第31話 最強魔法と命の選択
俺たちが外に出たときには廃鉱の外はまだ明るく、
ちょうど昼を過ぎたくらいであった。
早朝から潜ったためまだ日が高い。
出発から往復で6時間ほど経っただろうか。
ククルは顔を伏せ、憔悴している。
冷静な彼女がここまで取り乱すとは思わなかった。
バロンのお陰で脱出することが出来たが、
ここからどうするべきだろうか。
そんな事を思っていると、ヒナタがこちらを見ていた。
「戻る?助けにいかなければ彼は確実に死ぬ」
ヒナタの言う彼とはもちろんバロンのことだろう。
俺も同意見だ。
その時、泣いていたククルが口を開く。
「・・・ダメ。街に情報を持って帰らないと・・・」
予想外の言葉に少し驚く。
「助けにいかないの?」
ヒナタが尋ねる。
「タラテクト種は個々では弱い魔物だけど、繁殖スピードは凄まじいの。このまま放っておけばこの北の廃墟を根城にどんどん増えていってしまう。こんな聖都から1日くらいの場所がそんなことになれば街への被害はとてつもないものになるわ。私たちの仕事は、この情報を街に持ち帰ること。組合と場合によっては聖都騎士団とも連携して対処する必要があるわ」
「でもバロンは・・・」
俺が言う。
「彼も一流の、とは言いがたいけど。騎士よ。私たちがすべき事を理解しているわ。時には命より優先すべきことがある。それが騎士の掟でしょ」
ククルが言う。
たしかにその通りだ。
今は街に情報をもって帰るのが最優先。
そしてそれが出来るのは俺たちしかいないのだ。
だが、ククルの握られた手から血が滴っている。
強く握りすぎて爪が肉に食い込んでいるのだ。
彼女の言葉と心には大きな解離があることが伺えた。
俺としてもバロンを見捨てるつもりは毛頭ない。
「提案がある」
俺は自分の考えを皆に伝えた。
・・・
・・
・
それから少しして俺たちは再び北の廃墟にこもっていた。
俺、ヒナタ、ククルの三人。
ピジョン騎士団の残りの3人は街に向かっている。
俺たちは二手に別れたのであった。
どちらも戦力が半減したことにより、
道中で倒れる可能性もあった。
廃墟から街への帰り道は、
馬を飛ばせば半日でたどり着ける距離でもある。
日が落ちるまでに街にたどり着ければ、
増援の組織も可能だろう。
馬の数と戦力。
両方を勘案した結果、この組み合わせが最適との答えにたどり着いた。
意外にもこの案はヒナタからも強い合意があった。
冷たい奴かと思っていたら、かなり優しいやつだ。
そもそもヒナタの中には、
バロンを助けに戻る以外の選択肢が無かったように思う。
幼馴染みで同じ騎士団の仲までもあるククルからは、
提案をしにくい案だ。
あの場面では俺かヒナタが言い出さない限りは、
バロン救出ルートは取れなかっただろう。
「ん、なに?」
まじまじと横顔を見る俺にヒナタが尋ねる。
よく見ると可愛いな、こいつ。
「なんでもない」
そうして俺たちは同じ道を無言で歩き続ける。
周囲に蜘蛛の鳴き声が聞こえないことを祈りながら。
・・・
・・
・
「ちょっと!承認はまだなんですか!」
テレシアが窓口のカウンターをドンと叩く。
「だから!そんなすぐには無理ですって。昨日の今日じゃないですか」
「そんなこと言ってたらルーク君が死んじゃいます!なんとかしてください」
「うーん。弱ったな・・・」
お互いの都合がある中での押し問答に、解決の糸口はなかった。
「あ、じゃあせめてこれはどうですか?」
窓口の天使が一枚のチラシを見せてくる。
「なんですか?これ」
安っぽい紙で作られたそのチラシには、
これまた安っぽい手書きの文字でこう書かれていた。
「人間体験ツアー実施中。どんな神族でも人間に早変わり可能。今なら申し込み手数料無料」
「そんな心配なら自分で助けに行ったらいいじゃないですか」
テレシアはそのチラシを握りしめると、
申し込み窓口に走った。




