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サムライ・エイジア  作者: 七陣
第1話「イクサ・フレーム・スキャッター・スパークス」
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8 エピローグ・上

 騎体をスリープモードにし、コクピットを降りたハクアが見たのは、拝跪ハイキするスタッフ生徒や教官たちの姿だった。唯一立っているのは太り肉の男である。スタッフがひざまずいているのはハクアに対する礼儀だが、彼だけが跪かない理由を持っていた。それだけの権力を彼は有していた。

 

 男はハクアの姿を認めると、存外人懐こい笑みを浮かべて手を上げた。「ハクア、オツカレサマ!」


「「「オツカレサマでした、ハクア=サン!」」」

 チーム・サクラスタッフが唱和する。

 

「アリガト・ゴザイマス、皆さん」

 ハクアが一礼オジギした。ついで男に言った。

「そして、叔父上も」

 

 ハクアの叔父、現ヤギュウ大公ムネフエは鷹揚に頷いた。一見してどこにでもいそうな中年の男だが、そのカルマは古いサムライ・クランの長として、ショーグネイションの支配者たる気風アトモスフィアを感じさせる。

 

「優勝おめでとう、ハクア。ああ、諸君ももう立って構わんよ。姪っ子と話したいことがあるのだ」


 叔父は笑顔のまま顎を撫でた。嬉しいと言うよりは安堵しているように見える。ハクアも安堵していた。ただしその理由は、叔父とは異なる。


 大公の言葉に従い、ハクアを含めた生徒や教官がゆっくり立ち上がり、一時解散した。この後、チーム・サクラの祝勝会がある。その準備もあるのだ。

 

 大公はスタッフとは別方向に歩き出し、どこぞから現れた二人の黒服が付き従った。彼らはヤギュウ家附のニンジャである。ハクアもまた叔父に従った。

 

 彼女は短く言った。

「辛勝でした」

「そうだな。しかし武運イクサ・ラックも実力のうちだ」

 叔父はそう言いながらハクアの肩を叩いた。


 果たしてそうだろうか、とハクアは歩きながら思う。幸運だけが勝敗を分けたのか、と。


 エイマスのシナイが折れ、ハクアは右小手打ライトハンド・コテウチの一本で勝利を収めた。しかしあれが実戦なら? 果たせるかな、エイマスの左腕は腰だめに握られていた。限界まで引き絞られた弓矢めいて。

 

 ナガレは右腕部を犠牲にして、コクピットや頭部を破壊しようとしたに違いない。残った左腕を以て。戦史でも無手のイクサ・フレームが得物を持ったイクサ・フレームを相手取り、勝利した例は実際にある。可能か不可能かで言えば可能だろう。ナガレが時折見せる瞬発的な力は侮りがたいものがある。

 

 しかし――コトワザに曰く、「自分の肉を斬られたら敵の骨まで断ち返せ」――スポーツ感覚でイクサ・フレームを操るような、およそ平和に慣れた今のサムライならば考えもしない。もし実行していたら大変失礼タイヘン・シツレイに当たり一発レッドカードで退場だ。準優勝すら取り消されかねない。だからナガレは敗北を受け入れたのだ。


 要するに、ハクアは幸運だけではなくルールに救われた。そのことに気づいた者はスタジアムでもそう多くあるまい。

 

「しかしあのナガレという男、見どころがある」

 大公はハクアの顔を覗き見た後、しまったというような表情を一瞬した。ハクアの前でその件に触れることはデリケートな問題に属する。


 ハクアは無表情を貫くことにした。成功しているかどうかまでは判断がつかなかった。


 叔父は続けた。

「アカデミーに推薦してもいい。奨学金返済抜きでな。あれほどの若手ドライバーはそういるまい。どうだろうな?」


「わかりかねます。直接彼に尋ねられては?」

 ナガレとはそれほど親しくした覚えはない。ナガレの方もハクアを敬遠していることだろう。


「フムン」

 叔父はさりげなさを装って、爆弾を投げかけてきた。「で、どうだった?」


 含みがある叔父の問いかけだった。ナガレの強さはわかりきったことだ。少し考えて、答えた。

「父と闘っているような気がしました」


 大公は真顔になった。返答に窮した彼は、姪にヤギュウ家でも祝勝会を行なうこと、その参加日時を告げ、電気自動車エレカに乗って去って行った。

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