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サムライ・エイジア  作者: 七陣
第6話「ダークサイド・オブ・ユカイ・アイランド」
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10 裏街道の狂想曲

 ユカイ・アイランドの前身はトリデ・アイランドと言って、銀河戦国期の気風を引きずった城塞都市だった。陸地から遠く離れ、資源も戦略的な価値も見出されず、それが平和な世に容れられなかったサムライたちを集め、ローニンたちの砦となり、与太者(ヨタモノ)や犯罪者が最終的に流れ着くスラムの一つ、というような変遷をしていった。

 ショーグネイションとしては地理的に大した価値もなく、またのさばっている勢力が中小規模に留まることを奇貨として、かの地を必要悪として監視するだけで手を出そうとはしなかった。十年前までは。


 転機はトリデ・アイランドへお忍びで「観光」に行った、トクガ家の某御曹司がその地で忽然と姿をくらましたことによる。長らくかの悪徳の島を放置していたショーグネイションでも、トクガ宗家に連なる者が消えたとなればそうも行かなくなったのだ。ショーグネイションの威信を懸けて十数隻の強襲母艦と百騎以上のイクサ・フレームを引き連れた当時のショーグネイション直轄軍司令官ドイ・ウネメは最後通告を突きつけた。御曹司を早々に引き渡し、トリデ・アイランドの全戦力を解除せよ。さもなくばこの地は誇張なく瓦礫の山と化すであろう。繰り返す、御曹司を早々に引き渡し、トリデ・アイランドの全戦力を解除せよ。さもなくばこの地は誇張なく瓦礫の山と化すであろう!

 

 要求は突っぱねられた。

 ドイ司令は通告の通りに島一帯を瓦礫の山とすることにした。

 

 トリデ・アイランドに群居する犯罪組織やテログループは決して協調的ではなかったが、この事態では一致団結してショーグネイションに対抗した。

 抵抗は一月近く続いた。むしろ長く保った方と見るべきだろう。保有する戦力は数は多いが旧型イクサ・フレームが大半を占め、ロクな整備もされていなかったという。非サムライや未成年児童を始めとする戦力外人員を多く抱え込んでいるのも仇となったようだ。

 御曹司の行方は結局わからぬままだった。あるいはトリデ・アイランド側は本当にこの件について一切何も知らず、潔白の証明のために決死の抵抗を行なったのやも知れぬ。

 いずれにせよ死傷者一万五千名を超える「トリデ・アイランド抵抗運動」はトリデ指導者たちの戦死を以て終わった。


 残った廃墟の島をアノホシ・エンタープライズが安く買い叩き、資本を募って歓楽街を作った。

 こうやってトリデ・アイランドはユカイ・アイランドとして生まれ変わったのである。


 いや、本当にそうなのだろうか。


 日に日に繁栄する西側に対して、その汚物を吹き溜まりめいて集める東街区――通称裏街道。住民は抵抗運動の生き残りも多く、他に生き場所もなくそこに住まうしかなかった人々だ。彼らと、彼らをそこに寄せ集め、ずっと抱え続ける構造、それこそがトリデ・アイランドの亡霊と言えないであろうか――。

 

 × × × ×

 

「危ねえところだった……」

 

 サスガ・ナガレは辛くも危地を逃れ、イクサ・フレーム〈ブロンゾ〉を奪って地上へ通じるエレヴェータを使って脱出した。

  

(わかっているな、サスガ・ナガレ=サン? オットット! 貴様の経歴はわかっているぞ! 神出鬼没の黒鋼のイクサ・フレームとそのドライバー! 貴様は今のヤマトに於いて出来立てのオニギリめいて最もホットな存在だ! わかっているのかサスガ・ナガレ=サン!)


 偉そうにそうまくし立ててきたトカゲめいた顔の男の顔がちらつく。確かジキセン城で見た顔だ。ならば殺す他ないが、即座に行動に移れそうにないのがもどかしかった。そもそもタナカの誘いにうかうかと乗った己が迂闊だったのだ……


 しかし、後悔など死んでからすればいい。エレヴェータで移動中にも、ナガレにはやっておくべきことがあった。

 

「――ヴエーッ!」

 

 ナガレはヒューマンポンプ芸めいて胃の中からそれを出した。耐水パックに包まれたメモリチップである。〈ブロンゾ〉用アップデートプログラム。捕まりそうになった際に飲み込んでいたのだった。


 幸い、この〈ブロンゾ〉でも接続端子は生きていた。手早く接続すると、アップデートが始まった証として進捗パーセンテージと共にデフォルメニンジャキャラが手裏剣(シュリケン)を投じて的当てするアニメーションがスクリーンの片隅で流れ始めた。

 

 やがてエレヴェータが地上へ到着した。自動ドアが開き、晩秋の鋭い日光がスクリーン越しに飛び込んでくる。

 半ば廃墟と化したビルディング。荒れ果てた道路。「花子&太郎」のネオン看板は固定具から崩落して久しく、LED電球のおよそ全てが割れ砕けている。イクサ・フレームを見てみすぼらしい格好の子供が近寄ってきたが、母親らしき女が慌ててその子を抱きかかえ走り去っていった。その他露天商やヤクザ、チンピラ、ポンビキ、ヨタカ・ガールが蜘蛛の子を散らすように逃げ出してゆく。


 ナガレは裏街道の住民がイクサ・フレームへ抱く感情を垣間見た気がした。

 いや、裏街道だけではない。恐らくはヤマトの闘えぬ全ての民が、潜在的にもしくは顕在的にイクサ・フレームを恐れている。頭ではわかっていても、実際に目の当たりにしなければ実感にしにくい感情だった。サムライがサムライである限り。

 

 何となく居心地の悪さを感じながら、ナガレはスクリーンに映る周囲を見渡した。

〈ブロンゾ〉のコクピットに通信が入った。

 

『無事脱出できたようだな、サスガ・ナガレ=サン』


 トカゲ顔の男の声だった。

 

『貴様の経歴は調べてあると言ったはずだぞ。少年時代、ミナクサ市でデュエリストをやっていたこともだ』

「こっちもアンタのことは知ってるぞ。ドマ・マサキヨ=サンだな」

『ほう、知っていたか』


 反応が返ってきた。通信機能は死んではいなかったらしい。


「ドマ=サン、列車襲撃事件に関わっていたな」

『それが?』

「ならばアンタを殺す。そうだ、マクラギ・ダイキューにも伝えておいてくれないか。アンタらを殺すってさ」

『ハッ! 三重の意味で無理だよ。一つ、俺は貴様の手の届かない場所にいる。二つ、俺は〈ローニン・ストーマーズ〉専属って訳じゃない。そして三つ、面白い趣向を思いついた』


 ぞろぞろと出現するイクサ・フレーム群――目に見える全ては〈ブロンゾ〉、〈ギサルム〉等の旧式だ。

 あまりの悪趣味にナガレは吐き気を催した。

 

『貴様の脱出チャンスでもあるがな。――イクサ・フレーム全てを倒して見せろ。子供の頃貴様がやったようにな!』


 やれやれ――ナガレは決意を新たにした。

 どうやらこのトカゲ男だけは確実に殺さなければならないようだ。

次回、バトル

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