第2話 最強魔法と転生成功
「う・・・」
頭部に鈍い痛みを感じ俺は目を覚ました。
気が付くと半身が水に浸っている。
辺りは森のようで、カケルは川の岸辺に倒れていた。
「ここは・・」
冷静にこの状況を思い出そうとしたその途端、
俺のなかにあるたくさんの記憶が一瞬のうちにフラッシュバックした。
「うわぁぁぁぁ」
突如頭に湧いてくる記憶。
あまりの情報量に、俺はその場で戻してしまう。
ようやく落ち着きを取り戻し川の水を口に含むと、
身体を起こし水面に映る自分の姿を確認した。
そこには記憶にある御堂カケルの姿ではなく、
黒髪の少年の姿があった。
ルーク=ピースクラフト
それがこの世界での俺の名前だった。
俺はルークとしてのこの世界での記憶をたどる。
混在した二つの記憶が徐々に鮮明に整理されていく。
俺は夏期休暇を利用して、父と共に祖父の家があるバルガスの街にやってきた。
退屈を持て余した俺は禁じられたバルガスの森に侵入し、、
「川に落ちて流されたのか・・・」
川沿いで遊んでいたときにぬかるみに足を滑らしたことを思い出す。
『そういうことです』
突如頭のなかに声が響く。
「な、なんだ!?」
『落ち着いてください、私です』
よく聞いてみると、聞き覚えのある声。
先程まで話していた少女だ。
「案外、早い再会だったな」
『そうでもないですよ、あなたが記憶を取り戻すまで8年かかってます。私にとっては8年ぶりの会話です』
8年、という事は今の俺は8歳と言うことか。
道理で身体が小さいはずだ。
『カケル・・・いやルーク君。身体の調子はどうですか?転生時には拒否反応が起きやすいと聞いていますが』
「うん、今は大丈夫。さっき一瞬だけ気分が悪くなったけど。何て言うか何本分もの映画を一瞬で見せられた気分だ」
『それは仕方ないですね。今のあなたの身体にはカケルさんとしての記憶と、ルーク君としての記憶、両方が
ストックされていますから』
「なるほどな、そう言うタイプの転生か。納得した」
『タイプ?』
少女との会話もそこそこに、俺は岸辺へと上がることにした。
・・・
・・
・
「改めて、名前を教えてくれるか?」
『はい、私はテレシア。お察しの通り女神です』
なんとも気軽な女神だ。
「転生させてくれてありがとう。ところで転生の特典があったハズだが・・・」
『はい、最強魔法ですね。すでにルークさんの身体にインストールされています。服をめくってみてください』
俺はテレシアに言われるがまま、上着をめくる。
胸部に七つのアザのようなものが見えた。
「これはまさか・・・俺は北斗の名を持つ拳法の伝承者か?」
『なんですか、それは』
渾身のギャグが通じなかった。ジェネレーションギャップかな。
『それは最強魔法継承の証です、ひとつのアザにひとつの魔法が封じられており、魔法名を詠唱することにより発動させられます。ただし・・・』
「ただし?」
『うち、ひとつは常時発動型の魔法です。ルークさんが死ぬまで自動で魔法が継続されます。その名も<女神の寵愛>!』
<女神の寵愛>・・・名前から想像はできるが念のため聞いておくか。
「その魔法の効果はなんだ?」
『色々ありますが、一番の機能この世の万物を統べる女神、つまり私と交信が可能です。つまり転生したこの世界そのもののチュートリアル』
なるほどな、転生前に言っていたのはこの事か。
『私も他の仕事があるので普段は回線を切ってますが、ルーク君が話しかけてくれたら基本的にはいつでも答えますよ』
つまり、神様からのアドバイスをいつでも受けられるわけだ。
最強かどうかはテレシアに掛かっている。
「じゃあテレシア早速、他の魔法も教えてくれるか?」
『リョウカイデス』
「なんだ、その機械的な返事は」
『いえ、こう言ったときは無機質な言葉遣いの方が気分が出るかと思いまして・・・』
「お前まさか・・・いや・・なんでもない」
俺はそれ以上踏み込むことを止めた。
その時、後ろの茂みからうなり声が聞こえた。
そこにルークの身体の数倍はあろうかと言う巨大な熊が現れる。