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サムライ・エイジア  作者: 七陣
第7話「ボーン・トゥ・イクサ・ドライヴ」
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4 優雅にして獰猛なるもの

 全ての〈ムクドリ〉が直線的機動から曲線的機動に切り替わった。

 

 味方の小マーカー、すなわち20機の〈ムクドリ〉が〈フェニックス〉を中心として動いている。そのうち8機が〈グランドエイジア〉のフォローに回った。BUSHBUSHBUSH! 〈グランドエイジア〉後方から〈ムクドリ〉がロケットが発射! イクサ・フレームより速い!

 

 誘導機能のないロケットの弾道を読むことは、イクサ・フレームの電脳にとっては比較的容易な作業に類する。だが敵手の躊躇をナガレは感じた。ロケットを撃墜したとしてその爆煙が広範囲に広がれば、ロケットより強力なイクサ・フレームの斬撃が待っている。しかもその手には対艦ザンバー……〈ワイヴァーン〉は頭部から通信レーザーを放ち、散開によるロケット回避を指示。近接信管も働かぬまますり抜けてゆくロケット弾。

 

 そこへ第二陣、ドータヌキの切先。――(ゴオオオ)ッ!! 32門のスラスターからたなびく炎は〈グランドエイジア〉を覆い隠すほどに激しい。

 

 そこに第三陣、〈グランドエイジア〉が飛び出す。フル加速による奇襲、そのカタナが〈ワイヴァーン〉を狙う。――(ギン)! 〈ワイヴァーン〉のカタナと〈グランドエイジア〉の銃剣が交錯し、火花を散らす。

 敵部隊と馳せ違いながら、ナガレは騎体とドータヌキを合流させる。タネガシマの装填を行ないながらターン。〈フェニックス〉と離れすぎてしまう。

 

 BRATATATATATAT! BRATATATATATAT! 敵部隊が一斉にアサルトタネガシマのトリガーを引く。〈フェニックス〉がホロ・マントを起動し、展開した防御スクリーンと銃弾が拮抗してまばゆく発光した。BUSHBUSHBUSH! 散開状態の12機の〈ムクドリ〉もまたロケットを応射した。アサルトタネガシマがロケットを薙ぎ払う。BRATATATAT! 流れ弾が突出していた1機の〈ムクドリ〉に被弾した。

 その〈ムクドリ〉も一方的に被害者になった訳ではない。残るロケットを断続的に発射しながら〈ワイヴァーン〉へ迫った。〈ワイヴァーン〉は抜き放ったままのカタナを揮う。――(ザン)! 〈ムクドリ〉が真っ二つになりながらも盛大に爆発四散した! KABOOOOM! 爆発が黒々と青空を染める!

 


 ナガレの直掩機が〈グランドエイジア〉より速く敵を射程内に収める。

 BRATATATAT! BUSHBUSHBUSH! 部隊の後方警戒に当たっていた〈ワイアーム〉2騎が弾幕を張る! 〈ムクドリ〉4機が残るロケットを撃ち尽くし、残弾ゼロ! その4機は自らが弾体となり、〈ワイアーム〉に向かって走った。BARATATATAT! BRATATATAT! 〈ワイアーム〉の弾幕が〈ムクドリ〉3機までを打ち砕く! だが濛々たる爆煙を切り裂き、最後の1機が〈ワイアーム〉に到達した! 〈ワイアーム〉は咄嗟に銃でそれを殴りつけた! KRATOOOOOM! 〈ワイアーム〉は爆発に飲まれた。ドライバーはパラシュートで脱出、頭部を丸ごと失った騎体は落下してゆく。――2000メートル下の海上でイクサ・フレームが爆発四散した。KRATOOOOOM!

 

〈グランドエイジア〉のコクピットに〈フェニックス〉からの通信が入る。ナガレは装填したタネガシマを撃ちながら応答する。(BLAM)

 

『ナガレ=サン』

「コチョウ=サン、1騎じゃキツいよこれ!」

『もう1騎増やすべきか(のう)

「是非そうしてくれ!」


 BRATATATAT! BRATATATATAT! 後方警戒騎がまたもや応射してくる。ナガレはザンバーを手放し、騎体をロールさせて回避。


「で、何の用!? 逆転のためのとんでもない策でも思いついたとか!?」

『いや、そろそろ頃合いだと思ってな』


 再度ザンバーとエンゲージ。ザンバー刀身に何発かの被弾痕跡を確認しながら、ナガレはタネガシマを射撃。(BLAM)


『〈フェニックス〉のずっと前方、一時方向だ。ナガレ=サン、高度下げよ。3、2――来るぞ!』


 ナガレはスクリーンに目を凝らす。視界の片隅で輝点が発生したのと同じタイミングで、〈グランドエイジア〉の高度を下げた。


 ――VEEEEEEEEEEEEE!! 光の軸が空を貫いて走った。大気をイオン化させるほどの高エネルギービーム砲だ!

 レーダー探知外からのこの砲撃に、敵部隊は泡を食って散開した。そのうち一騎の〈ワイアーム〉は回避が間に合わず、ビームに胴体を大きく食い破られ爆発四散!

 

 タイミングをずらして、再度ビーム砲撃が放たれた。VEEEEEEEEEEEEE!! 牽制にしても強力すぎる火力は即ち威嚇のそれである。〈フェニックス〉にも手を出しかね、〈ワイヴァーン〉が今出来るのは半減した兵力をまとめることくらいだった。

 

 三次元ジャイロ羅針盤に「正体不明」の文字を伴う大質量飛翔体マーカーが表示された。徐々に接近し、それが全貌を現す。

 朱色の強襲母艦だ。優雅さと獰猛さを矛盾なく両立させた機能美溢れる流線型。強襲母艦は殆ど傲然たる様子で艦体上部の大型連装砲塔を(うごめ)かし、己の火力を見せつけるような仕草をしてみせた。


 広域通信が入る。優美に波打つ金髪を項のところでまとめた熟女がサブモニタに映し出された。その背後には戦装束をまとった長躯の男サムライたちが整然と起立している。

 

『〈サナダ・フラグス〉旗艦〈シナーノ〉より、私はサナダ・カーレンである。諸君らは我が盟友の生命や財産、その他諸々の権利を侵害している。即時撤退せよ。膺懲の鉄槌が諸君ら頭上にあると知れ。もう一度だけ繰り返す。撤退せよ』

 

〈ワイヴァーン〉のドライバーは賢明だった。カタナを鞘に納め右手をさっと振る。撤退を決めた部隊は一糸乱れずターンを決め、3次元ジャイロ羅針盤の範囲外へ去っていった。

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