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サムライ・エイジア  作者: 七陣
第8話「ラプソディ・イン・カウヴェ・シティ」
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6 獣の如き四天王

 カウヴェ・ベイ・ベース。執務室。


「父上、私にイクサ・フレームを貸してくださいよ! 〈ガリンペイロ〉はまだ使えるはずでしょう?」

(カー)ッ!」


 父の一喝にミズタ・ヒタニはひっくり返りそうになった。文官ぶってはいるが若い頃は不穏分子を次々に斬って捨てていた父である。老いたりと言えどもその気迫はヒタニの及ぶところではない。


「ならぬ、ヒタニ! 貴様如き半端者に家伝のイクサ・フレームを使えると思うてかッ!」

「私もイノノベ=サンのお役に立ちたいのです!」

「ならぬならぬ! 控えい!」


 ミズタ・タニヘイとイノノベ・インゾーは先代からの盟友関係である。ミズタ・オータニが切腹(セプク)の危機をイノノベによって救われた日から、その義務は固く、分かち難かった。


 この基地を橋頭堡として南のシゴック大陸を窺い、勢力下に収める。それが当初の予定だった。予定を御破産にして、宇宙へ起つ――しかしその前に、ミズタ・ヒタニにはイクサ・フレームが必要だった。出来るだけ強力な騎体が。


「しかし……あの忌々しいサスガ・ナガレをおびき寄せるための人質を取ってきましたよ!」


 父は息子の正面に向き直り、ストレートパンチを見舞った。


(イヤ)ァーッ!」

「グワーッ!」」


 吹っ飛ぶ息子! それを冷たい目で見ながら、父は言った。


「……余計な人死(ヒトジニ)を出しおって。あの小僧が人質を見捨てたらどうするつもりなのだ貴様は」

「それについてはご心配なく。賤民同士ということもあってか、奴は友情に厚いのです」


 父は何も言わなかった。息子は立ち上がった。

 

「それで、父上。人質は今?」

「〈バルトアンデルス〉のバグ取りをさせておる。ドクター・サッポロの要求でな、一人でも員数が欲しいということだった」


 電脳調律一級免許は軍に入れば珍しくもないとは言え、難関に類する資格には違いない。電脳調律にはただのデバッグでさえ精度が必要なのだ。素人には決して触れられぬ領域の話である。

 父が射竦めるような視線をした。


「〈バルトアンデルス〉ならば乗るか?」

「――いいえ、私は結構です」

「フン……」


 父が臆病さを笑ったように、息子には聞こえた。

 臆病でもいいとヒタニは思う。〈バルトアンデルス〉に乗ったが最後、二度と元の生活には戻れぬと聞いている。そこまでの犠牲を払うつもりはなかった。

 

御屋形様(オヤカタサマ)! そんなに若をいじめなさらぬよう!」


 胴間声(ドーマ・ヴォイス)を張り上げて四人の男たちが室内へ入ってきた。いずれも並外れたサムライであり、また優れたイクサ・ドライバー。獣臭めいた獰猛なカルマが途端に部屋中に立ち込めるのが目に見えるようだ。

 

 ノラキ・ゴメス。オヌミセ・タイタム。スビナジ・トンゼン。クビ・ミンブ。彼らを以てミズタ四天王と呼ぶ。ミズタ家中でも指折りの猛者である。

 

「ヒタニ=サンは我らが訓育したサムライにござる! 滅多な相手では遅れは取り申さぬ!」


 浅黒い肌に太い眉、角ばった身体のゴメスがヒタニの肩を痛烈に叩いて言った。タニヘイが眉根を寄せた。

 

「オヌシらはヒタニが〈ガリンペイロ〉に相応しいと申すか」

 

 イクサ・フレーム〈ガリンペイロ〉はミズタの祖が名工ダッサンに鍛えさせた真造騎(シンウチ)だ。流石に五大工房には及ばぬが、そこらの騎体とは由来が違う。大名(ダイミョー)でもここまでの格の騎体を持っている者は多くあるまい。


「必要十分条件を満たしてござる」


 細身ながら二メートルの長身のタイタムが青々とした髭剃り跡の残る顎をさすりながら言った。

 

「若様はよッく出来たサムライじゃ! このトンゼン、保証しもす!」


 100キロを越える巨漢にして真っ白な餅肌(モチハダ)のトンゼンが毛深い胸を叩いて言った。

 

「して、御屋形様。我ら四天王に何用でござる?」

 

 銀色の二つの義眼をギラつかせ、丁髷頭(チョンマゲヘッド)のミンブが懐手のまま問うた。

 

「これを見よ」


 ミズタ・タニヘイは執務用CPUでタワー含む基地の図を投影する。更に拡大すると、映し出されたのはスカジャンに黄色い髪の娘と、特徴のない中年男だ。監視カメラからのリアルタイム動画だ。

 

「ネズミが入り込んだ。これをどう思う?」

 

 しばらく二人の動きを見て、四天王が口々に言った。

 

「娘の方は、サムライの歩き方をしてござるな」

「男の方はわからぬが、素人ではあるまい」

「どうせワシらが斬る相手じゃろう!」

「しかしこの程度の相手、我らによらずとも問題ござるまい、御屋形様?」


 タニヘイは鷹揚に頷いた。

 

「この者共はどこぞかのニンジャであろう。別の者が追い詰めるであろうよ。オヌシらの敵は他におる」


 もう一人をピックアップ。作業服に黄色いヘルメットをかぶったその姿は紛れもなく――

 

「これがサスガ・ナガレよ」


 四天王はナガレの一挙手一投足に集中した。


「この若造が20騎を斬ったとな?」

「ヤギュウ・ジュウベエの弟子ということだが」

「それほどのものとは思えぬ(のう)

「……尋常に手合わせ願いたいものだ」


 ミンブが呟くと、銀色義眼のサーキット模様をなぞるように光が走った。


「が、そうはゆかぬ、と」


 ヒタニが肚に憎悪をたぎらせて言った。


「奴は、私の獲物だ」

「最後のチャンスぞ、ヒタニ」


 その時、ZZMM...ZZZMMMNNN...重振動音が響いた。タニヘイはすぐに管理室へ通信。

 

「何事か!?」

「ば、爆破工作です!」


 ヒタニはナガレの画像を観る。リアルタイム動画のはずだ。しかしナガレはあるフロアを行ったり来たりしているだけのように見える。

 男の姿はない。監視カメラ網から消えてしまったかのように。


 このカウヴェ・ベイ・ベースは最初から電子海賊〈フェニックス〉の術中に嵌っていたのだ。「彼女」の手にかかれば、リアルタイム動画を欺瞞することなど造作も無いことだった。

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