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サムライ・エイジア  作者: 七陣
第11話「マシニング・ラクシャス」
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3 混戦

 数十もの鳥居(トリイ)が連なっている。金属の鳥居だ。あるいはヒロカネ・メタルで出来ているのかも知れない。ヒロカネ・メタルの鳥居。

 

 鳥居の地肌に弾痕が穿たれる。一つ、二つ、無数。

 

 銃声が弾ける。金属と金属がぶつかる。火花が散る。それらを圧倒するような戦闘輻輳音(イクサ・コーラス)が数多絡み合い、もつれ合い、空間に響き合う。 

 

 連なる鳥居の奥には石段がある。そこを上り詰めれば、旧都式ジンジャ建築様式の寺院がある。そこにヴァン・モンの動力部たる「心臓」があるという。

 

『チェーーストッ!』


 真っ向から〈ペルーダ〉を斬り落とす、アラザキ大尉が駆る〈アイアン・カッター〉のジゲン・スタイル。まさに鉄をも裂く斬撃に左右に分かたれた騎体は蹴飛ばされ、蝟集(いしゅう)する〈ミルメコレオ〉を巻き添えにして爆発四散した。


『奴ら良か兵児(サムライ)じゃ! まっこと恐れ知らずにゴワス!』

『敵ながら天晴(アッパレ)な奴らにごつ!』

『関心しちょる場合ではなかぞ!』

『まずはイクサ・フレーム編隊を潰せェい!』

『そうじゃ! 編隊なンど組みゆう者は皆変態じゃあ!』


 乱刃の中でも一層〈チェスト・プラトゥーン〉の奮戦は冴え渡った。機銃もタネガシマも電磁ハンマーもロングカタナも、彼らにとっては皆等価なのだ。当たりどころが悪ければ死ぬ、というだけ。恐怖を戦意に変える術はサムライの心得(ココロエ)に違いないが、サトゥーマ(びと)はそれを肌で理解し、実践しているものと見えた。

 

「やはり〈ペルーダ〉の連携が取れていないな」

 

 後方の〈シロガネ〉コクピット内、タネガシマライフルによる支援射撃を行いながら、タツタ・テンリューは独りごちた。


 言うなればその総合スペックは第三・五世代、〈テンペストⅢ〉や〈ロンパイア〉を超える。しかしてその真価は〈ア・バオア・クゥ〉システムによる連携下でこそ発揮される。いわんや、〈チェスト・プラトゥーン〉はそれぞれ一人のドライバーが十人分にも匹敵すると見込まれた剛の者である。〈ペルーダ〉の姿は良いように斬撃される木人めいて見えた。


 敵側は取り急ぎ、連携もロクに取れない、月並みの戦力を数だけ揃えたのだろう。そして量産騎(カズウチ)のスペックなどドライバー次第でどうとでも覆る程度のものでしかない。やはり事前情報は確かであった。


 〈サナダ・フラグス〉を構成する朱色の〈ロンパイア〉が金属柱を複数、やや仰角に構えた。イクサ・フレーム用擲弾筒クニトモ・ランチャー。複数の金属筒から擲弾が〈チェスト・プラトゥーン〉のカヴァーしない場所に降り注ぎ、破裂、炸裂、〈ミルメコレオ〉を引き裂く。

 

 退避した〈ペルーダ〉の胴に突き刺さったのは十字槍。〈ヴァーミリオン・レイン〉の総ヒロカネ・メタル造りの槍は重く鋭い。薙ぎ払う都度、物怪(モノノケ)の叫びめいた風切り音を立てて確実に敵を屠ってゆく。そのコクピットにはフラグス参謀のサナダ・ユキヒロも乗っているはずだが、縦横無尽の機動は後部座席のユキヒロの存在をまるで考慮していないようだった。


 ヤギュウの〈テンペストⅢ〉に際立った武の者はいないように見える。その替わり、部隊自体がイクサのための生物めいて、決して無理なく、突出もなく、着実に敵を減らすことを念頭に動いていた。余程の調練を積んだのだろう。

 

 石段の少し前に差し掛かったあたりで、突如戦列の動きが止まった。


 動きを止めているのは、敵の一部隊である。頭上に瞬くブースターのバックファイア。斬断されるイクサ・フレームは〈アイアン・ネイル〉――〈チェスト・プラトゥーン〉騎か。

 

 その騎体は爆発四散せずに残った〈アイアン・ネイル〉に片脚を乗せ、広域レーザー通信を発した。 


『我らイノノベ軍団の中核を成す〈ダカツ・バタリオン〉なり! 我らありと知りながら、よくもこのヴァン・モンの中にノコノコ入ってこれたものよ! その蛮勇、褒めてつかわそう!』


 自信に満ち溢れた、傲慢そのものの口上である。大型駆体イクサ・フレームの処刑執行人めいたのっぺりとしたマスク、その細い眼眸(アイ)スリットからギラリと剣呑な眼光が、周囲を睥睨(へいげい)するように漏れ出した。

 

 ライブラリ検索――即終了。真造騎(シンウチ)イクサ・フレーム〈ワルキューレ〉シリーズ、そのMK-6たる〈スケッギオルド〉。決して悪くないイクサ・フレームだ。細身に見えるのは、かの騎体が二十三メートルと大型だからであろう。

 

『だがこのイノノベ・ドエモンと〈スケッギオルド〉の首、侮りを受けるほど安くないと思え!』


 大型の長柄斧――バスターマサカリの石突(イシヅキ)で音高く、足元の〈アイアン・ネイル〉の残骸を突いた。


 戦友を斬殺された〈チェスト・プラトゥーン〉の一騎が憤激し、カタナを担ぐように構えた。


貴様(キサン)! なんぞキビヤ=サンば足蹴(あしげ)にしちょるか! (イヤ)ァーッ!』

『フン! サトゥーマの木端サムライめが! 容赦せん! (イヤ)ァーッ!』


 (カン)! カタナとマサカリがぶつかる。

 斬り結びは一度だけだった。バスターマサカリの大振りの刃の後部ブースターから盛大にバックファイアが噴出した。それは〈スケッギオルド〉自身のトルクも合わさって、カタナごと〈アイアン・ネイル〉を二つに断ち割った。


 〈アイアン・ネイル〉が爆発四散する。

 

 その爆炎を縫うようにアラザキ・レンドの〈アイアン・カッター〉とイノノベ・ドエモンの〈スケッギオルド〉が殆ど同時に肉薄。共に得物と得物を撃ち交わす。

 

『オヌシは先の二人よりはやるようだの! 名乗れィ!』

『ドーモ、イノノベ・ドエモン=サン! アラザキ・レンドでゴワス!』 

『ほう! 名前だけは聞いておるぞ、アラザキ=サン!』

『オハンも得物頼みというこつはなさそうでゴワスな!』

 

 サムライの動体視力でも判然としなかったが、まず最初に仕掛けたのはアラザキである。ブースター点火に若干のラグがあることを見抜いての先制攻撃だが、敢えて前に出て受けるという判断をしたドエモンもまた只者ではない。

 

 二騎は図ったように同時にステップ後退し、しばし睨み合った。


『完全にノーマークであったが……貴様相手ならば楽しめそうだ、アラザキ=サン』

面白(おもし)てか! イノノベの嫡孫として恥じんイクサば見せたもんせ、ドエモン=サン』


 アラザキとドエモン、二人は好敵手の思わぬ出会いに昂揚していた。

 

『その首、もらったァ~~~~~~ッ!!』

 

 そのドエモンの横合いから殴りつけようと迫る騎影あり。男の浪漫(ロマン)を介さぬ、サトミ・ヨシノの〈ヴァーミリオン・レイン〉である。彼女は〈ミルメコレオ〉の群れを抜け、すぐその十字槍の穂先を〈スケッギオルド〉に向けた。

 

『アンジ=サン! ウンジ=サン!』

 

 ドエモンの声に応じ、影に控えていた二騎の〈ペルーダ〉が前に出る。カラーリングは対を成すような白と黒。両手両足に攻撃的形状の追加装甲。

 

 有象無象揃いの〈ペルーダ〉の中で、如何にもこの二騎だけが明確に異なる気配(アトモスフィア)を放っている。


 〈ヴァーミリオン・レイン〉の吶喊は緩まない。


『邪魔しないでよね! (イヤ)ァーッ!』

『『(イヤ)ァーッ!!』』


 ――(ガン)! 吹き飛んだのは、〈ヴァーミリオン・レイン〉の方だ。朱色のイクサ・フレームは、石畳に槍の穂先を食い込ませて転倒を阻止。


『何あれユキ=クン!?』

『――〈バルトアンデルス〉技術を使ってる。四肢直接接続型だ』


 ユキヒロは共有ライブラリを参照したのだろう。〈ヴァーミリオン・レイン〉は〈バルトアンデルス〉と直接戦闘を行なっていない。その口調から、ユキヒロの困惑する表情が見えるようだ。


駄目(ヤッセンド)! 下がっちくいもはんか、サナダの!』

『驚いたかサナダの! 貴様の相手はその二騎だ!』

『プラトゥーンもじゃい! 各自雑魚ども相手にしもっせ!』


 鳥居を抜けると〈アイアン・カッター〉と〈スケッギオルド〉が睨み合い、白黒の〈ペルーダ〉が〈ヴァーミリオン・レイン〉を阻むように立ちはだかる。

 

 他の者は雑魚散らしに専念している。テンリューの〈シロガネ〉もタネガシマを撃ち、ロングカタナを揮ってそこに加わっていた。


 数を減らしつつある〈ペルーダ〉はともかく、〈ミルメコレオ〉は斬られ撃たれ吹き飛ばされてもなおどこからか湧き続けるようで、その数は尽きることを知らないように見える。持久戦では不利だろう。


 テンリューはごく冷静に戦況を見つめていた。好機はまだ来ていない。そのときこそ己の出番だと、彼は弁えていた。その時までは脇役でいいのだ、と。

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