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サムライ・エイジア  作者: 七陣
第7話「ボーン・トゥ・イクサ・ドライヴ」
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2 生死を問わず

 ナガレは唖然とした。コチョウも唖然としていた。熟女の……土下座(ドゲザ)

 しかし彼女の硬直はナガレよりは短かった。コチョウは畳へしゃがみ、土下座(ドゲザ)姿勢を保ったままのダニエーラの側へ(にじ)り寄った。

 

「一応エクスキューズは聞いてやる。何があったというのだ」

「〈ミハシラⅠ〉、使えません」


 軌道エレヴェータが使えないというのだ。コチョウが眉根を寄せた。

 

「この土壇場(ドタンバ)でか?」


 土下座姿勢はそのままに、ダニエーラが顔をきっと上げた。

 

「この土壇場で、なのよ。ねえねえ聞いてよコチョウ=チャン! うちの小姑(コジュートメ)が酷いのよ!」

「タネガシマ本社の重役に嫁いだとかいう、あの」

「そう、その!」


 コチョウの表情に苦々しさが増してゆく。〈ミハシラⅠ〉を使い宇宙へ行く。それがタネガシマ島へ来た主目的だったのだ。小姑への愚痴に付き合うために来た訳ではない。コチョウは話を強引に打ち切った。


「ではここに用はない(のう)

「そういうことね」


 ダニエーラはしれっと答える。


「御足労頂き誠に申し訳ないけど、補給物資の方はサーヴィスするわ」

「やむを得んか」


 コチョウとダニエーラが視線を交わす。


「ダニエーラ=サン、礼は言っておくぞ。行こうとするかナガレ=サン」


 立ち上がり、ダニエーラをそのままにして部屋を辞去する。ナガレもその後に続く。

 

「何? 何かあった?」


 ナガレが尋ねる。コチョウは無言。だが、ナガレの懐で通信端末(インロー)が振動した。通りすがりの職員らしき人物が咎めるような視線を向けてくる。

 向かうはエレヴェータ。ちょうどドアが開き、乗る。乗客は二人だけ。コチョウがようやく口を開いた。

 

「インローを見よ」

 

 ナガレは確認した。送信元はヤマダ・ナオコ。メール着信1。開くと、ナガレの写真が。写真下部には賞金額。踊る「|DEAD OR ALIVE|《生死を問わず》」の文言。

 

「――って俺賞金首!?」


 コチョウはエレヴェータの壁に背中をもたせかけながら言った。


「ユカイ・アイランドでは派手にやりすぎたようだな。ま、今まで遅すぎたくらいだが」

「……イノノベのジジイか。コチョウ=サン、この情報をいつ手に入れた?」

「ダニエーラの眼からだ。あやつは過去の事故で両眼を義眼にしておるでな」


 通信端末機能を持つ義眼。コチョウの義体もそれである。


「マツナガ=サンが教えてくれた? わざわざ俺たちをここまで呼んでおいて?」

「呼ばねばならぬ事情があったのだろう。だとすれば我らを狙っておるのは、タネガシマの小姑(コジュートメ)殿の手の者かな」

「どうする?」

「どうするもこうするも、ビルから脱出するしかあるまい」

「マツナガ=サンの方だよ。危なくないか?」

「あれはあれで相当な修羅場を潜った女だ。自分のことは自分で何とかするだろうし、何とか出来るだけの自信はあるはずだ」


 長い付き合いが培った信頼。二人の間にあるのはそういったものだろうとナガレは見当をつけた。

 ピンポーン。軽やかなノーティス音と共に700階に到着。エレヴェータで到着しうる最上階だ。


「敵は回り込んできてないか」

「何、わたしを誰だと心得ておるのだナガレ=サン?」


 コチョウは不敵に笑う。

 ナガレも電磁木刀を手に執った。コチョウがナガレをよく帯同させるのは、こういうときのボディーガードのためだ。銃は携帯していないが、サムライの電磁木刀はそれに匹敵する恐るべき武器である。

 

 エレヴェータのドアが開く。ナガレが先行した。照明のついた廊下、誰も見える範囲にはいない。

 

「いや、男子トイレで出待ちしておる。3人だ」


 コチョウが言った。監視カメラをハッキングしているのだ。

 

「じゃあ直接乗り込むとするか」

 

 ナガレの顔に悪戯小僧めいた笑みが浮かぶ。コチョウもそれを止めはしない。 

 タネガシマ文化財団ビルのエレヴェータは三つあるが、動いている気配はない。これもコチョウの電子干渉によるものだろう。つくづく彼女を敵に回すものではないとナガレは思う。


 わざとらしくないように少し気をつけながら足音を廊下に響かせる。トイレ前にまで来ると、コチョウが言った。


「では、スイッチオフ」


 言葉通り、トイレの照明が消える。

 そこへ暗視ゴーグルを装備したナガレは躍りかかる。


(セイ)ッ!」


 手前の男へ袈裟懸け。

 

(セイ)ッ!」


 その右手の男へ胴薙ぎ。


(セイ)ッ!」


 残った奥の者へ面打ち。

 

「「「……グワワワーッ!!」」」


 そうして男たちは昏倒した。

 

「身元は探らんでいい。脱出が先決だ」

 

 コチョウがトイレを覗き込んで言った。ナガレは残心を決めつつトイレから出た。歩きながら、話す。

 

「このフロアの敵はこれだけ?」 

「そうだ。敵の手応えは?」

「案外なかった。ただの賞金の桁に誘われてやってきただけかもな」


 コチョウはこれには答えず、楽観視していない表情になって進んだ。廊下は窓沿いである。ナガレのニューロンがシグナルを発する。これはよくないのでは……?

 

「コチョウ=サン、走って!」


 ナガレが口走った。

 と、同時に窓の外側に出現する機影――戦闘用ヘリコプター〈アシダカバチ〉。

 その機体をコチョウが睨んだ。

 BRATATATATATATATATATATATATAT!! ヘリの機銃が火を吹いて窓ガラスを薙ぎ払う。疾走するナガレとコチョウの背後数センチを銃弾が掠めてゆく。敵の死角にたどり着いたが、時間の問題だろう。


「流石にヘリのコントロールは奪えんな!」

「あいつをどうする?」 

「予定は変わらん! 上だ!」 

 

 すぐそこの金属製のドアの電子ロックを解錠し、タラップを登ると、屋上のヘリコプター用エアポートへたどり着く。

 戦闘用ヘリコプターが待ち構えていた。ローターが大気を掻き回し、屋上全体に風を起こしている。しかももう一台のヘリが上昇しながらこちらへ来ていた。

 

 意味がないとわかっていながらナガレが前に出る。機銃が二人の方を向く。

 銃弾は放たれなかった。一方のヘリがコントロールを失ったかのようにフラフラと宙を泳ぎ始めた。もう一方もまた遅れてゆったりとしたランダム機動を始めた。

 

『遅れてスミマセン。御二人とも御無事でしょうか?』


 3つ目の影が空に現れた。電子戦艦〈フェニックス〉号だ。声は、事実上の副長である人工知能〈マルタ〉。彼女は代理艦長権限を用いてヘリコプターのコントロールを奪取したのだった。

 

「でかしたマルタ=サン。回収を頼む」

 

 艦腹が開き、縄梯子(ラダー)が垂らされる。登る。艦橋(ブリッジ)へ。そこにはジトー・ショージがいた。ジトーはナガレをひと目見てから、コチョウに視線を合わせた。


「無事だったか艦長。荷物の搬入中によ、妙な連中が臨検を装って中に入り込みやがった」

「その者らは」

「マルタ=サンが箱詰めにして放り出した」

「ならばよし。マルタ=サン、即刻離脱するぞ」

『それはいいのですがミストレス(あるじ)


 マルタがそう前置いて警告した。

 

『高速飛行体が接近しています。イクサ・フレームです。数は6騎。振り切れません』

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