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サムライ・エイジア  作者: 七陣
第8話「ラプソディ・イン・カウヴェ・シティ」
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10 VS〈ペルーダ〉

 四人と対峙するナガレの額に薄っすらと脂汗が滲んだ。ミズタ・ヒタニ相手には感じなかったプレッシャーである。


「コチョウ=サン、敵騎(ヤツら)の正体が見えない」


 丸みを帯びた重装甲騎。色や得物は異なるが、外観やエンジン音から同一騎種とナガレは判断した。


(ウム)。どこかのマイナーな真造騎(シンウチ)、あるいは』

「新型騎か」


 ナガレの喉が鳴った。思わずして固唾を呑んでいた。

 敵騎のバイザー越しの眼が光り、レーザー通信を放つ。


『これは新型ではなく試作よ』

『〈ペルーダ〉と呼ばれておる』

『これを預かりしことこそ我が栄誉(ホマレ)にごつ!』

『で、来ぬのか、サスガ・ナガレ=サン?』


 ナガレは3次元ジャイロ羅針盤で周辺状況の把握に努めた。この空間は5騎のイクサ・フレームが暴れるにはいささか手狭だ。

 

 睨み合いは会話を挟んで十秒程度。先に動いたのはナガレ。轟音(ゴオオオン)! 〈グランドエイジア〉が敵騎に向かって疾駆する。ZMZMZMZM! コンクリートの床に轍めいて刻まれる足跡!

 四騎の〈ペルーダ〉もまたそれに応じ、〈グランドエイジア〉目掛けて疾走した。〈紫〉〈白〉が先行し、やや遅れて〈赤〉〈黒〉が出た。ZZZMMZZZMMZZZMMZZZMM!! 5騎のイクサ・フレームの戦闘輻輳音(イクサ・コーラス)が唱和し、反響する!


 紫と白は真っ直ぐ突っ込んでくる。赤と黒は左右二手に分かれた。〈グランドエイジア〉の背後を衝こうとする肚か。ナガレは〈グランドエイジア〉を更に加速。そのまま突っ切って〈ガリンペイロ〉へ介錯(カイシャク)を決める構えだ。


『ムゥーッ! ヒタニ=サン狙いか!』

『甘いわ! これでも喰らえィッ!』


 ジャララララッ! 金属音、高速で鎖が揮われる! その先端にはサイバー鉄球! ノタキ・ゴメスの乗った〈ペルーダ赤〉の得物モルゲンステルンだ! 背に届きかけたそれを、グランドエイジアの鞘が危うくはたき落とす! 背後に回っているクビ・ミンブの〈ペルーダ黒〉がヒロカネ・メタル製の剛弓を一閃! (ビョウ)ッ! ナガレは危うくそれを鞘で逸らす! 金属壁に突き立つ矢! 恐るべき弓勢(ゆんぜい)に震え続ける矢羽!

 

『オヌシの相手は我らミズタ四天王でゴワス!』

『相手を違えるな、小僧!』


 後方からスビナジ・トンゼンの〈白〉がナギナタを、オヌミセ・タイタムの〈紫〉がモーター金棒を振り上げて襲い掛かる! |(ガン)! 右手のカタナと左手の鞘でそれを受ける! 勢いは殺せず、敢えてノックバック! そこへ飛んでくるモルゲンステルン! 鞘に絡みつく鎖! ナガレはカタナで絡みついている部分を切断! 

 

 5騎の交戦中に、オットリ・カタナで別働隊のイクサ・フレームが到着した。〈黒〉に騎乗したミンブが命じる。

 

『オヌシら、早々にヒタニ=サンを回収せよ。我らに手出しは無用。下手なドライバーはここには要らぬ故な』

『しかし我らとて一介のサムライ、手出しが無用とは何事か!』


 別働隊ドライバーが抗議の声を上げたところへ、〈ペルーダ黒〉の矢が音立てて飛んだ。(ビョウ)ッ! 肩装甲に突き立つ!

 

『次は本気で射る。頭か胸か、どちらがいい?』

『アイエエエ……し、承知しました!』


 別働隊が〈ガリンペイロ〉を回収してゆく。ナガレは追いすがりたくても出来なかった。

 

(イヤ)ァーッ!』

(イヤ)ァーッ!』

 

 背後からナギナタが揮われ、モーター金棒が揮われた! ナガレはステップ回避、同時に横殴りの斬撃をモーター金棒の〈ペルーダ白〉へ放つ。

 それを妨げたのは〈赤〉のモルゲンステルンだ。(カン)! 鉄球により斬撃軌道を逸らされてカタナが空を斬る。そこをモーター金棒の一撃!

 

(イヤ)ァーッ!』

 

 (ガン)! 凄まじい衝撃! 〈グランドエイジア〉の肩部装甲が大きく窪む!

 

「グワーッ!」


 衝撃! 揺さぶられるコクピット! ノックバックした〈グランドエイジア〉目掛けて飛んでくる〈ペルーダ黒〉の矢! ナガレは咄嗟に左手を上げ防御した。(カン)! 流線型のガントレットが(ヤジリ)を弾く。壁に突き立つ矢。ガントレットに鏃の痕跡が刻まれる。


 気がつけばナガレは壁際近くまで追い詰められていた。四天王(シテンノー)とは四人の強者を意味するブディズム由来の古い言葉だが、決して虚名ではないということか。

 

 一人一人の技倆(ワザマエ)は、例えばマクラギ・ダイキューなどには及ぶまい。〈紫〉と〈白〉のドライバーの攻撃など如何にも力任せで単調だ。しかし個々人の技倆の不足を、コンビネイシヨンが補って余りある。


 コチョウからの通信。

 

『ナガレ=サン、こやつら、ジャミングが通じんぞ』

「通じない?」

『恐らくは〈セブン・スピアーズ〉技術を用いておる』


 今度は敵からのレーザー通信。


『まだこちらは無傷ぞ、サスガ・ナガレ=サン』

『随分他愛のないことよな』

『我ら最強四天王! 立ちはだかる者薙ぎ倒すのみ!』

『これでは到底食い足らぬ』


 四天王の嘲笑! ナガレは奥歯を噛みながら、モニタ越しに四騎の〈ペルーダ〉を睨みつけた。


『オヌシは随分義心が篤い男であるらしいな、サスガ・ナガレ=サン』


 何が言いたい、という言葉をナガレは飲み下した。


『本気になって貰いたい故に、機密だが教えてつかわそう。実はこの〈ペルーダ〉にはヒト電脳が使われておる』


 ナガレの血が逆流した。激昂が口を衝いて出ようとしたとき、


『――恥を知れッ、貴様らッ!』


 それが不発に終わったのは、コチョウが先に怒声を発したからだ。


『無辜の民を殺して得た力が自慢か! 貴様らにはサムライを名乗る資格すらない! この――恥知らずのウルトラ・ファッキン・クソバカ者共めらが!』


 ナガレが知らないうちに〈グランドエイジア〉を介して、〈フェニックス〉にあるコチョウがレーザー通信を〈ペルーダ〉へ向けて発していた。ミズタ四天王の困惑の気配(アトモスフィア)がナガレにも伝わってくる。

 実際、ナガレですら困惑を禁じ得ない。コチョウと行動を共にしていた数ヶ月、彼女がここまで感情を露わにするところなど見たこともなかったし、想像も出来なかったからだ。

 

 ひとしきり四天王に対する罵倒を終えて、コチョウが大きく深呼吸した。サイボーグである彼女に本来は不要な機能だが、完全に生身だった頃の感覚というのは抜けきらぬものらしい。

 

『――ナガレ=サン』

「あ、アア?」


 怒りを吐き尽くしたコチョウの台詞は、空恐ろしいほど醒めきっていた。

 

『奴らを潰せ』 

「――元よりそのつもりだ」


 コチョウは厳かに告げた。カタナを振り下ろしその頚椎を断つ、処刑者の口調で。


『本来はこんなところで使うつもりはなかったが――致し方ない。オヌシに死なれる訳にもゆかぬ。これより〈グランドエイジア〉のリミッターを解除する』


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