11 サスガ・ナガレの咆哮
強引に招集が掛けられ、強引に騎体に乗せられた。ナスノ・カコの他のデュエリストも皆同じなのだろう。イクサ・フレームに騎乗していても当惑の気配が感じられる。
通信が入った。男の声がさも愉快そうに告げた。
『リトルデュエリスト! 君たちにチャンスをくれてやろう! 目的は単純明快、あの向こう側の〈ブロンゾ〉を倒すことだ!』
予想はしていたことだが、ドライバーは全員子供ということか。その視線が〈ブロンゾ〉に注がれる。得物はその手にはない。
『敵は脱出を企む不埒者! その動きを止め、撃破乃至戦闘不能に持ち込め! ただし、敵は歴戦のイクサ・ドライバーだ! 故にこのステージはスペシャルバトルだ!』
一対多数の変則バトル――要するに、味方の犠牲すら厭わぬ狩りだった。カコは与えられた得物であるロングカタナに刃がついていることに気づいた。デュエルで使うような刃の潰されたものではない、正真正銘イクサで用いるカタナだ。刃がつくだけで危険性は高まる。
『君らの活躍次第では解放も考えないではない! 各自奮闘を期待する! では――武運長久を!』
通信が切れた。
味方は誰も動かない。
敵騎〈ブロンゾ〉も動かない。こちら側の動きを見ているのだろうか。何せ武器がないのだから。
再度通信。またもや同じ男の声。
『そうやって睨み合っていられるのも困るんだよ……』
――KRA-TOOOOM!! 味方側の一騎が、突如として爆発した。
カコの肌が総毛立った。
『一騎分だけだが、確実に破壊出来るほどの爆弾を積んでいる。勿論コントロールは私が握っている。さあ、わかっているなら闘い給え! リトルデュエリストたちよ!』
何たる卑劣! 何たる悪虐! 咄嗟にカコには言葉もない。
と同時に思った――自分でなくてよかった、と。生存を喜ぶ心が自己嫌悪を招き、ニューロンに毒のように残った。
旧式イクサ・フレームの群れは一騎ずつ、ゆっくりと動き出した。カコもまた、歩き出した。
群れの速度が徐々に上がる。
そのうち二騎が抜け出る。人間めいた二つ眼は〈ミスト〉、細長いゴーグルマスクは〈ギサルム〉。絶望に駆られた行軍の中で、自暴自棄になったとしか思えない動きだった。
対して〈ブロンゾ〉はまだ動かない。敵ながら、カコは思わず心配になる。
距離が埋まる。距離が縮まる。
〈ミスト〉と〈ギサルム〉はカタナを振り上げ、〈ブロンゾ〉へ斬りかかる――瞬間!
――衝撃!
二つの騎影が宙を舞った。イクサ・フレームの全高に倍する高さであった。
――厳!! その高さから、背面から地面へ叩きつけられた旧式二騎は機能停止。
二本のカタナが投げ出され、切先を下にして荒れたアスファルト路面に突き刺さる。
この場を見ていた全員が、何が起きたかをすぐには把握しかねていた。
ようやくカコは、〈ブロンゾ〉が〈ミスト〉と〈ギサルム〉を柔術を用いて投げ飛ばしたのだと気づいた。
しかし、本来は有り得ぬことだ――旧式イクサ・フレームの扱いに慣れた彼女にはわかった。旧式――〈アイアンⅠ〉以前の騎体は人間の挙動の完全再現には至っておらず、そしてイクサ・フレームを投げ飛ばすと言った器用な行為は不可能である。本来は。
何者なのか――カコはここに至って初めて、〈ブロンゾ〉のドライバーに興味を抱いた。
× × × × × ×
「危ねえ……」
進捗バーが一〇〇%――更新コンプリートを告げるのと、二騎のイクサ・フレームが間合に踏み込んできたのはほぼ同時だった。サスガ・ナガレはこの状況で出来る最善の行動を取った。即ち、柔術のアーツ〈ダブル・エア・ナゲ〉によって二騎を同時に投げ飛ばしたのである。
ここまで綺麗に決まるとはナガレも思っていなかった。敵がかなりの高速で、しかもこちらが無手と見て不用意に踏み込んできたからこそ、美事な投げ技を決めることが出来た。
そしてコチョウのアップデートプログラムのお陰だ。これで〈ブロンゾ〉は〈アイアンⅠ〉に匹敵する運動性能を得た。それは文字通り雲泥の差だ。今の〈ブロンゾ〉なら〈ミカヅキ・ターン〉すら華麗に決めてくれるだろう。
これで機先を制することが出来たのであろうか――敵の群れは速度を緩めずこちらへ近づいてくる。その心理は読めない。
ナガレは地面に突き刺さったうち一本のカタナを抜き、青眼に構えて敵へ正対した。
幸い、〈ギサルム〉も〈ミスト〉も動く様子はない。しばらく眠っていてくれればいいとナガレは思う。
向かってくる敵に対して、ナガレは吠えた。
「――彌ァーッ!!」
そして、踏み込む!
――斬! 同時に両手面打ち! 間合に踏み込んでしまっていた〈リザード〉のトカゲヘッド破壊!
「彌ァーッ!」
――斬! 振り下ろした斬撃が跳ね上がる! 同じく間合内の別カラー〈ブロンゾ〉の両腕切断!
「彌ァーッ!」
――斬! 右から左へ横薙ぎにカタナを揮う! 〈ブロンゾ〉横の〈バルブリガン〉のバイザー頭部が宙を舞う!
立て続けの五騎撃破!
「フゥーッ……」
ナガレは息を吐く。イクサ・フレームを確実に仕留めるならば、電脳が搭載された頭部かドライバーが騎乗する胸部を破壊するのが最適だ。あと、得物を握るための両腕部、移動のために不可欠な脚部もだ。何だ、弱点が多いな!
こんなもので真造騎イクサ・フレームと闘わされるのが日常だった足軽ドライバーが哀れで仕方なかった。それ以上に、子供たちも。
本来は統制を徹底した上で、同じような性能の量産騎と打ち合うのが役割だったに違いない。それがこの場では子供たちは何もわからず、イクサに駆り立てられていた。
こんなことを考えるような者は同じサムライどころか人間とも思えなかった。確実に息の根を止めなければならなかった。トカゲ男と同じく、吊るしてカラスの餌にしてやる必要があった。イノノベ・インゾー。老人虐待? ナガレからすれば児童虐待の方が罪は重い!
再度、ナガレは吼えた。怒りを戦気に変えるために。
「――彌ァーッ!!」
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