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サムライ・エイジア  作者: 七陣
第6話「ダークサイド・オブ・ユカイ・アイランド」
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20 ヤギュウ・ハクアの報告書

 ヤギュウ公邸。ハクアは叔父ムネフエ大公に「ユカイ・アイランド事変」の報告書を提出した。

 大公は報告書をざっと斜め読みしているようだった。やがて、ぽつりとその単語を口にした。

 

「〈グランドエイジア〉……か」


 サスガ・ナガレの駆る黒鋼(クロガネ)のイクサ・フレームの名前。偉大なる(グランド)〈エイジア〉号。


「〈エイジア〉というとアマクニ社でしょうか?」


 ツインアイに見せかけてはいたが、〈グランドエイジア〉の複眼はアマクニ社製イクサ・フレームの特徴とも符合する。瞳に見える部分は威嚇のための発光だ。


「鑑定班に回したところ九十パーセントの確率でアマクニ社製の騎体であると出てはいるが……そのアマクニ社がなぁ」

「倒産しているのでしたね」


 その程度のことはハクアも独自に調べていた。

 主力量産騎(カズウチ)である〈エイマス〉のコピーライトをタネガシマ社に売却して以降、アマクニ社はとにかく不運に見舞われ続けた。相次ぐ〈エイジア〉シリーズの不良在庫、社長の代替わりによるカリスマの低下、社員らの離反、第三世代新式量産騎(カズウチ)開発の失敗――そして倒産。


「アマクニ社の当時の主要メンバーの半数はタネガシマ社に移籍しましたが、残りの行方は不明です。インディーズの工房に雇用されたという噂がありますが、イクサ・フレームを建造出来るような資本ではありません。銀行からの借り入れもそう多くはないようです」

「ミズ・アゲハならば資本隠しなど容易だろう。まあ、そっちは急な要件ではない」


 大公は資料を執務卓に置いてから、ハクアの眼を見据えた。

 

「それでお前はこれからどうするつもりなのだね」

「イノノベ・インゾーとマクラギ・ダイキューを追います。そして、〈フェニックス〉も」


 ハクアは決然的口調で言った。

 

〈ペリュトン〉を全くの力技によって(少なくともハクアにはそう見えた)撃破してのけた後、〈グランドエイジア〉はいずことなく去っていった。恐らく〈フェニックス〉に回収されたのだろう。

 その直後に送られてきたサスガ・ナガレからのテキストメール――「マクラギ・ダイキューを追え」。

 

 その男はハクアも知っていた。父ジュウベエ=ハチエモンの直弟子。ハクアの兄弟子。家族同様に暮らしたこともある。平穏の中でも、獣の匂い(アトモスフィア)を漂わせていた男。そして先代ショーグン職を暗殺の容疑者――

 ナガレの話では、彼が父の肉体を持ち去ったという。看過出来ぬ話だ。


「三つは同時に追えまい。〈フェニックス〉を重点せよ。残る二つは彼女の方で追っていることだろうからな」

「はい……」

「短い休暇は楽しんだか?」

「いいマッサージ師に当たりました」

「それはよかった」

「それで……クロエの具合は?」


 救出任務の最中、ヤギュウ・クロエは右手を斬り落とされた。右手を失った彼女は、激痛と失血を圧して部隊の指揮を執っていたのだから大したものである。


「腕は回収してくっつけたから大事はない。リハビリには時間がかかるが」

「そうですか……」


 大公はもう一度報告書を手にとって、めくったページに眼を落とした。


「ハクアよ、乱世が来ようとしている。乱世ではなくとも嵐の時代だ。ひょっとしたら、今までの百年を最良の時代だと懐かしく思うことになるやも知れん」

「その盾となるために我らヤギュウがいるのでしょう、叔父上」

「うん、まあ、その通りではあるのだ」


 ハクアの反駁を、叔父はやんわりと受け止めた。

 

「〈ペリュトン〉、〈レヴェラー〉、〈セブン・スピアーズ〉……お前もわかっていよう。異常事態である。その一方でお前やクロエ、外にはサナダの小倅やその婚約者、更にはタツタ・テンリュー、そしてサスガ・ナガレのような若い力も現れておる。激動の時代に備えよとでも言うように。ヤマトのカルマの為せる業かな?」

 

 ハクアは返答に窮した。そんな彼女に対して鷹揚に、大公は言った。


「いつか、サスガ・ナガレにも会ってみたいものだな」

「……彼は叔父上の希望に沿うような者ではないと存じます。わたしは、あれほどいい加減な男は知りません」

「いや、知っているはずだぞ。ヤギュウ・ジュウベエ=ハチエモンという男なのだけどな」


 途端にハクアに不機嫌になった。心外にも程がある。父とナガレを比較など……


「……では、これにて失礼します」

「おお、そうだ」

「他に何か?」

「ナガレによろしく」

 

 今度こそ無言でハクアは退出した。

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