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サムライ・エイジア  作者: 七陣
第2話「オーヴァーキャスト・トレイン」
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7 猟犬と狼と

……ジャマブクセスとは、ブディズムとも異なる特異な宗教の信徒である。彼らは同じ小舟に宗徒たちと共に乗れるだけ乗り、諸共に水没することで信仰心を証明する奇習を持っていたという。


××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××


 やがてサンドブラウンの装甲が目に入る。〈ジャマブクセス〉。装備はタネガシマ・マシンガンとロングカタナ。レーダーが8騎を捕捉している。

 

 ジャマブクセスの独特なY字の脚底ゲタは接地圧の調整が容易だ。騎体震動は従来騎種より抑制され静粛性も高い。非正規戦闘に適正ウッテツケの騎体。

 

 出力、堅牢性、機動力、そして電脳による演算。イクサ・フレーム戦に於いては、銃火器は対人戦に於ける優位性を大きく剥奪された。

 計算し尽くされたブロック構造のため、点による損傷では致命的なエラーは発生しにくい。そして銃撃は点から線の攻撃だが、剣撃は線から面の攻撃となる。

 搭載された電脳は、探知範囲内であるならばほぼ全ての弾丸軌道を演算・予測し、その機動性と装甲で回避・防御出来る。

 出力、堅牢性、機動力、そして電脳による演算。イクサ・フレーム戦に於いては、銃火器は対人戦に於ける優位性を大きく剥奪されてしまっていた。

 それでもイクサ・フレームの通常兵装には銃器が確実に含まれている。それ以外のあらゆる脅威に対応するためと、イクサ・フレームでも当たりどころ次第では撃破出来るためだ。

 

 ――汰汰汰汰汰汰汰汰タタタタタタタタッ!! カコ騎とナガレ騎がアサルトタネガシマの引金を引いた。弾幕を張るのが目的である。警戒して、敵は接近しない。

  ナガレのラスティ・ネイルはゆっくり前進しつつ、アサルトタネガシマを撃ち続ける。カコのエイマスはそのまま留まりフォローを続ける。

  

 ――打打打打打ダダダダダッ! ジャマブクセスが散開、応射。そのマシンガンはナガレらの〈ろ-222〉とは銃の形状も、口径も、発射音も全く違う。例えるならば猟犬と、野生のままの狼ほどの差異があった。それはそのままドライバーの差異でもある。

 

 ……だが、その程度の理由では退けぬ!

 

 ナガレは十分な距離だと判断すると、一気に騎体を加速させた。

 

 ――ジュッ! 伸長するオレンジ色のビーム刀身。更に裏技で出力を強引に上げるプログラムを流す。――ブゥン、特有の発振音と共に、殺意が凝固したような赤になった。ソーキから教わった裏技である。

 

 ――ブゥン! 横薙ぎのビームカタナが突出していたジャマブクセスを襲う。紙一重で躱そうと身を捩る敵騎。しかし通常より長くなっていたビーム刃の切先キッサキがマシンガンに触れ、溶断した。

 

「――セイッ!」


 ナガレは赤い光刃にて真っ向から拝み撃つ。だが敵もさる者、マシンガンを捨てロングカタナ両手持ちで斬撃を受ける。

 せめてもう一歩――更に押し込もうとした刹那セツナ、ナガレのニューロンを警戒の気配が掠めた。


 ラスティ・アイアンの左側からもう一本のカタナが突き込まれる。辛うじて回避したナガレは膠着デッドロックを避けるためバックステップしつつ、ビームカタナを払うことで追撃を防いだ。

 

「……チィーッ!」

『ナガレ=サン! 援護します!』


 カコのエイマスがアサルトタネガシマを二騎のジャマブクセスに向ける。応援に来た方の騎体ジャマブクセスがマシンガンで応射する。

 

『この……ヤマトドブゴキブリどもめがッ!』


 ――汰汰汰汰汰汰汰汰汰汰タタタタタタタタタタッ!! 更に横手よりアサルトタネガシマの弾丸がジャマブクセスらを殴りつける。ハンギバ教官騎、アイアンⅡだ。二挺タネガシマによる吶喊とっかん。もう一騎のエイマスも点射で援護しながらやや遅れて追従する。

 

『教官殿……!?』

 

 カコが唖然とする間にも、アイアンⅡがカコ騎を、そしてナガレ騎を置いて抜き去り、ジャマブクセスへ肉迫する。二挺のアサルトタネガシマが投げ捨てられ、左右それぞれの肩部装甲にマウントした二本のロングカタナが抜刀され、余勢を駆ったままふるわれた。


『――征彌セイヤァーーッ!!』


 アイアンⅡの左剣はジャマブクセスのカウンター斬撃を受け止め、右剣はその頸部を狙う。関節部は装甲に覆われておらず、頭部は電脳を内蔵している。人体と同じく致命的部位だ。

 ジャマブクセスの頭部が刎ね飛ばされ、山なりの弧を描いて褐色の土に落ちる。

 ハンギバ教官の再攻撃は迅速だった。首を失った騎体が力を失って両膝を突くより早く、アイアンⅡの左剣がもう一騎のコクピットへ向けて突き出される。ジャマブクセスが身を反らす。……ギャリィッ! 凄まじい金属音と共にカタナの切先が胸部装甲を深く傷つけた。しかし貫通にまでは至っていない。

 

 ジャマブクセスの銃口が向けられる。しかし右のカタナは右肘関節部を捉え、切断する。

 タネガシマごと右腕を落とされたジャマブクセスは無理をしなかった。返すカタナをバックステップ回避し、ついでに僚騎を引きずって退く。

 

 二騎が退き、高台から残った七騎が姿を現す。様子見に徹していたのだろう。


「……七!?」


 ナガレは気付いた。確認済みのジャマブクセスの数は八騎。二騎退き、新たに出てくるとすれば六騎のはず。勘定が合わない。

 騎影を確認すると、中央に立つ騎体だけ明らかにジャマブクセスとはシルエットが異なっている。アイアン・シリーズによく似た、しかし明らかに異なるシルエットの騎体。左手にタネガシマ、右手に抜身のロングカタナを引っ提げた、メタルグレーのイクサ・フレーム……!

 

 中央騎が発した通信用レーザー光が周囲を薙ぎ払い、イクサ・ドライバーの言葉を伝えた。

 

『――楽しそうだな、俺も混ぜてくれよ』


 肉食獣が声を発することが出来たならばこのような声であっただろう。

 その騎体は言い捨てざま、やはり獣のように高台を下ってきた。――はやい!

 ナガレ騎が右、ハンギバ騎が左でそれぞれの得物を構えた。研修生二人は反応し切れていない。

 

 ――蛮・蛮(BRAM-BRAM)!! 銃声が大気を穿つ音。

 擱坐するエイマス二騎。ナガレは三次元ジャイロ羅針盤の自軍表示アイコンのうちエイマス二騎が「生存」から「戦闘不能」に遷移したのを確認した。灰色の敵騎の単発式タネガシマライフルが頭部電脳を撃ち砕いたのだ。何たる精密射撃か!


 ナガレにも、ハンギバ教官にも後方のカコ達エイマス二騎の様子を気遣う余裕はない。ザムザムザム……ドドドドド……ガウガウガウ……獣の咆哮の如き戦闘輻輳音イクサ・コーラスを響かせながら、灰色の騎体が肉迫してくるからだ。そして、イクサ・フレームの戦闘推移は極めて迅速である。

 

 正面へ来た。ナガレのラスティ・ネイルはビームカタナを突き込む――が、手応えなし。

 敵の狙いはラスティ・ネイルではなくアイアンⅡだった。タネガシマライフルを腰部にマウントし、移動時の踏み込みの加算しての片手斬りがハンギバ騎を襲った。ハンギバ騎は敵騎の位置へカタナを薙ぎ払う。――ギン! カタナが交錯する。火花が散る。

 と、灰色の騎体が灰色の風となった。そうとしか思えぬ機動だった。

 鉄風がアイアンⅡの両腕部をかすめ、斬断した。敵騎はアイアンⅡと背中合わせに立っていた。いつの間にかに。

 そして、振り向きざまに斬撃が放たれた――斬!! アイアンⅡは胸部から斬断されていた。コクピットのドライバーごと。

 上半身と下半身が滑らかな切断面に沿ってずれ落ちてゆく。

 ナガレには、その様子を見ていることしか出来ない。


 ……PPPP! ようやくラスティ・ネイルの電脳がライブラリ結果をはじき出す。その検索結果に、ナガレは絶句した。

 アイアン・シリーズと同じナガソネ工房製、外観こそ似ているが、その風格アトモスフィアは遥かに獰猛にして高貴。さもあろう、これこそ少数製造されたのみの〈アイアンⅠ〉原型騎オリジンにして天才イクサ・フレーム鍛冶マイスターナガソネ・オキジが精魂込めた一世一代の真造騎シンウチ


 ナガレどころかヤマトの男子ならば五歳児でも知るその名は〈スティールタイガー〉。伝説のイクサ・フレームの一騎である。


××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××

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