2 チーム・フェレット
彼らチーム・フェレットは元々がスクールカースト最下層の技術士が群れて生まれたファクトリーである。歴史は古く、ヤギュウ・ハイスクール設立より間もない頃には存在していた。継承されてきた技術の蓄積は決して軽いものではない。だがその重要度に比べて扱いは軽く、トーナメントの都度にあらゆるドライバーに技術を提供しては体よく放り出されるのが常だった。
それが、一年前にサスガ・ナガレというドライバーを得てから事情が変わった。
両親はなく、有力な師匠による後ろ盾もなく、また反骨精神の塊のようなこの生徒は、入学初日から旗本や大名の子弟を核に構成されるジョックスどもをいけすかない塵芥と断じた。のみならず、チーム・フェレットに所属して初参戦初優勝の武勲を掲げることを公言したのである。命知らずの宣戦布告であった。
これにはスクール中が震撼した。
「やめとけやめとけ!」
同級生たちが慄きながら忠告してきた。
「ナガレ=サン、お前が挑発したミズタ=サンは有力旗本の生まれだし、ジュニア・ハイの全国ベスト8だ。勝てっこない」
忠告をナガレは歯牙にもかけなかった。
「だから何だ? ミズタ=サンより強い奴が七人もいたっていうことじゃないのか」
無茶苦茶な算数! これには同級生たちも更に震撼した。
ナガレの放言は当然当人の耳に入った。ミズタ・ヒタニはかのどこの馬骨とも知れぬ無礼な若造を必ずや無様に許しを請わせた上で打ち倒し、ハイスクールにいられなくしてやると息巻いた。
ミズタの剣幕をチームメイトのコージローが報告した時、ナガレは寮の自室で新発売食玩イクサ・フレーム・プラモデルを筆塗装していた。
「スプレーを持ち込めないのがアレだな」
……ここに至っては最早進退極まれリ。チーム・フェレットは覚悟と、トーナメントの正式初参戦を決めた。その際にはジョックスたちが有形無形の嫌がらせを仕掛けてきたが、スタッフは一致団結してこれらを退け、あるいは無視し、あるいは叩き潰してきた。
飛ぶように1年が過ぎ、トーナメントが始まった。
ミズタとの戦いは奇遇にも一回戦。開始5秒、鮮やかな面打が決まる。判定は全て一本。静まり返る観客。チームメイトも例外ではない。
ナガレの勝利宣言をブザーが告げる。
3秒後、溢れたのは怒号にも似た喚声だ。まさに大番狂。誰もがサスガ・ナガレを過小評価していたのである。
コクピットから降りたミズタは悔しさより驚愕を表情に貼り付けていた。
「負けた? 俺が? 何故?」
ミズタは祝勝会となるはずだった場で何度もそう繰り返したという。
一方でナガレは拍子抜けした感じだった。
「牽制のつもりだったんだけどな…」
ぎょっとしたチームメイトの顔を見比べ、ナガレは大笑した。「まあいいや! 次行こう次!」
ナガレ自身は考えてさえいなかったが、この金星(このように認識していなかったのはナガレだけである)はジョックスたちに少なからぬ動揺を与えた。ミズタ・ヒタニは優勝候補の五本指くらいにはノミネートされる実力者である。それが赤子の手を捻るが如くやられるとは…彼らはチーム・フェレットに対する警戒を強めた。