魔化したか。
だが困ったな。
バロンを見つけるすべが無くなってしまった。
ヒナタの追跡力に頼るのも限界のようだ。
だが時間はない。
急がないとバロンの身が持たないだろう。
その時、ククルが何かに気が付いたように
立ち上がり分かれ道を見据えた。
・・・
・・
・
「くそがぁ!」
大盾を振り蜘蛛を押し潰すバロン。
それでも蜘蛛たちはバロンにまとわり付くように、
何匹も何匹も湧き出てくる。
逃げたククル達を追わせないように、
少しずつ奥へと進んでいたが、
すでに自分がどこにいるのか
把握できなくなってしまっていた。
体力も尽きかけ、
立っているのがやっとの状態。
だが少しでも時間を稼ぐべく
バロンは戦い続けた。
「ククル・・・」
バロンが名前を呟いたのは無意識からであったが、
それが彼の命運を分けることになる。
「ぐっ!」
蜘蛛の一撃を膝に受け、力が抜ける。
その隙に別の蜘蛛がバロンがこれまで持ち続けた
松明へと糸を伸ばす。
強力な粘着力に松明を奪われ、
視界が暗闇に閉ざされた。
見えるのは暗闇に光る蜘蛛の赤い瞳だけである。
「くそが、上等だよ」
バロンはその赤い目を目掛け大盾を叩きつける。
だが暗闇のなかでは彼の体捌きにも限界があった。
岩に躓き、地面に這いつくばる。
バロンはとうとう力尽き、
起き上がる力も出せなくなってしまった。
蜘蛛たちは獲物の最期を確信したのか、
気味の悪い鳴き声をあげながらバロンへと迫る。
「・・・俺ももう終わりかよ」
バロンがそう思い、最後に考えたのは、
今は亡き故郷の村とそこから一緒に出てきた騎士団。
そして幼馴染みのククルのことだった。
蜘蛛たちの気色悪い鳴き声が耳元に迫り、
カシャカシャと牙の音が聞こえる。
バロンが静かに目を閉じた瞬間、
聞こえてきたのはいくつかの剣の音と、
それに反応するようにあがる蜘蛛の鳴き声であった。
バロンが恐る恐る目を開けると、
そこには再び松明の灯りがともり、
よく見知った子供の姿があった。
「大丈夫ですか?バロンさん。お待たせしました」
「ルーク・・・てめぇ、どうして・・・」
「バロン!!!」
その声と同時にククルがバロンに抱きつく。
「カハッ!バカ・・・ククル・・・死ぬ・・・死んじまう・・・」
「今、回復するからね!!」
そういってククルはバロンに回復魔法をかける。
疲労でぼんやりとしていた頭は次第に晴れ、
冷静に考える余裕が出てくる。
あたりにはルークとヒナタが切り伏せた蜘蛛の下が
転がっていた。
「そうか・・お前ら・・・」
バロンは自らの命が救われたことを理解する。
「大バカやろうだぜ・・・お前らよ・・・」
バロンがそう言うと、
ククルがその頬を思いきり叩いた。
「な、なにしやが・・・」
「バカはあんたよ!このバカバロン!」
そう言うとククルはバロンの胸で再び大泣きし始めた。
俺とヒナタは特になにも言わず、
残りの蜘蛛たちが来ないか辺りを警戒していた。
「あんがとよ・・・」
だかか細く呟いたバロンの言葉だけはしっかりと
耳に届いたのであった。




