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サムライ・エイジア  作者: 七陣
第11話「マシニング・ラクシャス」
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2 乱戦

 壁にはパイプやダクトが一見無秩序に這い回っている。薄暗い通路を照らすのは、ところどころに配された常夜灯籠のケミカルライト。

 

「突入から三十分、変わりがなさすぎて飽き飽きしてきた(のう)


 〈グランドエイジア〉後部座席、そこに座るユイ・コチョウがいささか辟易(ウンザリ)したように言った。

 

「異常はない?」

「ない」


 ナガレの問いにコチョウが即答を返す。

 

 前方、先行した騎体が監視カメラやドローン、セントリーガンやブービートラップを的確に破壊している。途中、野晒しにされた残骸も散見された。過去の戦役で犠牲になった騎体の成れの果てだろう。

 ナガレたちの出番はまだない。

 

「内部構造なども、こちらの参照データと変わっておらぬ」

 

 コチョウは端末の画面を見ながら、一秒おきにスワイプめいた指の動きをしていた。

 

 〈グランドエイジア〉ver.1.2はコクピットを丸ごとリフォームし、正式に後部座席もつけていた。そこは半ばコチョウ専用のために設けられたものであり、彼女が直接電子的干渉を行なうための装備もされている。他の騎体の通信も、今の〈グランドエイジア〉には筒抜け同然である。


 コチョウたっての願いで、彼女は今同道している。宇宙要塞ヴァン・モンの中枢CPU――通称「脳」を、今想定しうる限り最も容易かつ穏健な手段で制御下に置けるのは、電子海賊ミズ・アゲハしかあるまいというのがこの戦場にいる誰しもの見解である。

 

「それでも嫌な予感しかしないのは、何故なのだろうな?」


 嫌な予感ならばナガレ自身、要塞に足を踏み入れた当初からずっとしている。露骨なほどに怪しいアトモスフィア。危険だ。


「罠だろ」

「戦術的なブービートラップではなく、もっと巨大な陥穽(オトシアナ)だ。オヌシも気をつけよ、ナガレ=サン」

 

 先行していた〈ロンパイア〉が金属ドアの丸取手を開ける。圧搾空気が吹き出し、ドアが開く。

 

 繋ぎの通路に奥ゆかしく立ち並んだ、錆の浮いた七体の地蔵菩薩金属像を通り抜けると、広い空間に出た。光源のない闇を、イクサ・フレームの処理能力が補完してスクリーンに投影する。

 

 そこが居住区であることに、ナガレはすぐ気づいた。重力はほぼ1Gで安定。強化アスファルトで舗装された道路。小型の武家(サムライ)屋敷とそれを囲むように建てられた長屋(アパルトマン)。銀河戦国期や戦後すぐの地方都市を小型化して模倣したような風景だ。

 

 ヴァン・モンが公に使用されていた際、サムライやその家族の住居として用いられていたに違いあるまい。

 蛍光色のケミカルライトが埃の粒子に反射している。住民の気配はない。ここに住む者が絶えて久しいことは明らかだ。

 

「来るな」

「ああ」

 

 コチョウの呟きに、ナガレも頷いた。待伏(アンブッシュ)にはいいポイントだ。天井も高くない。少なくとも、イクサ・フレームのジェット戦闘機めいた飛行性能を活かせる場ではない。


 入口の金属ドアが閉ざされる。


 程なく、四方から出現した。蟻にも似た大型無人多脚戦車〈ミルメコレオ〉。全長は十五メートル。数は大量。


 出現を、ドライバーたちは皆予感していたに違いない。BRATATATATATATAT!! BRATATATATATATAT!! イクサ・フレーム隊は屋敷を始めとした建物を防壁として、アサルトタネガシマで即応戦。

 

 BRATATATATATATAT!! BRATATATATATATAT!! 銃撃によって撃ち抜かれ、撃ち据えられ、撃ち砕かれてゆく〈ミルメコレオ〉。頭部触覚の機銃で応射する〈ミルメコレオ〉。


 猛烈なる両陣営からの銃撃。白い強化土壁が、バイオウツギを生やした強化生垣が、強化瓦が、銃弾によって穴を穿たれてゆく。削れてゆく。

 

(イヤ)ァーッ!』


 シャウト一声、敵陣に踊り込んだイズモ・アヤメ少尉の〈ワイヴァーン〉が揮ったのは連なる円盤――連結型(チェーン)爆雷(マイン)である。鞭めいて(しな)ったそれは宙で切り離され、バラバラになって弾けた。

 

 BAAAAAAANG! 破片と共に徹甲ベアリング弾やボルトや撒菱(マキビシ)が〈ミルメコレオ〉らを引き裂く。


 アヤメ騎が高くジャンプして離脱するのを見計らい、彼女の部隊に属する〈エイマスMk-2〉がバズーカのトリガーを引く。KRATOOOMM!! Hナパーム弾が炸裂し、爆炎が上がる。爆轟が蟻の身体を破砕させる。


 炎を上げる〈ミルメコレオ〉の身体が飛散し、強化生垣に落ちた。みるみるうちに炎が燃え広がるが、イクサ・ドライバーは一切気にしていない。

 

 数が多い。〈ミルメコレオ〉は穴だらけにされながら、僚機の残骸を連ね、並べ、重ねて、防塁として踏み越えてくる。

 

(イヤ)ァーッ!」


 (ザン)! (ザン)! (ザン)! 肉薄する〈ミルメコレオ〉の群れを、〈グランドエイジア〉のロングカタナが斬り裂いた。

 〈グランドエイジア〉左腕部、〈ミルメコレオ〉掃討用装備であるタネガシマガトリングガンが唸りを上げる。DRRRRRRRRRRRRRRRRR!! 回転銃身の銃口が火を吹き上げ、重金属合金弾が〈ミルメコレオ〉を薙ぎ払う。


 横手、爆発が上がる。

 

 〈ミルメコレオ〉のものでは、明らかにない。イクサ・フレームのカルマ・エンジン爆発。

 

 その場のドライバーの意識がその方向を向いた。

 

 爆炎を背に立つ、イクサ・フレーム群。〈ペルーダ〉を従えた〈スティールタイガー〉。傭兵部隊〈ローニン・ストーマーズ〉。

 

『――マクラギッ!』

 

 敵意を剥き出しにしたのは、ヤギュウ・ハクアだった。疾走するハクアの〈テンペストⅢ〉。立ちはだかる〈ミルメコレオ〉と〈ペルーダ〉。

 

「チィーッ! 疾走(はし)らすぞ、コチョウ=サン!」

「やれ!」

 

 ナガレも呼応して〈テンペストⅢ〉を追った。疾走する〈グランドエイジア〉。加速によりGが発生し、コクピットのナガレとコチョウに襲いかかる。コチョウのゲイシャドール筐体は通常より軽量のものだが、それでも押し殺した彼女の呻き声をナガレは聞いた。

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