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サムライ・エイジア  作者: 七陣
第10話「イクサ・フレイム・ウィズイン」
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4 初めに艦砲あり

 人類は本来存在しないものを観測し、定義づける能力を持っている。

 本来存在しないはずの宇宙空間の上下もまた、人類は観測し、定義づけた。即ち北極星の存在する方を天頂として上下を定めたのだ。これは宇宙開拓から遥かな時を経た、惑星ヤマトでも変わらずに用いられている基準である。

 

 ヤマト文明に於いて北極星は別名「ムラマロの眼」とも呼ばれる。天頂に〈ファースト・ショーグン〉タケウチ・ムラマロ座が睨みを効かせ、サムライたちの善行や悪行を絶えず監視しているという。

 

「ムラマロの眼」がかそけき光を放つ中、タツタ・テンリューは強襲母艦〈99マイルズベイ〉艦長ノダワ少佐へ合図を下した。

 

 ヴァン・モン正面廻廊に入る手前で、〈99マイルズベイ〉の艦対艦エネルギー砲が飽和寸前のエネルギーを弓矢めいて解き放たれた。ビームは空間を真っ白に染め上げながら直進し、回廊に散らばる大小無数の宇宙浮遊物(デブリ)を蒸発させていった。

 とは言え、全てが消えた訳ではない。七割以上が残存していた。

 これでも上々と言うべきだろう。このデブリの中に点在する各種ドローンの中には、他のデブリを誘引・誘導し、攻城側への障壁と為す機体も存在していた。

  

 加えて不可視の重力回廊が、ヴァン・モン要塞後背から前方へ、円筒状に展開されていた。要塞本体は重力バリアで覆われ、艦砲攻撃すら受け付けない。詳細は不明だが恐らくは銀河戦国期以前の封印技術(ブラックテック)ではないかと推測されている。

 

 廻廊の径は大型艦艇一隻がギリギリ入れるほどの幅しかない。廻廊の外から内へ、イクサ・フレームを進入させること。それがこの要塞を攻める数少ない手立てであった。

 

 艦艇のエネルギーがダウンする前に、〈99マイルズベイ〉はその内部に抱えた戦力の投入を決定した。

 

「行けるか、アラザキ大尉?」

『我ら、ただチェストあるのみ!』 


 タツタ・テンリュー少佐の指示に、出撃準備状態のアラザキ・レンド大尉は狂的とも思える闘争本能を表情に漲らせた。元が端正な顔立ちだけに、その度合はかなりの強度を思わせる。

 

 先陣を切って、アラザキ大尉率いる〈チェスト・プラトゥーン〉が出撃した。アラザキ家はサトゥーマ・クランの分家筋、三代前の頃のバトル・オブ・セキガーラの折、イノノベ・インゾーその人によって煮え湯を飲まされた過去がある。長きに亘る隠忍の日々の雪辱を念じていたアラザキ大尉はイノノベ追討令を知りいても立ってもいられず、故郷を出奔して最低限の家臣たちと共に〈トヨミ・リベレイター〉に馳せ参じたのだという。

 

『郎党! 我に続けェーーーーいッ!』

『『『ウオオオーーーーーッ!!!』』』 


 騎体はアラザキ大尉が宇宙仕様〈アイアン・カッター〉、他は〈アイアン・ネイル〉。最後尾の騎体が「殺魔」の禍々しい字体(フォント)旌旗(フラグ)を宇宙空間に掲げ、これ見よがしに翻らせた。エアー噴出等による演出だ。

 

『チェストォーーーーッ!』

 

 防衛攻撃型ドローン〈カカシMK-41〉を襲う、真っ向からの一刀。ジゲン・スタイルの〈カラタケ・ケン〉が〈カカシMK-41〉を陣笠レドームを被った頭頂部から股関節まで斬り下げた。


『若! 何でタネガシマ使いもはん? 初手より白兵は危険にごつ!』

『弾が勿体なか! 借り受けち騎体の調子も確かめんとな!』

『考えわかりもした!』

『よく出来た惣領にごつ!』


 爆発四散したドローンの横をすり抜け、それぞれが次の獲物へ襲い掛かってゆく。サトゥーマ・クランのサムライの剽悍さは、古は地球時代の海賊氏族(ヴァイキング)、近くはカムクラム時代の古サムライ・ベルセルクにも匹敵するという。まさに蛮勇の二字に相応しく当たる敵を次々に斬り捨ててゆく姿は、ドローンすら恐れを為したかのように思われた。

 

〈99マイルズベイ〉からの鮮やかな抜駆(ヌケガケ)。他の陣営は泡を食って出撃を決定した。

 

 ヤギュウ家強襲母艦〈トミヤマ〉からハクアの薄紅カラーリング〈テンペストⅢ〉と彼女率いる〈テンペストⅡ〉部隊が、そして〈サナダ・フラグス〉旗艦〈シナーノ〉から赤備(アカゾナエ)のスケヒロ工房製第3世代新式量産騎(カズウチ)イクサ・フレーム〈ロンパイア〉部隊が出撃した。

 

 無論、要塞側も決して自動化された防衛機構に任せきりという訳ではない。次々と出撃してゆく戦力。暴力的なまでの火砲が要塞側から撃ち出される。タネガシママシンガンが、大型機銃が、クニトモ・ランチャーが、可搬式(セミポータブル)ビーム砲が、火線を吐き出す。弾幕を成す。降り注ぐ!

 

 BRATATATATATATATATA!! BRATATATATATATATATA!! KRATOOOOOOOOOOOOOOOMM!! VEEEEEEEEEEEEEEEE!!

 BRATATATATATATATATA!! BRATATATATATATATATA!! KRATOOOOOOOOOOOOOOOMM!! VEEEEEEEEEEEEEEEE!!

 

 無論宇宙空間に音はない。イクサ・フレーム内部コクピットのドライバーは、電子的再現された銃撃や砲撃の音を聞き、その危険性を即座に判断し、回避運動に移る。

 

 躱せぬ者に襲い掛かるのは無慈悲な死の運命だ。〈チェスト・プラトゥーン〉の後に続いて出撃した〈ワイヴァーン〉部隊、その一騎が流れ弾に電脳を撃ち抜かれて行動不能になる。

 

 背後からも火砲が飛ぶ。強襲母艦による支援砲撃。これは〈カカシMk-41〉が盾となり次々に爆発四散してゆく。しかし後方のイクサ・フレームには届いていない。

 

 そして攻撃から30分。

 ヴァン・モン守備側と攻撃側、その両方が互いを3次元ジャイロ羅針盤の射程内に捕捉したのは殆ど同時である。

 

『チェストォーーッ!』

 

 アラザキ・レンド大尉が逆袈裟に〈アイアン・ネイル〉を斬り裂いた。


『若! こン部隊、全騎〈アイアン〉系列にゴワス! お気をつけられもせ!』

『誰ン言うちょるかキビヤ=サン! 俺がお(ハン)ら斬るち思うちょるか!』

『……言うち、ヘンダ=サンが斬られちょりもす!』

『あン時ゃまっこと死ぬち思うたごつ!』

『よか! オイらが気をつけちょればよか!』 

『『『WAHAHAHAHAHAHA!!』』』


 無論どの騎体にも敵味方識別マーカーは正常に作用している。しかし乱戦の場合、フレンドリーアタックが生じる可能性はどうしてもゼロにならないのである。しかし、戦気に高ぶったプラトゥーンは皆高らかに笑い飛ばした。そのようなことは死んでから憂えばいい! 今あるのは目の前の敵をひとつでも多く斬戮(チェスト)すること! それあるのみ!


 ヤギュウ・ハクアは彼らよりは多少なりとも冷静に戦場を観察していた。敵ドローンは概ね掃討した。イクサ・フレーム群へタネガシマライフルを二発撃ち込みつつ、己の預かった部隊を指揮し、敵の守備の薄い部分を徐々に削ってゆく。


 PPP! 電脳が敵騎接近を警告する。スクリーンに映った騎体は重装甲の〈ペルーダ〉だ。装甲の細かい部位が記憶によるものと異なるのは宇宙仕様だからだろうか。

 

 BRATATATATA! 〈ペルーダ〉のタネガシマ・ヘヴィマシンガンが広域に弾丸をバラ撒く。ハクアはそれを舞うような機動で回避、射線を巧妙に避けながら接近しつつタネガシマライフルで牽制する。(BLAM)! その一撃で〈ペルーダ〉の銃が破壊された。

 

〈ペルーダ〉がタネガシマの残骸を捨て、肩部装甲にマウントしたナギナタを抜いてハクアの〈テンペストⅢ〉に斬りかかる。その動きは教本通りで丁寧だが、それ故に却って読み易い。

 

 直線的に揮われたナギナタを紙一重で後方移動回避しながら、ハクアはタネガシマを一射した。(BLAM)! 〈ペルーダ〉の頭部電脳に穴が開き、行動不能に陥った。

 

 ハクアは戦闘不能騎をそのままにした。動けない相手を介錯(カイシャク)する趣味はない。例え宇宙漂流が精神異常を引き起こす恐るべきものだと知識で理解していても、敵を助ける精神的余裕など、今のハクアにあるはずもなかった。

 

 ハクアは顔に浮かんだ汗を手で拭った。合成素材製の身体にフィットした白いスーツが、彼女の美しく豊満な肢体を強調していた。

 多くの技倆(ワザマエ)に自身を持つサムライと同様に、彼女は宇宙戦でも非常時にしかヘルメットを着用しない。視界が狭くなるからだ。ポニーテールはまとめて結い上げ、ヘルメットは一応後部収納に置いてはあるが、それを積極的に被ろうとは思わなかった。


 敵騎は確認出来るだけでも〈アイアンⅡ〉系列騎、〈ワイアーム〉、〈ワイヴァーン〉、〈グレイブ〉……そして〈ペルーダ〉。

 雑多だ。雑多という他ない。

 

「……〈ペルーダ〉への騎種転換はまだ進んでいないようですね」

 

 コクピットの中でハクアが独りごちる。〈ペルーダ〉の残骸からそのデータを検分したが、〈テンペストⅢ〉を始めとする第3世代量産騎(カズウチ)イクサ・フレームの多くに優越するスペックを、その騎体は誇っていた。

 

 無論試算データである。しかし敵が〈ペルーダ〉の数を揃えた上で襲ってくれば、恐るべき脅威となったに違いない。数を揃えさせる余裕を与えないという意味でも、即戦を決定したのが正しかったとハクアは考えた。

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