第1話 最強魔法と異世界転生
「えーっと、そろそろ起きてください」
顔に当たる柔らかい感触と女性の声で
俺は目を覚ました。
「ここは・・・なんだ」
起きたのは真っ白な世界。
空間の境目が見えず、
地面も天井も分からないので
目眩がした。
「起きましたか?」
目の前には美少女。
正座をして座っている。
先程の柔らかい感触はこの子の膝枕のようだ。
俺は顔に残る感触を思い出そうと、そっと頬に手を触れた。
「?あのー、聞いてますか」
少女の言葉にハッとする。
意識が太ももの彼方に飛んでいたようだ。
「御堂カケルさん、ですよね?」
「いかにも」
俺は少女の言葉にうなずく。
「へ、変な口調ですね。突然のことで申し訳ありませんが、あなたは先程お亡くなりになりました。つきましては・・・」
「ちょっと待て」
少女の言葉を遮る。
「はい?」
少女は不思議そうに首を傾げる。
「死んだのか、俺は」
「はい」
「まったく覚えていないぞ」
「そうりゃそうですよ、突然の事故でしたから」
少女によると、
俺は道を歩いていた際に、工事現場より落下した
鉄の塊に潰され死んだらしい。
それは凄惨な状態だったとのことだ。
「詳しく聞きたいですか?」
「く、詳しくとは・・・?」
「カケルさんの腸が・・・」
「いや、ごめんなさい結構です、説明を続けてください」
少女はため息をつくと、
説明を始めた。
「本来であれば、あなたの魂は初期化、クリーニングの後に同じ世界に再出荷されるのですが・・・」
「ですが?」
「現在、世紀末特別キャンペーンの最中でして抽選チャンスがあります」
「抽選?」
「はい、全員ではありませんが当選者には転生時に特別な待遇が約束されます」
「どんな待遇なんだ?」
俺は質問する。
「そうですね・・・過去の当選者でいうと伝説の忍の息子で身体に狐の妖怪が封印されていたり、滅ぼされた戦闘民族の子供でこれまた伝説のスーパー戦闘民族になれる素質があったりしましたかね」
「むぅ・・・」
「あ、それから初期能力は低いんですけど、先祖を心配した子孫の手で未来から超高性能なロボットが派遣されたりした人もいます」
「それって・・・いやなんでもない」
俺は口をつぐんだ。
言わなくて良いこともあるのだ。
「どうですか?失うものもないし、サクッと引いて起きますか?」
「そうだな、そうするとしよう。俺も彼らのような最高の主人公になれるかも知れないしな」
俺の言葉に少女はにこやかに笑うと、
手に持った杖を上空に掲げた。
「決まりですね!それではカモーーーン、抽選ボックス!」
途端に白い空間にひとつの影が生まれ、
そこから大きな大きななにかが降りてきた。
ズシンと地面を揺らして着地したそれは、
あまりにも巨大な抽選ボックスだった。
ガラガラ回して玉が出てくるタイプのあれだ。
「で、でかい・・・」
俺がその光景に圧倒されている姿を、
少女は嬉しそうに見ていた。
自慢げに張った胸がぶるんと揺れていた。
「ふふ準備は良いですか?では、心の底から回れと念じてください」
念じるだけで良いのか。
じゃあせめて全力で念じるとするか。
俺は深呼吸をすると、
今まで出したこともないような気合いと
引くくらいの欲望を込めて叫んだ。
「回れぇぇぇぇっ!!!」
その言葉に抽選ボックスが反応し、
とてつもないスピードで回り始める。
その勢いに、暴風が吹き少女が吹き飛ばされそうになる。
「こ、これは・・・」
やがて抽選ボックスからこぼれる、ひとつの玉。
地面に着地した玉は、金色に輝いていた。
「すごい!当たり!大当たりです!」
途端にどこかからかパンパカパーンとファンファーレが鳴り響く。
「あ、当たったのか・・・」
まさか本当に当たるとは思わなかったため、
驚きで手が震える。
「はい。私が担当した方で大当たりが出たのは初めてです・・・」
少女も震えている。
「肝心の特典を教えてくれるか」
俺は少女に質問する。
「そ、そうですね。ごめんなさい私も興奮しちゃって、お待ちください」
少女がなにかを中空に呟く。どこかと交信している様子だ。
しかし当たるとは本当に驚いた。
一生分の運を使いきってはいないだろうか、もう死んでいるけど。
「わかりました!」
突然叫ぶ少女に驚きビクッとする。
「カケルさん。カケルさんが当選した特典は・・・・」
ゴクリと唾を飲み込む。
「最強魔法付き異世界転生です!」
・・・
・・
・
「準備はいいですか?」
「ああ」
そう答えると、少女が俺の足元に魔方陣を生み出す。
複雑な幾何学模様、いかにもって感じだ。
「転生先は現地の人間の身体になります。例によってカケルさんの転生によりその方の命を救うことになりますので、ご心配なさらずに」
「あ、そうだ」
俺は少女に話しかける。
「最後に聞いて良いかな?」
「はい、なんでしょうか。けど現地についてからもチュートリアル的なものはありますし、、あまり心配しなくても大丈夫ですよ」
「あ、そうじゃなくて」
少女は不思議そうに顔を傾げる。
「君の・・・君の名前は?」
その言葉を最後に俺の意識は途切れることになる。
少女の名前はよく覚えていないが、機会があればまた会えるだろう。
かくして俺の異世界生活はスタートしたのであった。