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サムライ・エイジア  作者: 七陣
第6話「ダークサイド・オブ・ユカイ・アイランド」
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16 イクサ・フレームの飛翔

「チィーッ! よくぞ躱したな!」


〈ペリュトン〉のコクピットのドマ・マサキヨは鋭く舌打ちした。その薄い唇には、悔しみだけではなく喜びの証である笑みが浮いていた。


 ドマ・マサキヨは本来サムライではない。イクサ・フレームに乗れるカルマ受容値を持たなかった。生まれながらにして身体の大部分を欠損していたので、とある施設に売られたのだ。

 ドマは生き永らえるためにありとあらゆる人体実験を受けさせられた。

 彼の肉体の大部分を構成するのは人工物であり、それらはサムライに匹敵乃至(ないし)は凌駕する新たなる人類を生み出すためのものとしてデザインされていた。

 ドマの肉体の至る箇所には接続端子が設けられていた。彼は〈ペリュトン〉と数多の神経接続ケーブルでつながっていた。それは銀河戦国期には既に失われていた技術だった。〈ペリュトン〉という異様の騎体の操縦に、それは必要な措置だった。

 ドマ・マサキヨは多くの犠牲の上に成り立った現在進行系の実験体であった。彼は己の生命が施設なしには成り立たないものだと理解していた。そしてその施設は、イノノベ・インゾーとつながりを持っていた。


 ドマ自身はあの偏屈な老人がどうなろうが知ったことではなかったが、義務は果たさねばなかった。それ以上に、この異形のイクサ・フレームを駆る快感があった。〈ペリュトン〉こそ通常のイクサ・フレームに騎乗出来ぬ彼のための、大型のアヴァターだった。


「ヤギュウもサスガ・ナガレも、諸共にこの〈ペリュトン〉の前に散るがいいッ!!」


 ドマ・マサキヨは〈ペリュトン〉と共に飛翔する。

 

 × × × ×


 ……その記述は「第一次オーザカ包囲網」に参戦した侍大将(センチュリオン)の日記にある。


「小さい虹色の輝きが左に見えた。私はそれをナノウルシかカタナや槍の穂先が太陽を反射する輝きだと思った。(中略)その光が私の眼の前に陣取っていたイクサ・フレームの戦列を左から右へなぞるや、陣列はその順番へ爆発四散した。(中略)終戦から十数年後、私はこれがかの〈ペリュトン〉の仕業だと知った」……


 コチョウが電子戦艦〈フェニックス〉号のアーカイヴスから転送したデータを、〈グランドエイジア〉とついでに〈テンペストⅢ〉のサブモニタに映し出した。〈ペリュトン〉のデータだ。真上から見た〈ペリュトン〉は、底辺が狭い二等辺三角形に前進翼を付けたような形状だった。騎体の重心にコクピットらしき部位があり、そこから頂点に当たる騎首は二つに割れていた。

 

「……戦闘機?」

「否、あれもイクサ・フレームだ」

「そうは見えないが」

「手足はある。一応な」


 コチョウは三面図をズームした。言われてみれば騎体下部に生えた機銃は腕部、二門のフレキシブルスラスターは脚部に見えなくもない。


「カルマ・エンジンは四肢によって判別するからな」

「雑な判定だな! 奴に電子干渉(ジャミング)は?」

「仕掛けておるが、効果がない。〈セブン・スピアーズ(奴ら)〉には特殊な防護措置が施されておるようだ」


 虹色のビームめいた光跡を描いて〈ペリュトン〉は飛んでいった。ナガレがそれを見つめていると、コチョウが尋ねた。

 

「ナガレ=サン、空戦の経験は?」 

「シミュレーターでだけ」

「フムン……まあ、何事も経験が必要だな。そこのヤギュウのお嬢さん(フロイライン)は?」

『あります』 

 

 出し抜けの質問にもハクアは答えた。〈テンペストⅢ〉との通信にノイズが混じる。ややあって、ハクアが言った。


『……イノノベはアイランドから逃げ出したようです』

「チィーッ! あいつはその陽動って訳か!」

 

 鋭く舌打ちしつつ、ナガレは再度空に輝く光跡を見上げた。その軌道は極めてランダムであり、騎体の高い機動性とドライバーの嘲弄の意思が感じられた。 


〈ペリュトン〉が騎首を巡らし、東側へ向かった。その向かう先はランドマークたるユカイ・タワー・ツリー。――まさか!

 

 そのまさかであった。――ザン! 全長千メートル超のタワービル先端百メートル付近を光の刃がよぎった。と見るや、その部位が地上へ向けて落下していった。

 

 ナガレは地上がどのような惨事に見舞われているか想像しようとして、出来なかった。


「……不味いな、自分を囮にするためになんでもありという訳か」

 

 コチョウが言う。ナガレは騎体の視線を〈テンペストⅢ〉へ向けて、ハクアへ言った。

 

「ハクア=サン、喧嘩はここで中止だ。いいな?」

『――やむを得ませんね。あれは市民に害を為すものです。イクサ・フレームを与る者の義務として止めねばなりません』

「アンタもそう思うか」

『ええ。共闘、お願いします』

「よかった。俺も一騎じゃちと自信が持てなかったところだ」


 ナガレも内心胸を撫で下ろす。ハクアが意固地になって共闘を拒否する場合も想定していたが、杞憂だった。賢明な彼女は眼の前の愚かな弟弟子に仕置(シオキ)を下すより、人命を(いたず)らに損なう害鳥の駆除を優先したのだ。


 ナガレは言った。


「ということでミズ・アゲハ、降りてくれ。後部座席だと重力を中和しきれん」

「仕方ない(のう)

 

〈グランドエイジア〉が拝跪姿勢を取った。胸部コクピットからコチョウが降りる直前、彼女が言った。


「ナガレ=サン。アレを出すタイミングはそちらへ任せるぞ」

「あいつに使うのか?」 

「本来は〈レヴェラー〉に使う予定だったのだが、是非も無し。存分に叩き込んで来るが良い。では武運長久を(イクサ・ラック)

武運長久を(イクサ・ラック)


 コチョウが地面に立つのを見送ってハッチを閉鎖。ライダースーツの彼女が走り去っていくのをスクリーン確認すると、スラスター点火。

 

『ナガレ=サン、聞こえますか』 


 ハクアからの通信。


『〈ペリュトン〉は攻性ホロ・フィールドを騎体に発生させることで大出力ビームカタナめいて接触した物体を破壊・切断します。その性質から、真正面からの撃破は困難であろうと推察されます』


 ――ブオン! 〈テンペストⅢ〉のスラスター炎が出力を増した。騎体が僅かに浮いて滞空していた。

 

『わたしが先行します。あなたは援護を』

 

 ――轟音(ゴオオン)!! 〈テンペストⅢ〉が飛翔した。遅れて、〈グランドエイジア〉も。異形のイクサ・フレーム〈ペリュトン〉の翼を砕き、地に叩き沈めるために!

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