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サムライ・エイジア  作者: 七陣
第6話「ダークサイド・オブ・ユカイ・アイランド」
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18 怪鳥の墜とし方

「血が止まらないよォーッ!」

「痛えよォ……痛えよォ……」

「ママーッ! ママーッ!」

「タタリじゃ! この島に眠るヘイケ・クランのタタリじゃ!」

「滅びますぞーッ! 遠からぬ日にショーグネイションは滅びますぞーッ!」


 中央交差点のそこかしらから声が聞こえた。イクサ・フレームの爆風がもたらした破片を身体に受けた人々がうずくまり、母親を見失った子供が泣き叫ぶ。

 ミサヲはサイボーグ黒服によって身を守られながら、彼らの声を聞き、姿を見た。

 そして、今中央交差点の人々を救った黒鋼(クロガネ)のイクサ・フレームが、上空へ向けて再び飛び去ってゆく後ろ姿も。――轟音(ゴオオン)!! 風によってミサヲの髪が激しくはためいた。


「お怪我は?」


 口を開いたのはアヤメである。ミサヲを含めて全員無事だった。

 

 一台の重力素子エンジンタイプのリムジンが交差点のやや手前で止まった。運転手席から降りてきたのはタツタ・テンリューである。彼はミサヲの姿を認めると、一同をリムジンへ速やかに収容した。

 

「このまま島を離れます。とんだ休暇になってしまって、申し訳ありません」

 

 リムジンを運転しながらテンリューが言った。

 アヤメがプリンセスを危機に晒したことへの謝罪を口にした。


「申し訳ありません姫様。あなたを危険に晒してしまいました」

「謝る必要はありません。こんなことは予期出来るものではないでしょう」 


 運転席のテンリューへ呼びかけた。


「この件について、わたしの周辺の誰かが罪を被ったり罰を受けたりすることをわたしは望みません。よろしいですね、テンリュー少佐?」

「仰せのままに」


 テンリューは逆らわなかった。

 

 メイドからぬるめの最高級抹茶を受け取りながら、ミサヲは車内の様子を見た。黒服たちは車中から窓の外を注視している。皆が定まった役柄を演じていた。監督及び演出不在の劇だった。

 アヤメの方を見ると、タブレット端末を操作して現在のアイランドの状況を調べている。尋ねるならば彼女だろう、とミサヲは考えた。

 

「……黒いイクサ・フレームがわたしたちを助けてくれました。見たこともないイクサ・フレームです。詳しいことを知りませんか?」

「この頃わたくしどもの情報網に、神出鬼没の黒鋼(クロガネ)のイクサ・フレームの噂を聞きます。その名は――未確定情報ではありますが――〈グランドエイジア〉」 


 ミサヲはその名を心に刻みつけた。〈グランドエイジア〉。


 

 × × × × ×

 

 三騎目の〈ジェラルマ〉が爆発四散した。軍警察は二次被害を減らすのに手一杯で〈ペリュトン〉に割く余裕もなさそうだった。やはり頼りになりそうにない。

〈ペリュトン〉を墜とすにはやはりホロ・フィールドをダウンさせるべきだろう。六騎のアサルトタネガシマを集中させれば可能だったかも知れないが、今やその機会は失われた。

 ハクアは自騎である〈テンペストⅢ〉のカタナを見る。真正面から斬りかかっても、ホロ・フィールドを貫けないのはナガレが実証済みだ。

 いや、可能性はある。己のカルマを極限にまで高め、イクサ・フレームを介してカタナに宿すこと。それによって可視化されたカルマの焔はそれ自体が威力を孕んでいる。サムライたちはその焔に憧れ続け、それ故イクサ・フレーム用電磁カタナは実用化にまで至らなかった。

 銀河戦国時代、戦場のそこかしらでカルマの焔は鬼火(オニビ)めいて燃え、宇宙空間を灼いてその力を示したという。燃えるその一刀によって戦列艦が両断され、コロニーが輪切りにもされたという。

 しかるに戦国終結から百年を経た現在――カルマの(エフェクト)を燃やすことが出来たサムライなど極少数である。

 

 ハクアは〈ペリュトン〉が四騎目の〈ジェラルマ〉を食い散らすのを見た。

 彼女のニューロンで闘志が燃えた。


 おお、ヤギュウ・ハクアよ。ヤギュウの剣姫よ。お前はそのカタナにカルマの焔を燃やさんとするか。開祖ヤギュウ・セキシュウの為せるが如く――

 

 ――PPPP!! 〈テンペストⅢ〉の三次元ジャイロ羅針盤が告げたのは「正体不明」物体の接近であった。

 上空を我が物顔で飛翔する〈ペリュトン〉の更に上空、ハクアの動体視力が白い光跡を捉えた。〈テンペストⅢ〉のサブモニタがズームし、その正体を明らかにする。


 それは巨大な出刃包丁と見えた。イクサ・フレームほどの刀身を持ち、質量もまたイクサ・フレームに匹敵する、長大にして肉厚の出刃包丁だ。それは峰に無数の噴出孔を持ち、炎を棚引かせながら飛翔していた。その存在はヤギュウ・ハクアを唖然とさせるに十分であった。――空飛ぶ出刃包丁! 

 

 そう――これこそユイ・コチョウが図面を引き、マツナガ・ダニエーラを介してエンジュ工房へ丸投げしたものであった。その名も試作型対艦対要塞噴射式ドータヌキ・ザンバー・ブレイド〈一刀両断丸〉である!

  

 ドータヌキ・ザンバーが下方向へ軌道を変え、〈ペリュトン〉へ襲いかかった。(ゴオオオ)――(ザン)! 〈ペリュトン〉はすんででそれを躱す。 

 

 ドータヌキ・ザンバーが飛翔先に現れたのは〈グランドエイジア〉だ。ギリギリまで速度を落とすことなくザンバーとイクサ・フレームはエンゲージ座標へ到達、〈グランドエイジア〉の右手がザンバーの、長大な刀身に見合ったサイズの柄を掴んだ。


 ――轟音(ゴオオン)!! ザンバーそれ自体が追加ブースターとなり、〈グランドエイジア〉を更なる加速へ導く。コクピットの重力中和装置でも殺しきれぬGがドライバーに襲いかかる。ナガレは歯骨を噛んでこらえる。しかし眼を閉ざすことはない。

 

 ナガレは〈ペリュトン〉を追うために騎体を強引にターンさせる。

 いた。真正面。〈ペリュトン〉のドライバーもまた、虹色の光を迸らせながら最大戦速でこちらへ突撃を仕掛けてきた。

 ナガレも獣めいた笑みを浮かべ、〈グランドエイジア〉の最大戦速突撃で応じる。

 

 さながらそれは、地球時代の中世ヨーロッパ騎士による馬上槍試合(ジョスト)めいた二騎のブルファイト! 壮絶な激突の衝撃波がユカイ・アイランド全域に響き渡る! ――(ガン)ッ!!

 

 ……その勝敗は、一撃ではつかなかった。二騎の軌道は馳せ違うや、その交点で僅かに、しかし明らかに失速した。


 激突の際に崩れた〈グランドエイジア〉の飛翔バランスを立て直しながら、ナガレは手にしたザンバーの状態を見た。刀身の半ばが、獣の餌食めいて喰らわれるように欠損していた。ザンバーのスラスターも三分の一が機能しなくなっている。


「……上等!」


 ナガレはむしろそれをよしとした。一撃で折れていないということは、相手にも相応のダメージを与えたということだ。もう一撃で当たれば仕留められる。ナガレはその確信を深め、騎体の進路を〈ペリュトン〉へ向けた。恐らくそれは〈ペリュトン〉も同じように思っているに違いない。


 気づけば二騎は海の上にあった。海上上空数百メートル。ここが決戦の場所だった。次の一撃で、イクサを決する。

 海へ出た二騎はX字に交差する。交差し、離れる。〈グランドエイジア〉は東へ、〈ペリュトン〉は西へ。

 そして測ったようなタイミング、〈グランドエイジア〉はドータヌキ・ザンバーと己のスラスターを同期させて、〈ペリュトン〉は虹色の攻性ホロ・フィールドを展開させて、同時にターンからの最大戦速突撃。


 ナガレの主観がまたもや泥めいて遅滞する。距離が縮まる。更に遅滞する。距離が縮まる。更に遅滞する。距離がゼロになる!


 激突はしなかった。その直前、〈グランドエイジア〉の騎体がホップしたからだ。

 

「――征彌(セイヤ)ァァァーーーッ!!」

 

 ナガレは騎体制動に全神経を費やした。ホップした騎体をスラスター最大出力で狭い円弧を描くように旋回、ドータヌキ・ザンバーを振り下ろす。即ち、〈ペリュトン〉へ。


 ――(ガン)ッ!! ドータヌキ・ザンバーは攻性ホロ・フィールドで刀身を食い破られながら、それでもなお〈ペリュトン〉の騎体を打ち据えることに成功した。打ち据えられた〈ペリュトン〉の騎体はイクサ・フレーム並の強度であり、内部機構を多少損ないながらも斜め四十五度の角度で下降していくだけだった。ホロ・フィールドは展開したまま……

 

 ドマ・マサキヨは絶叫した。

 

「バカなッ!? バカなバカなバカなーッ!!」

 

〈ペリュトン〉は海へ叩きつけられ、沈んでいった。攻性ホロ・フィールドの威力は大量の海水と反応し、その出力自体が自騎に向けられる矛となった。


 こうして海上に水柱が束の間屹立し、爆発四散したドマ・マサキヨと〈ペリュトン〉の残骸を海へと飲み込んで、消え去った。

次でエピローグです。

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