表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サムライ・エイジア  作者: 七陣
第10話「イクサ・フレイム・ウィズイン」
121/147

7 遅れてきた黒鋼

 強襲母艦〈99マイルズベイ〉艦橋(ブリッジ)、レーダーがヴァン・モン廻廊に接近する艦艇を捕捉した。

 

 ライブラリ検索結果が出るのを待つまでもなく、タツタ・テンリューにはわかっていた。電子戦艦〈フェニックス〉である。

 

「遅かったじゃないか……」

 

 テンリューが呟く。別に呼応した訳でもあるまいが、〈フェニックス〉が広域通信を行いながら最大戦速で向かってきた。

 

『遅参相済まぬ! 遅れは……戦場にて取り戻す!』

 

 〈99マイルズベイ〉とすれ違った〈フェニックス〉の腹が開いたのが見えた。

 

 その中で待機していたイクサ・フレームが、出撃する。黒鋼のイクサ・フレーム――紛れもなく〈グランドエイジア〉だ。背中には四〇メートル近い長さの、漏斗状ブースターを二基装備している。


 ブースターの後尾から盛大に吐き出される推進炎の残光を残して、〈グランドエイジア〉が廻廊へ突入する。心配はしなかった。デブリも敵も大幅に数を減らしているから、進路上は大分クリアなはずだ。

 

 その様子を見て、テンリューは告げた。

 

「出陣する」

 

 ノダワ艦長とタノメ大佐が苦笑を浮かべ視線を交わした。若造の浅慮を嗤ったのだろう。予め、テンリューは出陣を告げていたとしてもだ。


 テンリューは怒る気にもなれなかったし、その資格があるとは思えなかった。

 ただ、ここで出陣しなければ、上に立つ者としての資格を遠からず失うことは理解していた。

 

 副官であるイズモ・アヤメ少尉も同行する。後ろに続くのは、テンリュー直々に抜擢(ばってき)したドライバーたちである。

 

 格納庫で既に待機状態にあった乗騎に乗り込む。システムオールグリーン。スクリーンが周囲画像を投影し、T-GRIPを握る。


 ウインドウでアヤメの顔が映り込んだ。彼女もまたイクサ・フレームに騎乗していた。


「少尉、私は先行する。貴官は部隊を率いて後詰めをせよ」

『承知しました』


 アヤメは短く応える。

 それはテンリューの技倆(ワザマエ)を信じているから、というだけではない。テンリューという男を試しているからでもあった。

 

 イズモ・クラン。彼らの協力を得るには、その期待に応え、また彼らを御せる男であると示し続ける他ないのだ。

 

 テンリューが身分不相応の階梯を登るために、功績(イサオシ)を証明する必要があった。そのために、時には命を危険に晒す必要もあった。今までも、これからもそうだろう。

 出世だけが彼の望みではない。階級やそれに付随する特権は、己の目的の道具でしか無いことをテンリューは熟知していた。


 目的の実現のために、タツタ・テンリューは闘うことを選んだのだ。その点では、サスガ・ナガレと同じだと言える。


 それに、彼も戦場(イクサバ)は決して嫌いではない。闘っている間は、多くの煩雑で些細な事柄は忘れていられるからだ。

 

 ハッチが開き、宇宙空間の闇をさらけ出す。

 

 ただひとつ、煩雑でも些細でもなく、どうしても忘れられないこと。それは――

 

「タツタ・テンリュー、〈グランドエイジア・シロガネ〉、出陣ッ!」


 思い浮かんだミサヲの姿を脳裏から拭い去り、テンリューは出撃した。シルヴァーグレイのイクサ・フレームに力を託して。


 × × × ×


 加速し続ける〈グランドエイジア〉のコクピットの中で、サスガ・ナガレは歯を食いしばって襲い掛かるGに耐えた。


 スクリーンに投影されるのは、高速で流れてゆく風景。残存戦力と交戦するイクサ・フレーム。スペースデブリ。流れ弾。片腕を失った白系統色の〈テンペストⅢ〉が僚騎に支えられながら撤退してゆく。

 

 正面、光条が〈グランドエイジア〉の数センチ右を掠めて伸び、途切れるようにして消えた。ナガレは思わずヒヤリとする。

 

 同時に、三つの爆光が宇宙に大輪の花を咲かせていた。カルマ・エンジンが爆発四散した痕跡だ。

 

 爆発の中央に立つ騎体にオートフォーカス、鮮明拡大化。全長五〇メートルの異形の人型だ。肩部装甲にはおぞましい字体の「バルトアンデルス」の八文字。

 

 ナガレの背筋に氷の虫めいて寒気が走る。〈バルトアンデルス〉なる騎体が纏うドス黒いカルマを、実感を持って感じたからだ。

 

「あいつは……!」

 

 ナガレのニューロンに直感が兆した。直後、〈グランドエイジア〉の方を向いた〈バルトアンデルス〉の鬼面めいた頭部、その口腔の奥が赤く発光した。

 

「チィーッ!」

 

 鋭く舌打ちしながら、ナガレは〈グランドエイジア〉のブースターを両方共切り離す。速度が僅かに緩み、〈バルトアンデルス〉のショックビームが〈グランドエイジア〉の少し手前を奔って消えた。このまま突っ込んでいたら直撃コースだったろう。

 

 一方で、パージされたブースターがロケット弾のように〈バルトアンデルス〉へ襲いかかった。〈バルトアンデルス〉は腕部機銃で一基を破壊、もう一基は蹴りで軌道を逸らす。

 

 逸らされたブースターが、〈バルトアンデルス〉のずっと後方で爆発四散の爆炎を上げた。「ヴァン・モンの顎」を超えて「口」へ飛び込んだようにも見えたが、今のナガレには確かめる暇はない。最早交戦中であり、ブースターを切り離すその間にも〈グランドエイジア〉は前進しているのだ。

 

 ナガレは右肩部に懸架したロングカタナの柄に両の手を掛けた。〈グランドエイジア〉と〈バルトアンデルス〉、二騎の間合はもうすぐ相互攻撃可能範囲――撃尺の間(ゲキシャク・レンジ)に至ろうとしている。


「ドーモ、ミズタ・ヒタニ=サン! サスガ・ナガレです!」

『ドーモ、サスガ・ナガレ=サン! ミズタ・ヒタニです!』


 果たしてどちらが先にレーザー通信を放ったのか。敵愾心に満ちた挨拶を交わし、二騎の視線が交錯する。


「そのドス汚れたカルマ! やっぱりテメエ、ミズタ=サンだな!」

『貴様を殺すべく、身も心も悪魔にくれてやったぞ! 俺がそこまでしてやったのだ、有り難く死ねッ!』


 (ギン)ッ! 〈バルトアンデルス〉の右腕クローと〈グランドエイジア〉のカタナがぶつかり合った。

 

 そのまま拮抗する。〈バルトアンデルス〉の腕は円筒状で指がなく、丸まった先端から四本のクローが飛び出ていた。


笑止(ハッ)! そこまでしないと俺には勝てないってことか!」

『ほざけ!』


 弾かれたように二騎が後方へ退いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ