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サムライ・エイジア  作者: 七陣
第8話「ラプソディ・イン・カウヴェ・シティ」
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4 エンカウント&チャンバラ

 木刀と木刀が十字に噛み合って膠着(デッドロック)する。鍔迫合(ツバゼリアイ)

 

 男の顔を見る。案外若かった。二十歳(ハタチ)前、ほぼヨモギと変わらぬ年格好だろう。

 身長はずっと高い。目算で180センチ、体重もそれに見合うほどにはあるだろう。一方のヨモギは公称160センチ。基本的な喧嘩では質量=パワー=強いという単純明快な方式が働き、従ってヨモギが不利だ。

 

 ただ、ヨモギは男の困惑を見逃さなかった。どうやらサトー(=タナカ?)との遭遇は完全に想定外だったらしい。ならば同行者の存在も、そして同行者の女子高生がサムライであることもまた想定外であるはずだ。

 体重や膂力は必ずしも決め手になるとは言い難い。サムライのイクサ、そして喧嘩では、カルマの強力な方――気合の入った方が勝つ。それをヨモギは経験則で知っていた。

 

 二人は測ったようにバックステップし、距離を開ける。

 再度の先手は、またもやヨモギだ。

 

(イヤ)ァーッ!」


 床を蹴り、そのまま壁走(カベバシリ)! ヨモギの頭上に振りかぶられた電磁木刀は作業服の男にとっては胴薙ぎの一撃だ。(カン)ッ! 木刀が払いのけられる。馳せ違い、ヨモギは床に再び降り立ちながら急停止&クイックターン、全身で木刀を薙ぎ払う。

 敵もまた、振り向きのモーションと同時に木刀を薙ぎ払った。(カン)ッ! 木刀がぶつかり合う!

 

 二人は弾かれた木刀を戻し、斬り結んだ。(カン)(カン)(カン)(カン)! 左! 右! 左! 右! 

 

(イヤ)ァーッ!」

 

 ヨモギは右下段からすくい上げるように木刀を揮う! 男はジャンプ後退しざま木刀を横に薙ぐ! ヨモギは飛び込みつつ大上段のジャンプ斬撃!

 それを男は紙一重回避し、袈裟斬りを放つ。ヨモギはそれを流しざま、柄尻に左手を添え刺突を繰り出す。


「――(セイ)ッ!」


 男の木刀が変幻の動きをした。巻き上げるような動きの後、二本の電磁木刀が天井を向き、一方が持ち主の手から離れた。

 ヨモギは素手となった。

 

(イヤ)ァーッ!」

 

 奪われた木刀が壁に当たって乾いた音を立てるより疾く、ヨモギは拳を握り殴りかかっていった。

 間合いに踏み込んだ瞬間、ヨモギは首筋に電磁木刀の感触を覚える。

 

 ――バチッ! 電磁木刀スタンモードスイッチオン。ヨモギは気絶した。

 

 ……次に彼女が目を覚ましたのは倉庫と思しき一室だった。

 

「オハヨ」


 作業服の男がしゃがんでヨモギの顔を覗き込んだ。ヨモギは床に寝かされ、後ろ手に組んだ両手の親指を結束バンド拘束されていた。途端にヨモギは沸騰した。

 

「オイテメッ、何が目的だッ! ブッ飛ばすぞオラッ!」

「この状態でよくそんなことが言えるな」


 男は感心半分呆れ半分の口調で言い、ヨモギを指差した。

 

「あのタナカだかサトーだかいうオッサンな、あれはどこぞかの密偵(ニンジャ)だぞ。俺はあのオッサンに一杯食わされた。お前さんも多分俺と同じクチかな」


 驚きよりは納得の方が先にヨモギに来た。

 

「アンタもニンジャか?」

「いや? 俺は――」


 男は虚を衝かれた表情をした。そのままブツブツと呟き始める。

 

「密偵には違いないしニンジャとしての訓練は受けている……が、ニンジャと言われても納得しづらく……さりとて……」

「オーイ、戻ってこーい」

 

 自分の内面世界に没入した男にヨモギが声をかけた。男はハッとヨモギを見た。

 

「そうだ。お前さんの名前は?」

「クジカタ・ヨモギだよ」  

「俺は……サスガ・ナガレ。ヨモギ=サン、ここで何が行われているか知ってるか?」


 ヨモギは首を振った。


「どうやらアタシの友達がここに拉致られたみたいなんだ。知ってるのはそのくらいだ」

「拉致?」

「連続誘拐事件だよ」

「そういやコチョウ=サンも言ってたな……」


 ナガレは呟くと、ヨモギへ向けて説明した。

 

「ある悪党どもがここら一帯を基地にしようとしてるらしい」

「基地? 拉致った人間を使って造らせようッていうのか?」


 今度はナガレが首を振る番だった。

 

「集めてるのは老若男女問わず、なんだろ。労働力にはならない。第一この規模になると作業用機械の方がずっと速い」

「じゃあ、ナンデ?」


 ヨモギの胸に嫌な予感が兆した。ナガレは立ち上がる。


「それを確かめに来たんだよ、俺は」

「アタシも連れて行ってくれ!」


 床に横たわったままのヨモギが言った。


「頼む、ナガレ=サン! 友達が拉致られたんだ! きっとロクでもないことに使われる!」


 ササメのことを思い出した。おっとりとしているようで、一番のしっかり者のササメのことを。万が一のことがあったら、ヨモギはきっと平静では居られない。

 

「俺も友達をクソ野郎に拉致られた。お前さんの気持ちはわかる」


 ナガレは立ったまま言った。


「絶対助け出す。だがお前さんはここに置いていく」


 ナガレは倉庫の扉を開け、去っていった。ヨモギは唖然としながら、閉ざされる扉の方を見つめていた。

 そして、泣いた。悔しくて。自分が情けなくて。

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