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サムライ・エイジア  作者: 七陣
第4話「ドゥー・ドルフィンズ・ドリーム・オブ・エレクトロニック・パイレーツ?」
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6 爆破・銃撃・木刀

我ながら思う。手榴弾が万能兵器過ぎる。でもいいよね。未来だし。

 機銃を撃たれる前に先手を打つ。ナガレは手榴弾を放った。今度は二個。

 ――KRATOOOOM!! 爆音が室内に巻き起こる! ナガレは労働者たちとともに残った遮蔽物に身を隠し、爆風や破片を避けた。

 確認すると、ミルメコレオがまとめてグシャグシャの金属塊の山となっていた。

 いや、動く影がある。一体は文字通りの虫の息だが――もう一体は無傷! 他の車体が盾になったのだ。

 

 ガン! ナガレはもう盾としても役立ちそうにない冷蔵庫を蹴飛ばす。冷蔵庫は車輪でミルメコレオの元に床を滑ってゆく。――BRATATATATA! 機銃が冷蔵庫を迎え撃つ。冷蔵庫が完全なるスクラップと化す。

 ナガレは装甲靴で倒れたテーブルやその残骸を踏み越えて接近する。その挙動は、サムライ動体視力のないものには一陣の黒い風としか見えなかっただろう。

 

(イヤ)ァーッ!」


 ――(ガン)! シャウト一つ、加速の乗った電磁木刀が真っ向から蟻めいた頭部へ叩き込まれる! ――ガン! 木刀の切先は頭部を破砕した後翻り、胴部を粉砕。――ガン! 更には刺突を繰り出し腹部も爆砕めいて吹き飛ばした。ヤギュウ・スタイルのサムライ・アーツ〈コガラシ・ストローク〉である。

 

「凄まじい……」


 誰かが呟いた。自分たちが一方的に殺されかねぬ存在を、こうも完膚なきまでに破壊出来る者があるとは――何たる凄まじきサムライの(アーツ)か!

 

 残心(ザンシン)しつつナガレは思った――今度からは潜入には自動小銃を持ってこよう、と。

 部屋中は金属片と肉片がぶち撒けられ、惨憺たる有様だった。何人かが破片で怪我をしたようだったが、命に別状はないようだ。

 

「蟻はこれで全部かな?」

「わからん」

 

 ナガレの問いに老人が応える。更に数がいる可能性があるならばグズグズしている暇はない。金属扉がふっ飛ばされた入り口はスクラップの山で通れそうにない。履いているものはナガレ以外全員ゴム長靴、鋭い破片でも踏めばすぐ貫通してしまう。


 今まで気絶していたヤクザが眼を覚ました。労働者の視線が一斉に向いた。

 老人が言った。

 

「お前さんの仲間(オトモダチ)はミルメコレオにやられたぞ。生き延びたければ我らに従え。よいな」


 頭のない屍体を見せられると、ヤクザは声もなくしめやかに失禁した。彼は聞き分けよく何度も頷いた。

 幸い、出入り口はもう一つあった。丁字に分かれており、「衛生重点」「消毒重点」「注意一秒怪我一生」などの警句や特売チラシ、社内報などが壁に貼られている。

 右を通れば社員通用口に出るということなので、労働者にはそちらへ行ってもらう。ヤクザ屍体は置いていくことになった。後で取りに来ることになるだろう。

 一方、左は地下道へ戻るルートだ。

 

「若いの、お前さんはどうするつもりじゃ?」

「まだやることがあるんで。半日経ったら軍警察に連絡をして欲しい」


 証拠として千切れたミルメコレオの機銃部分を渡す。

 

「ムエルタ=サン、アキジ=サンにヨロシク・オネガイシマス」

「ああ。君もガンバッテネ!」


 労働者たちがナガレに激励の言葉「ガンバッテネ」を送る。

 見送った後、通信テープにノイズが走る。

 

『……レ=サン、ナガレ=サン、聴こえるか?』

「聴こえるよ。どうしたんだ?」

『ジャミングをかけられたようだ。今は企業アカウントの奪い合い状態だよ――で、そっちの具合はどうだ?』

「ミルメコレオって多脚戦車に襲われたが、被害なく労働者は救出出来た」

『ミルメコレオ!? ……いや、無事で何よりだ』

「知ってたのか?」

『後で話す……しかし不味いな、見通しが甘かった。〈レヴェラー〉のファイアウォールを突破出来なんだ時点で気づくべきだったが……まだまだわたしも精進が足らぬわな』


 どうやらミルメコレオの登場は予期せぬものだったらしい。この電子海賊も全知ではないのだ、とナガレは当たり前のことに気づき、変な感心をした。

 だが悠長にしている暇はない。ナガレは加工所を出て丁字路を左へ進んだ。歩きながらマスクとゴーグルを装備し直し、会話を続ける。


『ミッションの続行は可能か?』

「数次第だな……装甲の程度はPJ-1600(ハンドガン)だと止められるけど電磁木刀でなら破壊出来るって程度だ。動力源か電脳(メインCPU)を潰せば動きは停まるはずだけど」

『不利なら、撤退を推奨するが?』


 ナガレは見えないのを承知で首を振った。


「いや、建物の内部で終わらせたい。ミルメコレオが街に溢れる可能性がある」


 ミルメコレオの完成度には詰めの甘さが多々見られるが、それでも民間人には相当な脅威に違いない。こんなものを解放されれば、間違いなく死傷者が多数出る。


『……そうか。なら中庭まで出てくれ。それでカタをつける』


 中央通路と交点で、ミルメコレオが近づいてきていた。やはり複数。ナガレはようやく、ミルメコレオの恐ろしい静粛性に気づく。車輪移動時に音が殆ど聴こえないのだ。装甲を強化すれば、無人対人兵器として恐るべきものになりうる。いや、ナガレにとっては現在進行形の脅威そのものだ。

 それはサムライの理念とは完全に反している。だからイクサ・フレームが生まれた、というのに。


 ナガレは銃を二発撃ち、走った。当然弾かれる。

 脅威判定完了したミルメコレオがナガレへ向かってきた。常人(カタギ)ならばその速度に到底敵うまい。だがサスガ・ナガレはサムライだ。距離は容易に縮まらない。


 後ろも見ずに手榴弾を転がす。KRANKRANK――KRATOOOOM! 爆風がナガレの背を炙る。


 吹っ飛んだ車輌を物ともせず、灰色の蟻は突っ込んでくる。機械の蟻たちには犠牲を厭うプログラムなど組み込まれてはいない。最後の一匹に成り果てようが目標を達成すること、それだけが彼らに課せられた存在意義だった。


 BRATATATATATATAT! BRATATATATATATATAT! 先頭車両が機銃をぶっ放す。ナガレは冷や汗をかく。今の手榴弾は爆発の際金属粒子と電磁波を撒き散らすジャミンググレネードだ。多少ロック精度が甘くなっているのだろう。

 

 だがミルメコレオはロックの甘さなど物ともせず撃ちまくるようになった。学習しているというのか?BRATATATATATATAT! BRATATATATATATATAT! BRATATATATATATAT!


 ナガレはまた手榴弾を放る、二個。KRANKRANK――KRATOOOOM! ――BRATATATATATATATAT! BRATATATATATATAT! 弾幕は止まぬ! ナガレは走る!


 曲がり角が見えた。ナガレは置き土産に爆弾を残り全部転がし、正面に現れた壁を蹴る。――バン! 装甲靴の足跡が刻まれ、そのまま壁を垂直にしばらく疾走した。そして限界まで加速疾走。

 

 ミルメコレオは曲がり角でブレーキ減速をし、方向転換を試みた直後――KRA-TTOOOOOOOOOOOM!!!!


「――うおおぉォッ!?」


 ナガレがようやく壁から床へ足底を着けた時、前につんのめりそうになるほどの爆風が炸裂した。しかしそれは追い風、ギリギリで体勢を立て直しながらナガレは更に走った。

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