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サムライ・エイジア  作者: 七陣
第11話「マシニング・ラクシャス」
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7 電磁居合、唸る

 テンリューは、刀身がすっかりボロボロになったカタナの切先を下に向け、床に突き刺した。床のバイオ樫は頑丈だが、それでも切先は容易く埋まった。

 

 奇妙な間が生まれた。全長二十メートルの〈シロガネ〉と五十メートルの〈バルトアンデルス〉が睨み合う。


 そして。 

 

『ウウオオオオオオーーーッ!!』


 ミズタが激し、獣の姿勢から猪突した。

 

(イヤ)ァーーーッ!」


 テンリューは踏み込みながらカタナを跳ね上げた。

 

 二騎が交錯する。立ち位置が入れ替わる。

 

 同時に〈シロガネ〉のカタナが折れ飛んで、刀身が天井の(はり)に食い込み。

 〈バルトアンデルス〉の右腕部が、鏡めいた断面を晒して切断されていた。


『何ッ!?』


 ミズタの驚愕の呻き。


「ネン・スタイル〈ハハキ・ザン〉――」


 テンリューが繰り出した技の名を唱える。圧力を威力に変え、その反撥力でより高速でカタナを揮うその技はむしろ極意(ゴクイ)に近い。

 ネン・スタイルはシントー・スタイルの源流である。師父(センセイ)カジウラ・バクデンはヤマトに冠たる剣聖の一人、それらの技を免許皆伝(マスターライセンス)のテンリューが使えるのは自然だろう。


 余勢を駆って壁を蹴って、〈シロガネ〉がターンする。折れたカタナはとうに捨て、ワキザシの替わりに腰に差していた予備のロングカタナを抜いていた。予備のカタナとしてはこれが最後だ。

 

 後は、腰の「本命」が一本残るのみ。大振りな、試作型のギミック鞘に納まった一本が。

 

 襲い来る〈シロガネ〉に対し、〈バルトアンデルス〉が右脚を軸に高速ピボットターン。〈シロガネ〉のカタナと〈バルトアンデルス〉の左腕部クローがぶつかり合う。

 

『その大振りの鞘のカタナ、何故抜かん!』

 

 ミズタはどうやら抜いていないカタナの重要性に気づいたようだった。テンリューは一切意に介さなかった。

 

「抜く必要がないからな!」

『洒落臭し!』


 右脚の蹴りによる追撃。ヒートマサカリはそのまま。テンリューはバックステップで距離を置く。

 

 攻撃的ターンを決め、〈シロガネ〉が再度肉薄する。〈バルトアンデルス〉のクローが来る。それをすれすれで躱しながら、脚の間をスライディングめいた低姿勢で潜り抜ける。

 

 すぐ〈バルトアンデルス〉の背面が見えた。当然背面の装甲は前面よりずっと薄い。スラスターの並ぶそこ目掛けてカタナの切先を走らせる前に、巨体が旋回しハンマーめいた低空左後ろ回し蹴りが来る。〈シロガネ〉はまた脚の間を潜り抜けつつ、カタナで軸となっている右脚を斬りつけてゆく。硬い。以前と感触は変わらない。装甲材が削られていたり変わっている、ということはないようだ。

 

『このッ! 小賢しい!』


 〈バルトアンデルス〉の左腕機銃が火を吹く。無理はせず、テンリューは〈シロガネ〉を退かせた。


 機銃は止まない。巨体は横に動きながら、弾幕をひたすら展開し続けている。テンリューは騎体をスラローム走行させつつ、タネガシマの牽制射を織り交ぜ、敵の様子を見た。


 十数度に渡る同時箇所への執拗な斬撃、これによって〈バルトアンデルス〉の脚部装甲は破った。しかし当然ミズタも実際に警戒しているようで、装甲に依存せず移動を心がけた戦闘をしている。これはこれでやりにくくなったと言えるだろう。

 出方を伺って〈ハハキ・ザン〉で右腕部を斬り落としたのはいいものの、二度は使えそうにない手であった。

 

 テンリューはサイドスクリーン側に表示されたインジケータを見やった。正円の数値盤と数本の針によって形作られたアナログ風デジタルインジケータである。その針の小刻みな回転は数値の緩慢な、しかし確実な上昇を意味していた。

 

 ここは牽制でいい。時間を稼げればいいのだ。

 

『今度はこっちから行くぞ、タツタ・テンリュー=サン!』

 

 壁際に寄っていた〈バルトアンデルス〉からのレーザー通信。バイオ樫製の壁がスライドし、無数のケーブルが這い回る機械仕掛けの内部構造が露出する。


 いつの間にかにトカゲの尻尾めいて切り離していた右腕部のコネクタを、壁の機械へ突っ込んだ。

 

 テンリューのニューロンに於いて、警告のパルスが走り抜けた。


『死に晒せッ、偽〈グランドエイジア〉ッ!!』


 〈バルトアンデルス〉が右腕を前方へ突き出す。

 接続されているものをテンリューは一目で看破した。対艦対要塞破砕砲、通称アームストロングランチャー。惑星ヤマト最強のイクサ・フレーム兵装。


(GO)ッ!!』


 砲口から膨大な荷電粒子ビームが発射される。イクサ・フレームを丸ごと飲み込む、殆ど柱めいた太さのビームだった。

 この威力の前には熱や打撃に強いバイオ樫材の構造材も無力に等しい。ビームが触れた箇所は速やかに原子の塵と化し、輻射熱によって周囲が燃え上がる。

 

 数秒後、ビームの太さが柱からウドン、ウドンから糸のようになり、消失した。


 周囲は炎に包まれていたが、スプリンクラーが速やかに鎮火を行なう。人工の雨が寺院の内部に降り注いだ。

 

『何故』


 雨と霧が立ち込めるその中、ミズタはそれを睨めつけた。油断なく砲を構えたまま。


『何故、貴様が生きているんだ、テンリュー=サン……!?』

 

 〈バルトアンデルス〉と睨み合う〈シロガネ〉。そのコクピットの中で、テンリューはニヤリと笑みを刻みながら言った。


「俺も〈シロガネ〉も、偽物ではないからさ」

『……ッ!』


 声なき憤激の気配が〈バルトアンデルス〉から伝わった。


「偽物――それがお前の本当の傷らしいな、ミズタ=サン?」


 インジケータが急上昇している。予想外の事態だ。仕方ない。テンリューは左手を腰に残ったカタナの鞘にかけた。


「惚れていた女にでもそう言われたか? それでもお前の親父殿からか?」

『黙れ……ッ!』

 

 巨大騎がにじり寄る。


「そんなことにいつまでもこだわっているから――貴様はいつまでも三流なんだよ」


 テンリューは右手のカタナを投げた。カタナは鍔を支点に円形ノコギリめいて回転しながら、〈バルトアンデルス〉の鬼面目掛けて翔んだ。〈バルトアンデルス〉は腕を揮って弾き飛ばす。


 ミズタは猛烈な勢いで騎体を〈シロガネ〉に肉薄させた。そのカルマは、見る者が見れば吐き気を催すような色彩をしていたかも知れない。


『今度こそ死ねッ! タツタ・テンリュー=サン! 死ねェーーーーーッ!!』 


 叩きつけられるクロー。ミズタ・ヒタニの眼には、恐らく〈シロガネ〉ごとテンリューをスクラップにする場面が幻視されていたことだろう。

 

 デジタルインジケータが危険域を示すレッドゾーンに突入するのとほぼ同時に、テンリューの主観が泥めいて遅滞する。コマ送りになる視界。音。感覚。

 

 〈シロガネ〉の右手が、腰部のカタナのグリップを掴む。〈シロガネ〉がクローをステップ回避する。クローが床に突き刺さり、バイオ樫材を粉砕する。

 

 ソロリ社製試作電磁居合用カタナシース〈ガゴロク〉が鯉口(コイグチ・ロック)を切る。

 

 〈シロガネ〉の二つの脚底が床に着く。ニューロンの泥が拭われ、現実的時間感覚を取り戻す。

 

 テンリューが呟く。

 

「受けろ、ナルカミ・ブレイカー……!!」


 鞘から紫電を曳いてカタナが抜き放たれる。その速度は、最早音速を遥かに超えて光速に()いでいる。

 

 光の奔流が走った。〈バルトアンデルス〉を巻き込んだ、それは荒れ狂う雷の怒濤(どとう)であった。


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