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サムライ・エイジア  作者: 七陣
第6話「ダークサイド・オブ・ユカイ・アイランド」
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14 風は乱刃の煌めきを伴う

 この新たなる参戦者の登場に、VIPたちは少しずつ冷静さを取り戻していた。今まで賭けに熱狂してはいたが、自分たちがどうやら取り返しがつかない場所にまで来てしまっているという事実に、今更気づいたらしい。

 何しろここに来てヤギュウ・ハクアの参戦である。美しきこのソードプリンセスの勇名は既に高く、若手ドライバーの中でも筆頭候補と見られている。その乗騎たる薄紅グラデーションの〈テンペストⅢ〉もまた知名度は高い。即ち、ヤギュウによる地下闘技場摘発!


 賭けの条件更新を行なって然るべきドマ・マサキヨの声が途絶えて久しい。運営も同様に混乱しているものと見られる。

 無論、ここにいるのは冷静な者だけではない。詰め寄られたスタッフは困惑の表情で応対していた。


「あの〈テンペストⅢ〉は何ザマスか!?」

「一体どうなっておるのかねプルマイ=サン!」

「私はあの〈ブロンゾ〉に賭けているんだ!」


 観客たちは言い募る都度に怒りもまた募らせたようだった。彼らは我慢に慣れていないのだ。


「もういいザマス! 運営へ訴えるザマス!」

「それは困りますお客様!」

「困っているのは私の方だ! 私はあの〈ブロンゾ〉に賭けているんだ!」


 テンリューは混乱にある室内を退出した。もう誰も退出者に構いはしなかった。

 あの場所で見るべきものは最早ない。恐らくナガレは生きているだろう。テンリューのサムライ動体視力は〈ブロンゾ〉の背部から射出された脱出ポッドを捕捉していた。そこにハクアの〈テンペストⅢ〉がやって来た。趨勢は決したとテンリューは思った。

 彼は携帯通信端末(インロー)を取り出した。


「モシモシ、私だ」

『ドーモ少佐。そっちは面白いことになっているようですな』

「どうせ動画で共有されるさ。タナカ=サン、そっちは?」

『イクサ・フレーム博物館です。例のブツらしきものも確認出来ました。サイズがサイズですから一人じゃ搬出は無理ですが』

「追加人員をそちらへゆかせよう」

『お願いします。あ、もう一つ』

「何だ?」

『それとは別に厄介なものを見つけました。〈ペリュトン〉です。厄介なことに起動準備中』

「破壊は可能か?」

『難しいですな……隙を見てやってみますが』

「――いや、今回は目的物の回収だけでいい。〈ペリュトン〉には手をつけるな」

『了解です。合流地点はメールで』

「頼んだぞ」

御意に(アイアイサー)


 タナカの次はアヤメだった。


「アヤメ中尉、殿下は? ――そうか。無事なら構わん。では今すぐ私と合流せよ。場所は――」


 × × × ×

 

 ハクアの〈テンペストⅢ〉は一陣の白い風めいて動いた。

 

(イヤ)ーッ!!」


 弧を描いて斬り上げられる〈テンペストⅢ〉のカタナ! 〈アイアンⅠ〉の両手が握ったカタナごと宙を舞う!


(イヤ)ーッ!!」


〈テンペストⅢ〉が身を低くして疾走! すれ違いざまに揮われた袈裟懸けの一刀は〈エイマス〉の右腕と頭部を同時に奪う!

 

(イヤ)ーッ!!」


 後方斜め右、スラスターを吹かして斬りかかる〈ハルベルト〉の切先を重力を百トンの自重を感じさせぬ動きで回避、更に空中で身を捻って〈ハルベルト〉を刎首に処す!


 着地直後! その背後へ迫りつつある〈ワイアーム〉の鼻面に、〈テンペストⅢ〉のタネガシマ・ライフルの銃口が突きつけられた。――BLAMN! 吹き飛ぶ頭部!

 

 ヤギュウ・スタイル免許皆伝カイデン・ライセンサーの実力ここにあり! ヤギュウ・ハクアの剣は冴え渡っていた。しかも〈アイアンⅠ〉(ラスティ・アイアン)を始めとする新式量産騎(カズウチ)第一世代と、最新鋭騎たる〈テンペストⅢ〉の総合戦力の差は1.3倍とも言われる。ハクアは五騎撃破の戦果をむしろ当然のように認識した。それにしても一部の敵騎の挙動がおかしいことも気になるが――とにかく、今が好機だ。

 

 ハクアは旧式量産騎ドライバーが皆未成人であることを確認していた。ハクアは彼らを逃がすための囮して立ち回っていた。現に多くの旧式騎がハクアが指定した座標へ向かっている。今まで〈ブロンゾ〉に撃破された騎体のドライバーたちも回収されていた。

 

 ――BLAMN! 〈テンペスト〉のタネガシマが再度火を吹いた。逃げ遅れた〈リザード〉を追い回していた〈ワイアーム〉に対する牽制である。命中はせずとも効果はあった。〈ワイアーム〉は足を止めてこちらへ注意を向け、〈リザード〉は逃げおおせた。

 

 かの〈ブロンゾ〉のドライバーがあの(・・)サスガ・ナガレであることも、ナガレが〈ブロンゾ〉撃破の際脱出済みであることも、ハクアは確認済みである。全く、ナガレは頑張り過ぎた。彼がイクサに対して、いやイクサだけではなしにもう少し怠惰か慎重であったならば、〈ブロンゾ〉は生存していただろうし、未成年ドライバーの誘導も任せられたはずだ。今更愚痴を言っても詮無きことではあるが――

 

「彼の蛮勇にも困ったものです……」


 ハクアは独り嘆息する。

 

 PPP...アラートが敵騎の増援(オカワリ)を告げる。

 九時方向、離れた場所に新式六騎が現れた。しかも今度は〈アイアン・ネイル〉や〈アイアン・カッター〉が混じる編成だ。ハクアの眉根が寄る。カタナのみであった今までの騎体群とは異なり、タネガシマ装備騎体も見られる。今度は苦戦を免れまい。

 しかし退けぬ。ヤギュウの剣姫(ソードプリンセス)の二つ名を気に入っている訳ではないが、ヤギュウ・ハクアには矜持がある。

 サムライとしての矜持、即ち弱きを助け強気を挫くという単純明快な、それ故に強固な意志だった。

 

 六騎が三騎ずつ、二手に分かれて移動した。一つはハクアの〈テンペストⅢ〉へ。もう一つは――旧式騎への退避区域へ!

 

「いけない!」


 ハクアは自騎のスラスターを吹かし、救出へ向かった。しかし三騎が阻む!

 

「退きなさい、(イヤ)ーッ!!」

 

 裂帛のシャウト! その一刀を待ち構えたように〈アイアン・ネイル〉が受け止める! 鍔迫合(ツバゼリアイ)! (シノギ)が削れ激しく火花を散らす!

 

 こんな敵にかかずらっている暇はないのに――焦りがハクアから剣の精妙さを奪ってゆく。別隊が旧式騎たちに迫りつつある。間に合わない!


 そのとき、黒い風を見た。

 

 風は別動隊の上空斜め二十五度から襲いかかった。――ズドン! 轟音が響き、土煙が立つ。その中からイクサ・フレームの手脚が宙に飛ぶのが見えた。

 更に黒い風は乱刃の煌めきを伴った。胴体から離れたイクサ・フレームの手脚が更にバラバラになる――切り刻んで近隣の建物への被害を防いだということか。


 土煙が消え失せる。


 そこに黒鋼(クロガネ)のイクサ・フレームがあった。艶光る黒鋼の装甲、ビームクワガタ、黒いハニカム有機複眼に燃えるオレンジの瞳、抽象化された乱杭歯(ラングイバ)面頬(マスク)。即ち、〈グランドエイジア〉。

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