9 レペゼン・チーム・フェレット
セトモノ・セラミックの凄まじい破壊音! 周囲に鈍い振動が伝播し、電磁波欺瞞土煙が立ち込める!
やがて土煙が晴れた。その中から現れたのは黒鋼の装甲、乱杭歯めいた面頬、燃えるオレンジの瞳を模したハニカム有機複眼。そして額のビームクワガタ――その名もイクサ・フレーム〈グランドエイジア〉だ!
騎体に乗り込んだナガレはタネガシマライフルを3字方向へ向けてぶっ放した。蛮! あらかじめ装填されていた障害物破砕用大型弾頭が大穴を開ける。金属のシャッターであった。
『ドンピシャよな』
コチョウの呟きに対するナガレの応答は、〈グランドエイジア〉の抜刀であった。脇差たるビームカタナを抜き放ち、シャッターを通れるほどの大きさに切り欠いた。
タナカの言った通り、かなりのスペースのカタパルトデッキになっていた。レーダースキャニングし、兵器の配置を把握。コクピットハッチの開け放されたイクサ・フレームの一騎へ銃口を向ける。蛮! ピンホールショット! コクピットを穿たれた騎体の各所から火花が飛び散った。
「敵襲だ!」
「イクサ・フレームナンデ!?」
「知るかバカ! そんなことよりイクサだ!」
「ドライバーは! ドライバーはいないのか!」
突如の敵襲に、カタパルトで作業中とおぼしき人員は混乱の極地にあった。サイレンを唸らせ、銃火器を装備した装甲車両も複数台姿を現す。イクサ・フレームからしてみれば粗雑な戦力だが、目障りには違いない。
兵装セレクタを呼び出し、トリモチランチャーを連続射出。粘着質物体弾が装甲車両を拘束してゆくのを足跡めいて残しながら、ナガレはタネガシマをぶっ放すのを忘れない。狙いはイクサ・フレームの無力化だ。蛮! 頭部破壊! 蛮! 剥き出しの電脳殻破壊! 蛮! 開け放したコクピット破壊! 蛮! 咄嗟に騎体に乗り込もうとしたドライバーへトリモチ混じりの機銃を牽制射撃! BRATATATATATAT!
タネガシマライフル銃弾の一発一発が、確実に破壊をもたらしてゆく。蛮! 動かないイクサ・フレームほどのサイズの的を狙い撃つのは、歩行しながらでも〈グランドエイジア〉の電脳にとっては児戯に等しい。
PPPPP!! 〈グランドエイジア〉からの不意討ちアラート音! すかさずナガレは〈グランドエイジア〉のタネガシマを一射させた。蛮!
轟音! ZMZMZMZM! 凄まじいカルマ・エンジン音と金属の足音が格納庫に反響し、銃声を掻き消す。それは金色の蛇めいて連続するS字を描きながら蛇行、銃弾を回避しつつ肉薄してきた。ZMZMZMZM! ナガレはタネガシマライフルの先端に銃剣を出現させ、その騎体の動きに対応すべく一時方向へ弧を描くように騎体を走らせた。ZMZMZMZM!
そして――銀! 黒と金が交錯し、それぞれの得物がぶつかり合って壮絶な金属音を奏でる! 二騎は同じタイミングでターンを決め、今度は両者スラスターを吹かして真っ向からぶつかり合う。――銀! 拮抗する出力! 睨み合う二騎!
『ドーモ、サスガ・ナガレ=サン! 久しぶりだな!』
金の騎体が名乗りを上げた。その声の主は記憶にあった。名乗られるよりも早くナガレが挨拶を返す。
「ドーモ、ミズタ・ヒタニ=サン! チーム・フェレットを代表してここまで来てやったぜ、センパイ!」
厳! 〈グランドエイジア〉の前蹴りが鋭く金の騎体の腹部に突き刺さる! 敵騎はノックバック!
『グゥーッ!』
ナガレの眼が苛烈に燃えた。開いた間合を跳躍して詰め、銃剣を連続で突き込む!
「十四人とテメエ一人の命が釣り合う訳がねえが! ここで死ねッ!」
金のイクサ・フレームが得物である短槍で、油断なくその全てを捌く! 捌く! 捌く!
『死ぬのは貴様だッ、ナガレ=サンッ!』
槍の石突が〈グランドエイジア〉の頭部を横殴りに襲い来る! ナガレはタネガシマを立てて防御!
『この〈ガリンペイロ〉はミズタ家の誇り! 貴様なぞに負ける訳がないだろうがァッ!』
金の騎体――〈ガリンペイロ〉の左手が電撃の如く動いた。ビームカタナによる居合! しかしナガレは鞘ごとロングカタナを外し防御! 鞘はビーム刃の当たった部分が赤熱化して溶けたが、カタナの刀身は無事だ!
「なら、その誇りごと死ね!」
イクサ・フレーム・フリーキーのナガレも、このときばかりは敵騎の希少さや貴重さに一切惑わなかった。――Veeee!! 至近距離からのビームは頭部ビームクワガタの隠し武器だ!
『グオーッ!?』
ミズタは自騎の首を強引に捻って辛うじて回避! ビームが掠めた左の吹返機銃が溶け落ちる! ナガレは自騎の脚を敵騎の軸脚に絡め、そのまま刈った! 〈ガリンペイロ〉がバランスを崩す!
『――こらえろ〈ガリンペイロ〉!』
〈ガリンペイロ〉はあわや転倒と思われた瞬間、その性能を遺憾なく発揮した。爆ッ! スラスターを爆発的に吹かしてその場でバック宙し、翻転しざま後方へ跳躍して間合いを開けた。ミズタは哄笑した。
『ハハハハハハッ! 〈ガリンペイロ〉の特色はその機動性の柔軟さだ! 貴様のどこの馬の骨とも知れぬ騎体とは訳が違うんだよッ!』
そして次はミズタが間合いを詰め、騎体質量を載せた刺突を〈グランドエイジア〉に見舞う! ナガレはそれを抜き放ったカタナで受ける! そして反撃の逆袈裟斬り! ミズタは槍を戻し柄でそれを流す! ギャリギャリギャリッ! ヒロカネ・メタルの柄と刃が擦過する、凄まじい音と火花!
一瞬の膠着の後、〈ガリンペイロ〉の脚が下段蹴りめいて動く。〈グランドエイジア〉の軸足を刈りに来た。意趣返しというわけか。
だから貴様はそんななんだ。
〈ガリンペイロ〉の下段蹴りが空を切る。その直前、〈グランドエイジア〉の左スラスターが猛烈に火を吹いた。独楽めいてその場で回転する騎体。猛烈な速度で襲い来るカタナの切先――ヤギュウ・スタイルのサムライ・アーツ〈ツムジ・ザッパー〉だ!
その回転ギロチンめいた一撃をミズタは防ぎ得た。恐らくはナガレが〈ツムジ・ザッパー〉を使うのを読んでいたのだろう。
しかし次は防げなかった。〈グランドエイジア〉が左手に握ったロングカタナの鞘の鐺が、〈ガリンペイロ〉のコクピット付近へしたたかに突き刺さったのである。痛打であった。
『――グエーッ!』
コクピットを激しく揺さぶる衝撃! 走るエラー! ナガレは鞘の鐺を更に強く押し込む! そして――吹っ飛ぶ〈ガリンペイロ〉! 叩きつけられ窪む壁!
ナガレはマウントしていたタネガシマを抜き、最早動かぬ〈ガリンペイロ〉に銃口を向けた。
「辞世のハイクはあるか、ミズタ=サン」
『クソ……喰らえだ……!』
「そうか。じゃ、介錯してやるよ」
ミズタの怒りをナガレは受け流した。先程まで猛り狂わんばかりの熱狂が嘘のように、ナガレの心境は凪いでいた。自分でも謎に思うほどの冷徹さだった。
引鉄を引きかけたとき――銀! タネガシマを貫いて金属光が走った。〈グランドエイジア〉は咄嗟に銃を捨てた! 爆発!
『オットット! それ以上はやらせぬよ』
『ヒタニ=サンはドラ息子とは言え我らの雇い主のセガレゆえにな』
『それにしても、案外大したことないでありもしたな、ヒタニ=サン!』
『うぬら、戯言もそのあたりにせい』
ナガレは敵愾の視線を攻撃の方向へ向けた。四騎の、イクサ・フレーム。赤、紫、白、黒の四色のナノウルシカラー。
〈グランドエイジア〉のライブラリ検索に該当なし。ナガレが眉根を寄せる。
『我らミズタ四天王が相手仕る。御覚悟召されよ、サスガ・ナガレ=サン』




