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サムライ・エイジア  作者: 七陣
第4話「ドゥー・ドルフィンズ・ドリーム・オブ・エレクトロニック・パイレーツ?」
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7 機械にしてカラテ

 やがて階段が近づいてきた。一息で駆け登る。暗視視界越しにも明るい視界と清涼な空気を求めて、一目散に外へ出た。中庭だ。雲ひとつない満月の、夜空。秋の星座として有名なマサカドゥス座の心臓たる赤色矮星(コル・マサカドゥス)がよく目立つ。悲劇の猛将は死後もこうやって天下を睨んでいるのだ。

 

『入り口から余り動くな。まだゴーグルは外すなよ』


 コチョウからの警告が来る。

 暗視機能だけを解除して、ナガレは周囲を見た。階段より百メートルほど向こう側には湖から水を引いているらしい池があった。池の水は明らかに汚れており、イルカが棲んでいる気配はない。昼間で見れば濁った緑なのだろうなとナガレは半ば確信的に思う。広さはかなりありそうだ。そう、深さ次第ではイクサ・フレームを隠すことが出来そうな……

 

 突如として月光が(かげ)った。――破壊(KRAAAASH)!! 濛々たる土煙、巻き起こる突風、揺れる地面――ナガレの前方にそれが落ちたのだ……イクサ・フレーム用特殊セトモノ・セラミック製投下ポッド!

 

「やっぱりかよ!」

 

 地面の揺れが静まるより早くナガレは駆け出した。

 土煙の奥に視える騎影は、言うまでもなくイクサ・フレーム〈グランドエイジア〉である。

 

 グランドエイジアは入り口側を向くように拝跪した。直立のままポッドに収まっていたイクサ・フレームは、認証済みのドライバーを確認するとポッドの破壊と共に自動的に待機姿勢に移行するのだ。地表近くに蓮華座(レンゲザ)めいて上向いた掌部にナガレが立つと胸部コクピットハッチが開き、ドライバーに対するコクピットへの自動誘導が働く。その挙動ももどかしく、ナガレはシートに滑り降りた。ハッチが閉鎖し、全天スクリーンが周囲を投影する。

 

 コクピットの中でようやくナガレはマスクと頭巾をゴーグルごとむしり外した。

 建物自体はイクサ・フレームに乗ってみればそれほど大きいものではないが、建物越しに示されたミルメコレオのマーキングはナガレの眉根をひそめさせるのに十分な数だった。

 

「これはちょっと無理じゃねえの……?」

『コアシステムのみを破壊すればいい。コアシステムは――』

 

 ナガレは三次元ジャイロ羅針盤を注視した――六時方向、即ち池の中!

 咄嗟にグランドエイジアを背後に振り向かす。

 同時に池に水柱が立ち、巨大な影がグランドエイジアにのしかかってきた。敵の一撃がグランドエイジアの肩部装甲にぶち当たり、グランドエイジアの後ろ回し蹴りも敵の胴部に突き刺さっている。――(ガン)ッ!! 仰け反る二者。


「グゥーッ!」


 衝撃に呻くナガレ。電脳が肩部装甲への無視出来ぬダメージをサブモニタに表示する。

 そして夜間でも明瞭な敵の姿をスクリーンに映し出す。イクサ・フレーム大の機械の蟻――ディティールは小型のものとは異なるが、明らかに〈ミルメコレオ〉だ! 巨大機械蟻は後ろの四脚で立ちつつ、前肢部で威嚇するように突き出し、頭部の触覚を(うごめ)かした。機銃!

 

(イヤ)ァーッ!!」

 

 ナガレは至近距離でガントレットによる裏拳を見舞った。――(ガン)ッ! 頭部が大きく仰け反り、機銃が千切れる。

 それでも距離は離れない。ミルメコレオの前肢部は電磁ハンマー、これによる乾坤一擲(ケンコン・ワン)狙いか。グランドエイジアの左腰部には鞘に納められたカタナがあるが、距離が近いので抜くことが難しい。

 

『モードチェンジだ、ナガレ=サン!』


 ナガレは騎体にカラテ・スタンスを構えさせた。


「『ただ徒手白兵戦(カラテ)あるのみ!」』


 ガントレットが拳を覆うようにスライドする。――グランドエイジア、徒手白兵戦(カラテ)モード!


(イヤ)(イヤ)(イヤ)ァーッ!」


 踏み込み、右拳、左拳、右拳を見舞う! ミルメコレオの装甲がたちまちにボコボコになる!


『いくら図体がデカくなったとて、多脚戦車如きがイクサ・フレームに勝てると思うてか!』

「それ俺の台詞(セリフ)じゃねえの!?」


 コチョウの啖呵(タンカ)にナガレは冷静に応じる。敵を殴る手はやめない。

 

 ガントレットはその仕様上、イクサ・フレームの装甲の中ではコクピット部と並んで分厚く設定されている。イクサ・フレーム戦では無論素手によるイクサなど滅多に起こるものではないが、いつ如何なる状況にでも対応出来るのがサムライであり、イクサ・フレームだ。ナガレやグランドエイジアも例外ではない。


(イヤ)ァーッ!」


 右ショートアッパーカットでミルメコレオの巨躯が浮く。しかして振り下ろされるグランドエイジアの左ハンマーフック。――(ガン)! 叩きつけられる巨大機械蟻。衝撃の余り陥没する地面!

 

『ナガレ=サン、介錯(カイシャク)をくれてやれ!』

「――イィ(イヤ)ァーーッ!!」


 コチョウに言われるまでもない。グランドエイジアが高々と右脚を上げ――鉄槌めいて踵を落とす! 

 

 破壊(KRASH)!! 胴部と腹部がその威力の前にまとめてスクラップと化した。ミルメコレオは、そのまま爆発四散した。グランドエイジアは爆発から逃れるように移動している。


 恐らく敵の最後のチャンスは、背後からの電磁ハンマーによる不意討(アンブッシュ)だけであっただろう。それによってこの大型ミルメコレオはグランドエイジアの装甲に決して小さからぬ損傷を与えることが出来た。しかしそれが失敗した以上、敗北は必然以外の何物でもない。


 これがイクサ・フレームとそれ以外の兵器の差である。

次でエピローグですかネー

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