第26話 最強魔法と初戦闘の結末
北の廃鉱は、聖都から徒歩で行軍して1日ほどのところにある。
かつては魔銀の採掘地として賑わっていたが採掘量が減って廃鉱となってからは魔物の巣窟と化している。
朝方に出発し夜営、翌日明るくなってから探索を始める旅程だ。
街道の混雑回避と、魔物や盗賊の待ち伏せを防ぐため、
今回の緊急依頼に向かう騎士団はそれぞれ出発の時間をずらしている。
俺は必要な荷物をピジョン騎士団の借りた馬車に積み込み、
同乗させて貰っていた。
ホントに良かった。
一人だったら夜営用の荷物を持って1日歩く羽目になっていた。
ピジョン騎士団は6人で構成されている。
リーダーのバロンが大型の盾を使う重騎士、ククルが回復術士、
昨日も部屋にいた3人がそれぞれ弓士と魔術師を担っていた。
後の一人は騎士団はの運営担当で今回は留守番らしい。
全員が同じ村の出身とのことだ。
そして俺と一緒にピジョン騎士団に同行することになった少女、
ヒナタは馬車に乗り込むと早々に眠り始めた。
荷物も軽装で武器と思われるのは背中に担いだ一振りの剣のみ。
俺と同じDランクの騎士団を創設したばかりのようだが、
一切の詳細は不明だった。
「そしたら、ルーク君は剣士なんだね。魔法は使えないんだ?」
ククルさんが俺に尋ねる。
「えぇ、そうなんです。父に家庭教師をつけて貰って散々訓練したんですけど結局一度も使えなくて」
「そうなんだ。珍しいね、うちのバロンでさえ簡単な火魔法とかは使えるんだけど・・・もちろん戦闘に使えるレベルじゃないけど」
そうなのだ。
この世界では魔法は広く普及しており、
火種を出したり、水を出したりが出来るのはあまり珍しいことではない。
父さんも生粋の剣士だが、簡単な火魔法などは使用できる。
だが俺は一切の魔法が使えないのだ。
理由は恐らくあれにあるのだろう。
俺は騒がしい女神のことを思い出す。
あれ、でもテレシアによると制限は限定的に解除されたらしいし、今なら俺も魔法が使えるのか?
最強魔法が使用禁止になったせいで他の魔法まですべて使えなくなったと思い込んでいたけど、もしかしてそこの規制も解除されるんじゃなかろうか。これはテレシアに確認しなくてはいけないな。
そんなことを考えていると、
突然ヒナタが目を醒ます。
「・・・敵」
そうしてヒナタは背中の剣に手をかけて、
颯爽と馬車から飛び出した。
戸惑うピジョン騎士団。
俺はヒナタの後を追い、馬車から出る。
たしか微かに殺気と言うか悪意を感じる。
関知する力には自信があるが、俺より早く察知するとは。
ヒナタ、一体なにものだ。
馬車から出て辺りを見回すと、
街道から少し外れたところを走るヒナタの背中が見えた。
俺は慌ててそちらに走る。
ヒナタの向かう先には、緑色の小鬼たち。
雑魚キャラの代名詞ゴブリンの群れが騒いでいた。
「ヒナタ!」
走る背中に声をかける。
俺の全力ダッシュでギリギリ追い付けない。
どうなってんだ、こいつ。
ヒナタは走ったまま背中の剣を引き抜き、
ゴブリンの一匹に切りかかった。
流れるような剣撃。
それだけで彼女の技術の高さが伺えた。
「グギャア!」
崩れ落ちるゴブリン。
一撃かよ。
それを見て、ゴブリンの群れが戦闘体制に入る。
ヒナタは二匹目に切りかかり、こちらも一撃で致命傷を与えた。
まるで舞を舞っているかのような独特の剣筋だ。
っといかん、見とれている場合じゃない。
俺は腰の剣を抜刀し、同じくゴブリンの体に切りつけた。
ザクリ、と肉を切る独特の感覚。
俺の一刀にゴブリンは叫び声をあげ倒れる。
「あなた、何者。私に付いてこれるなんて」
ヒナタが不思議そうに言う。
「それはこっちの台詞だ。半分頼めるか?」
「余裕」
そう言って、ヒナタはすぐ側のゴブリンに切りかかっていく。
周囲を囲むゴブリンは10匹ってところか。
ゴブリンなら父さんとの訓練で散々倒してきた。
目の前のゴブリンが俺に飛びかかってくる。
俺はその動きを冷静に見極め、ギリギリで回避。
そのまま体勢の崩れたゴブリンの背中に深く剣を突き刺した。
俺とヒナタ。
剣を振ってゴブリン達を蹂躙していく。
わずかな時間にゴブリンの群れは、ただの肉塊へと姿を変えた。
ピジョン騎士団があとから追い付く頃には、
戦闘はすべて終わっているのだった。
・・・
・・
・
「・・・テメェら、何もんだ」
馬車に戻り再び進行を始めると、
バロンが尋ねてきた。
ピジョン騎士団の他のメンバーもうんうんと頷いている。
「えっと、それはどういう」
俺はバロンに質問する。
「さっきの戦闘に決まってんだろ!俺たちより早く敵に気がついて、物凄いスピードで駆けて行ったと思ったらゴブリン10匹を瞬殺だ!お前らただのガキじゃねぇな!」
そう言って顔を紅潮させるバロン。
ちなみにこの世界のゴブリンは決して弱くはない。
木の枝や石などを武器として使い、
集団的な動きも使ってくる。
ピジョン騎士団はCランクだが、
彼らでも10匹を相手にするにはそれなりに本気を出す必要があるだろう。
「ゴブリンとは父さんとの修行で散々戦わされましたからね。」
「修行って・・・お前まだ十歳そこそこだろ。ゴブリンとは言え魔物だぞ。それと戦わせるってお前んとこの親父頭沸いてるんじゃねぇのか!!」
たしかに言われてみれば、
父さんとの修行は厳しいものが多かった。
でもそういうものかと思って言われるがままにやってたんだけど、良かったあれは普通じゃないのか。
今度あったら父さんに教えてやりたい。
「てめぇもだ!見たこともない剣技使いやがって!どこの流派だ!」
ヒナタにも尋ねるバロン。
たしかに彼女は見たこともない剣技を使った。
恐らく俺と同等かそれ以上の剣の使い手だろう。
「秘密」
ヒナタはそう言うと再び眠りにつく。
俺はその身代わりにバロンの追求を受ける羽目になってしまった。




