表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サムライ・エイジア  作者: 七陣
第11話「マシニング・ラクシャス」
129/147

4 同じ教えを血肉とし

 古の預言者が祈りにて海を割るが如く、疾走するハクアの〈テンペストⅢ〉の前から〈ペルーダ〉の群れが道を開ける。開けた先には、マクラギ・ダイキューの〈スティールタイガー〉。その紅い単眼(モノアイ)が嘲笑めいて揺らめく。

 

 バカにされている。そう思いながら、ハクアは最大戦速を乗せて斬りかかっていった。

 

(イヤ)ァーッ!」

(イヤ)ァーッ!』 

 

 (カン)! イクサ・フレームのカタナとカタナがぶつかる。渾身の一撃がいなされて威力を殺され、突き放される直後、ハクアは二本の刃を絡み合わせ、鍔迫合(ツバゼリアイ)に持ち込んだ。


「ドーモ、マクラギ・ダイキュー=サン。ヤギュウ・ハクアです……!」

『ドーモ、ヤギュウ・ハクア=サン。マクラギ・ダイキューです。十年ぶりか、ハクア?』


 カタナが互いを食らい合うように、ヒロカネ・メタルの(シノギ)をギャリギャリと削り合う。火花が散る。


『復讐にでもしに来たか。そんなにパパが好きか?』

「ヤギュウの裏切り者はヤギュウのカタナにて斬ります!」


 ハクアは決断的口調で吼えた。マクラギは鼻で嗤い、カタナに力を込めた。

 

『ハ! 復讐であることは否定しないんだな!』

「マクラギ・ダイキュー=サン! 覚悟!」


 ――PPP! コクピット内、ハクアの耳を劈くほどの警告音。〈テンペストⅢ〉の八時方向から〈ローニン・ストーマーズ〉の〈ペルーダ〉が斬りかかってくる。同時に〈スティールタイガー〉からの前蹴り。突き放される〈テンペストⅢ〉。

 

「ウアーッ!」

『復讐なんぞくだらねえンだよ! お前はこいつらとでも遊んでいるがいい!』


 怒りが煮える間すらなく、敵騎の白刃が迫る。体勢を崩しながら何とか受けるも、四方を敵に囲まれていた。

 

「ク……ッ!」


 姿勢を立て直すよりも早く振り下ろされるカタナ、カタナ、カタナ。バランスを崩した独楽(コマ)めいた動きをしながら〈テンペストⅢ〉は包囲を抜けようとする。逃れられぬ。

 

 こちらを見つめている〈スティールタイガー〉の紅い眼が、若干右を向いた。その視線の先を〈テンペストⅢ〉の電脳がウィンドウモニタで拾う。

 

 〈グランドエイジア・クロガネ〉。ナガレの駆るその騎体は、ロングカタナと敵から奪ったノダチ・ブレイドの二刀流を縦横無尽に揮って敵の脚部を斬り、腕部を断ち、頭部を潰している。

「当たるを幸い」という形容があるが、その印象とは全く裏腹に、理想的なほどの効率的な動きで敵を薙ぎ倒していた。

 その一方で、一撃で行動不能に追い込まずとも気にしていないようだった。ゆっくりと着実に、一直線にハクアの〈テンペストⅢ〉の元へ近づいている。

 

(イヤ)ァーッ!」


 ハクアがカタナを真っ向から斬り下ろす。〈ペルーダ〉が左右に分かれて回避。ハクアはその斬撃をガイドにして、二騎の間隙に騎体を滑り込ませた。前転受身(ウケミ)めいた仕草で素早く移動する。膝立ちで前方の敵の脚部を薙ぐ。立ち上がる。

 

 もう一騎が前にいる。下段構え。刃がこちらを向く。

 

 斬られはしなかった。崩れ落ちる前方の騎体。その背にはカタナが生えている。

 

 前のめりに倒れた騎体の奥。〈グランドエイジア〉が折れたノダチ・ブレイドで左右の敵を相手取っている。装甲は傷だらけだが、機動面にさしたる損傷はなさそうだ。むしろ、一対二ですら優勢である。騎体性能のお陰もあるだろうが、やはりハイスクールにいた頃よりも今のナガレは確実に強い。同程度のイクサ・フレームで闘ったなら、ミズタなど殆ど相手にもなるまい。

 

 ハクアは騎体を踏み込ませた。

 

 ――(ザン)! 敵が倒れた。〈グランドエイジア〉と〈テンペストⅢ〉の眼が合う。〈グランドエイジア〉がノダチで敵を貫き、肩部装甲に帯びた予備のカタナを抜く。

 

 背中合わせに立ち、二人は共に青眼に構える。

 ナガレからの接触通信。

 

『熱くなりすぎだよ。ハクア=サンらしくもない』

「……弁解の余地もありません」


 ハクアの口調に忸怩(じくじ)たるものが混じった。全く、自分らしくもない話だ。


 敵は二騎をすっかり取り囲んでいる。円形陣だ。


『ま、そうは言っても俺がアンタの何を知ってるって話だが』

「――前の話ですが」

『ウン?』

「わたしたちは、手を結べるということです」

『言ってたな』


 包囲が徐々に狭まる。少しずつ、右に動いている。


「今、結びましょう。同じ敵、マクラギ・ダイキューを仇とする者同士」

『いいねェ。じゃ、どっちが奴の首を獲っても恨みっこなしということで』

「恨みません。ただ――この場で確実に、マクラギを仕留めます。いいですね」

『姉弟子、了解(ウケタマワリ)!』

「……返事は良いですね、弟弟子」


 ハクアは微笑する。


 背中合わせのまま、同時に騎体を疾走(はし)らせた。即ち〈テンペストⅢ〉は右、〈グランドエイジア〉は左に。二騎の疾走に巻き込まれ、前方の〈ペルーダ〉らが吹き飛んだ。追いすがる騎体はナガレとハクアのカタナが屠ってゆく。

 

 二人共、驚愕と共に納得があった。この技は本来、ヤギュウ・スタイルの〈ツイン・ダート・ウチ〉と呼ばれるコンビネーションである。だが、二人一組の厳しい修練が必要なのだ。決して即席で出来る技ではないし、無論ナガレとハクアはこの技を訓練した経験もない。

 

 それが意味するものとは? ――即ち、同じヤギュウ・ジュウベエ=ハチエモンの教えを血肉とした姉弟の弟子であるからに他なるまい!

 ナガレの闘い(イクサ)が父に似ているとハクアが感じるのは当然ならば、ハクアの剣戟(チャンバラ)師匠(センセイ)そっくりだと思うのも無理のないことであった。ナガレは長い間ハチエモンの教えを受けて来たし、ハクアは父の長い不在時にもその剣を理想として自らを鍛えてきたのだから。

 

 斬り上げ、斬り下げ、斬り伏せ、斬り払い、斬り捨てながら、二騎は〈スティールタイガー〉へ肉薄する。同じハチエモンの教えを血肉としたはずの兄弟子。そして不倶戴天の師の仇敵マクラギ・ダイキューへ、同時に放たれた二本の矢の如く真っ直ぐ疾走(はし)った。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ